表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/74

第35話 一時の休息

 夕方。

 俺とエッタは、ハイデルベルグ王国首都ミレハイムに到着した。

 日も落ちかけていたことから、街には寄らずにまっすぐハイデルベルグ城へと帰還する。

 城の門番の兵士たちが俺の姿を見かけると、すぐにこちらへと駆け寄ってきた。


「ロイ殿。長旅お疲れさまでした。先日使われた来客用の部屋をご用意しております。今、メイドを呼びますので、このままお待ち下さい。

 馬はこちらで引き受けますね」


「えぇ、頼みます。他の2頭はちょっといろいろありまして…………すみません、すぐには戻りそうもなくて、そもそも戻るかどうかも怪しいというか…………」


「わかりました、大変な任務であったと聞いていますし、どうかお気になさらないでください。

 ……ところで、そちらの方はどなたでしょうか?」


「は?」


 門番たちがエッタを見て首をかしげる。

 いやいや、何言ってんの? この娘、あんたの国のお姫様じゃ……?


「私はこの者の旅の仲間だ。気にせずとも良い。ちち…………王にも話は通っている」


 ……あ、そうか! そういやエッタの存在って親馬鹿王のせいで秘匿されてるんだっけ。

 それにしたって、自国の門番すら知らんのかよ…………どんだけ徹底してやがるんだ、あのおっさん。


「お、王に……ですか…………?」


 困惑する門番たちは、助けを求めるように俺を見る。

 適当こいた大ボラにしか思えないのだろうが、俺の連れだからどう扱うか困っているのだろう。 


「あー、信じられないとは思いますが、事実なんです。

 こいつのことは、あまり気にしないでやってください」


「は、はぁ…………」


 迷いはあるものの、自分ではどうしようもないことを悟ったのか、結局門番は俺たちが乗ってきた馬を引き連れて行き、残った門番は微妙な顔をしながら俺とエッタを城へと通したのだった。




 人払いを目的とした貴賓室に、俺とエッタが招かれた。

 扉が閉まった瞬間、ハイデルベルグ王がいきなり突撃してきた。


「ジュリエッタ!!! おおおおお!!! 俺のかわいいジュリエッタよ!!!! よく戻った!!!! 道中大変だっただろう!!!?」


「父上、ただいま戻りました。なかなかに興味深い旅でした!」


 すごい勢いでいろんな顔のパーツがタレまくってるハイデルベルグ王にエッタが抱擁される。

 ハイデルベルグ王は体格がいいので、あの巨体が突撃してくると横にいるだけの俺でも普通にびびるのだが、エッタは平然と受け止めて感動的な親子の再会を果たしていた。脳筋親子ですわぁ。


「そうかそうか、いろいろとあったのだな!!!」


「はい! この旅を通して、妾は様々に成長したと言えます!」


「おお、さすがは我が娘よ!!!

 今日はゆっくり休むといい!!!!

 後で、たっぷりと話を聞かせておくれ!!!!」


「はい、父上!!」


 王との抱擁がとかれると、エッタに一人の侍女がついて貴賓室を出ていった。

 着替えにでも行くのだろう。


「ロイよ、よく戻ってきたな!」


 ハイデルベルグ王が俺の両肩をバシバシ叩いてきた。痛い痛い。


「どうだ? ジュリエッタの相手は大変だっただろう?」


「いえ、そんなことはありませんでしたよ。殿下は自分のことは自分でしていましたし、わからないことでも私たちの真似をしたり尋ねたりして、いろいろなことに率先して自分からとりかかっていましたから。

 殿下という身分とは思えないほど手がかかりませんでした」


「ほう」


「多少のトラブルはありましたが、殿下の強さの前ではまったくと言っていいほど支障はありませんでしたね。あの様子からもわかりますが、怪我もありませんでした。

 …………一部、例外はありましたが」


「例外だと?」


 レッドドラゴンのことだが、俺から言うと無駄にとばっちりを受けそうなので濁しておくとしよう。


「そのあたりは、殿下ご自身から聞いてください。

 とにかく、殿下が俺たちに無用な迷惑をかけるということはありませんでした。

 同行すると聞いたときには不安しかありませんでしたが、今はむしろ、心強い旅の仲間だったと思えるくらいですね」


「ほう…………お前がそこまで認めるか」


 王が興味深そうに何度か頷いた。


「ところで、モニカはどうした? 姿が見えんが」


「モニカには帝国に残ってもらっています。あいつには、厄介事を押し付けて…………頼んできましたので」


「……そうか、今度こそあのプリケツを揉みしだいてやろうと期待に胸を膨らませていたというのに」


 おっさん、おっさん。真剣な顔をしながら指ワキワキするのやめてくれませんかね? あれだけモニカに断られまくってるのに懲りないよね。

 王は諦めたようにため息をついて残念そうにしていたが、すっと表情が切り替わった。

 鷹の目のように鋭い眼光を有した王の顔が現れる。


「それでどうだ? 帝国の動きは何かつかめたか?」


「そうですね。軍としての動きはあまりわかりませんでしたが、一部街に慌ただしい部分はありそうです」

 

 俺は帝国で見聞きしたことを王に報告すると、王は沈痛な表情を浮かべた。


「…………そうか。トゥリエルズが無条件降伏、か。

 勇者ユエルの存在は、それほどまでに反抗する意志を砕くのか」


「トゥリエルズが小国で、しかも帝国の動きを知ることなく交渉されたことも大きいでしょう。

 おそらく周囲の国との連携がまったく取れなかったのでしょうから」


「そうだな。我らとて、対抗できる力はあれど絶対的な戦力差は歴然としている。ましてや小国となれば象とアリだ。

 ……トゥリエルズは、みすみす兵を死地に追いやることなどできなかったのだろう」


 王は同情するような眼差しをしていた。


「ロイよ、ご苦労だったな。今日はゆっくり休んでくれ。

 こちらに入ってきている暗部の報告では、未だ戦の様子は伺えないとのことだ。数日中は明確な動きはないだろうが、トゥリエルズの件もある。万一の急襲に備えて、将軍たちと話し合っておくこととしよう」


「わかりました。俺で力になれることがあればお声がけください」


「うむ、そのときは頼むぞ」




 ◇ ◇ ◇




 王の報告を終えた後、俺は王お抱えの自慢の料理人が振るったうんまい夕食を頂き、糞でかい風呂を堪能した。


「ぷひ~~」


 客室に戻ってきた俺は、ばふっっとベッドにダイブして、シーツに埋もれる。

 あぁ~~、凄く気持ちいいですーー。寝るのには安宿のベッドのが身体に合うけど、こうやって休む分にはやっぱり王城の高級ベッドはたまらんですよねぇ~。夢心地~~。

 俺が3人くらいは寝られそうなベッドでゴロゴロ転がっていると、ドアがノックされた。


 こんな時間になんだろ…………はっ!? もしかして、俺に一目惚れしたメイドさんの夜這いでは!? うおおおお、こうしちゃいられん!!! 勇気を出して俺のところへと来たメイドさんを出迎えねば!!!!


「ロイよ、いるか? 妾だ」


「……いますよー。どうぞー」


「うむ! …………なんだ? 何かあったのか、ロイ?」


 がっくりと項垂れた俺を見て、ゆったりとしたナイドドレスを着たエッタが不思議そうに首をかしげた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ