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第31話 VSレッドドラゴン 4

 強くなりたかった。

 誰よりも、何よりも。

 渇望が、激情が、俺を支配し動かす。


 幾度もの戦いを経て、幾度もの敗北を乗り越えて、いつしか俺は剣聖と呼ばれるようになっていた。

 やがて俺は魔王に辛勝し、名実共に最強となって…………。



 その結果が、これか?


 蒼炎がエッタを包み込んでいく。

 見た目には柔らかな炎はしかし、触れたモノの存在を即座に消していく地獄の炎だ。

 


 ユエルのようなすべての魔を払う力もなく、モニカのように死に瀕した者を救う力もなく、ティアンのように他を圧倒する魔法の力もなく、スヴェンのような疾風と同化するような力もない。

 俺には剣しかない。


 だというのに、俺には剣がある(・・・・・・・)と慢心していた。

 剣さえあれば、自分の力でどうとでもできると自惚れていた。舐めていた。


 どうにもできなかったことなど、いくらでもあったのに。

 ユエル達と共にいたことで、俺は一人で旅をしていたころのことを都合良く忘れてしまっていた。

 



 その結果が、これなのか?

 また、間に合わないっていうのか?



 …………なんだ、それは。

 ふざけるな。

 本当にふざけるんじゃねぇ。


「…………」

 

 違う。

 これは違う。これは過去じゃない。終わっちまった過去じゃない! 今なんだ!!


「…………ッ!!」

 

 くそ、ただ走るだけじゃ間に合わねぇ。

 剣技を使うだけの集中を高める暇もない。

 なら、俺にできることは……。


 真似る。

 身体が思うままに。

 あいつがどうやって動いていたのか思い出せ。

 足運びは? 体幹は? 剣技のような集中を必要としないなら、その代わりはなんだ?

 出来る奴と出来ない奴がいる? その差はなんだ? 必要とするモノが何かあるのか?


『ちがうちがう!! もっとぶわぁあああっという感じだ!!』


 ぶわぁあああってなんだよ。もっと具体的に言ってくれよ。

 

『集中するのは大前提だが、妾はそこまで意識はしていないな。

 それよりも、もっと大胆にどかーんっとなる方が大事だ!』


 どかーんってお前、それじゃまるで…………まるで………………、




 瞬間、世界が切り替わった。


「ぐおっ!?」


 ぐんっと、急激に身体が振られる。縄で縛られて無理矢理に引っ張られているようだった。

 周囲が物凄い速さで俺を追い越していく。

 

 いや、違う! 俺が高速で移動しているんだ!!


 とんでもなく遠くに思えたエッタとの距離が、ぐんぐん消えていく。

 あっという間に俺はエッタの元に辿り着き、エッタを包む業火を瞬時に魔剣レーヴェルスフィアで斬り捨てる。


「なに!?」


 振り返ると、片手をこちらに伸ばし蒼炎を射出するレッドドラゴンが大口を開けていた。

 馬鹿面こいてんじゃねぇよ!


風嵐絶華(ふうらんぜっか)ッ!!」


 俺は迫り来る蒼炎を斬りまくりながら、レッドドラゴンへ速攻で接近していく。

 ぱぁんッと何かが弾けるような音がして、レッドドラゴンは慌てて蒼炎を消し、右手で拳をつくった。


「きさ……」


「くたばれ」


 連続突き。

 レッドドラゴンの右腕を掻い潜り、剣で顔面、喉、心臓を一息で突いた。


「…………かはっ」


 心臓を突いた剣は深く刺さり、完全に身体を貫通していた。文句なしの致命傷だ。

 レッドドラゴンが血を吐き、よろけて俺にかぶさってくる。

 俺はレッドドラゴンの身体を蹴り、その勢いで剣を抜き踵を返して走った。


「エッタ!!!!」


 叫んでどうにかなることじゃない。それでも叫ばずにはいられなかった。

 魔剣レーヴェルスフィアで斬り捨てた蒼炎は消えていたが、遅かった。間違いなく炎はエッタを焼いていた。

 だが、即死でなければ俺の手持ちのポーションでもどうにかなるかもしれない。ポーションで少しでも傷を治癒させて、どこか近くの教会にでもいるヒーラーに見せれば間に合うかもしれない。


「エッタ、しっかりしろ!!!!!」


 俺は懐からフル・ポーションを取り出して膝をつき、仰向けに倒れていたエッタを抱え起こす。エッタの口にポーションを流し込もうとして…………。


 …………………………。


 あれ?


 ちょっと待って?


 なしてこの娘、無傷(・・)なの……?


 思わず俺が固まっていると、エッタがぱちりと目を開けた。


「はぁー、びっくりしたぞー」


 エッタが大きく息を吐いて、まばたきをしている。


「急にパンッとこれが弾けたのだ!

 ロイよ、そういう仕掛けがあるなら先に言っておいて欲しかったぞ!」


「…………仕掛け……って、なに?」


「これを見ろ」


 エッタが上目遣いで近づいてくる。エッタの顔が迫ってくる。めっちゃ至近距離になってきてる!?


 え!? なにこれ、突然の接吻? マジで!?


 エッタの柔らかそうな唇が俺に迫ってきて、思わず俺は硬直してしまう。で、あっさりと通り過ぎた。


「ほら、これだ、これ! あの蒼い炎に焼かれたと思ったら、突然ブローチがパァンっと弾けたのだ!

 それで急に周りが白く光ってな。妾は一瞬気を失っていたのかもしれん!」


 エッタが興奮した様子で、俺に左の鎖骨付近を見せてきていた。

 そこには、ハンマーか何かで砕いたような残骸となった碧色のブローチがついていた。


「…………そう」


 想像以上に無気力な声が出た。

 キスフェイントにはがっかりだ。

 心底がっかりだ。


 ……が、ちょっと待ってくれ。

 女の子の鎖骨を近づけられるって、それはそれでなんかエロいよね。首筋からはイイ匂いと汗の匂いが混ざって、ちょっと中毒性のありそうな香りがするぞな。きゃっほぅ!


「父上からは物理、魔法の両面に対する耐性が優れた服を渡されていたが、さすがにあの炎相手では分が悪かっただろう。

 妾も内心冷やっとしたぞ!」


「へぇ。よくわかんないけど無事でよかったね」


「うむ。妾は運がいいからな。くははははははははは!!!」


 お決まりのエッタの高笑いを聞いていると、急激に力が抜けてきたよ。

 俺は尻餅をついて座り込み、大きく息をついた。


「しかし、せっかくそなたに貰ったブローチがダメになってしまった。

 ロイよ、早々に壊してしまいすまないな……」


「いいって、いいって。気にするなよ。お前が無事ならよかったよ」


 ぽんぽんっとエッタの頭に触れて軽く撫でる。


「………………ロ、ロイ?」


「なんだ?」


 エッタの奴、なんかソワソワしているように見えるがどうしたんだ?

 というかブローチにあんな特殊効果あったことなんて、すっかり忘れてたな。

 そういや買うときに、一度だけ一定以上の攻撃魔法に大して強力な耐性効果をもたらすだのなんだのって言われた気がするわ。姫さんに贈るものだから、そこそこの値段がするのを選んだけど、デザインじゃなくて性能での値段だったんだな。


「そ、その…………いや、よい。なんでもない……」


 妙な様子のエッタは気になるけど、まぁ本人がいいっていうならいいか。

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