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第30話 VSレッドドラゴン 3

 即座に俺は剣を返して振るうが、レッドドラゴンは寸でのところで躱して大きく後退して距離を取った。


 ……あちゃー、翔麓岩砕撃しょうれいがんさいげき直撃しなかったかぁ。これで決めるつもりだったのに。

 まぁいいか。あとは力押しでも勝てるだろ。


「き、きき、貴様は何者だ!? その身体、一体どうなっている!?」


 レッドドラゴンが斬り飛ばされた左腕部分を右手で抑えて叫ぶ。


「我の竜撃弾ドラゴニック・バレッドを受けて平然としているなど…………そんな人間がいるはずがない!?」


「ここにいるじゃん」


「馬鹿な……こんな馬鹿なことが………………貴様、まさか勇者だとでも言うのか!? 馬鹿な、貴様が勇者のはずがない!! 貴様からは魔を払う力など微塵も感じられぬ!!」


「そりゃそうだ。そんなもん俺にはないし」


 どこぞのユエルちゃんじゃねぇんだからさ。

 俺には勇者としての加護なんて皆無だし、魔法耐性能力だって一流冒険者の中では並程度でしかない。


「ただ、面白いもんは装備してるけどな」


 ぺらっと腹の部分の服をめくってやると、世にも奇妙なほげーっとしたツラの面が顔を出した。


「……な、なんだそれは?」


「お前らの骨で作った面だよ。レッドドラゴンの魔法も防ぐとは、さすがの耐久力だったな」


「な、な…………」


 レッドドラゴンが口をパクパクさせている。

 帝国の露天で買ったほげ面だけど、思わぬ使いどころがあったもんだ。

 本当はチンピラ盗賊か、弱小のモンスターにでも遭遇したときに腹で平然と攻撃を受けて、「ふっ。俺の腹は世界一硬い」とか言ってエッタを驚かせるお茶目な悪戯を考えてたんだけどな。

 まさか、当のレッドドラゴン相手に使うとは思わなかったぜ。


 奴の魔法をわざと食らって油断させたから、魔力による防護が大変甘くなっていた。

 じゃなかったら、俺の攻撃だと剣を食い込ませる程度しか斬ることができないだろう。

 レッドドラゴン相手にまともに傷を負わせるとしたら、効率無視で死ぬほどぶっ叩きまくるしかない。


「さすがに斬られた腕は、そう簡単に治るものじゃないだろ。

 どうする、まだやるか?」


「…………お前の言うとおりだ。未だ信じられんが、我の分が悪いようだ。このまま戦っても結果は明白であろう」


 レッドドラゴンが一歩後退したのを見て、俺は内心で一息ついた。

 勿論このまま戦えば、ほぼ確実にレッドドラゴンは倒せるだろうが、それでも相手はドラゴンの上位種だ。

 左腕を失っているとはいえ、死ぬ気でくるのを倒しきるにはかなりの労力が必要だ。手負いの相手に噛まれても面白くないしね。退いてくれるならそれに越したことはない。


 完全に優位に立った俺はそんなことを考えていた。そして、それは俺の油断だった。


「だが、このまま何も戦果を上げられずに戻るわけにもいかん!!」

 

 レッドドラゴンが何事か呟きながら、右手に蒼炎がまとう。


 あ、これヤバイ感じがする!

 こいつ、まさか高位魔法でも使う気か!? 人間相手にそこまで本気になっちまうか!?


 反射的に警戒して、俺は何が来ても対応できるよう中段構えを取る。奴を油断させたかったから紅弾を斬るようなことはしなかったが、もう今更だ。

 レッドドラゴンが放つ高位魔法といえど、俺の魔剣レーヴェルスフィアなら無効化できるはずだ。


「そう不安そうな顔をするな。これを受けた者は灰も残さん。苦しまずに逝ける」

 

「……そりゃお優しいこって」


 くそ、モニカがいりゃ迷わず魔法耐性の支援魔法をかけてもらうんだが…………こりゃマジでワンミスが命取りになるな。

 しかし、奴のしかめっ面を見る限り向こうも余裕はなさそうだ。発動後には隙ができるかもしれない。

 奴が魔法を使ったら、即座に見切って斬って捨て、そのまま一気に決める。


 ごくり、と唾を飲み込み覚悟を決める。

 と、レッドドラゴンがあさっての方向へ右手を向けた。


 え? と思ったときには遅かった。


獄業火ヘル・ファイア


 レッドドラゴンの右手から指先ほどの蒼き炎が直線状に放たれる。

 その先にいるのは、二人の女……。


「エッタよけろ!!!」

 

 絶叫と同時に、俺は踏み込んだ。

 糞!! 馬鹿かてめぇは!! なんでその可能性を考えなかった!? プライドの高い竜種なら、こちらの隙を付くなんて弱者の戦い方はしないなんてタカをくくってやがったのか!? 甘いんだよ!!!


 自らを罵倒するが、後の祭りだ。

 ここから俺が回り込んで、エッタ達に迫るレッドドラゴンの魔法を魔剣で斬って無効化するなど、絶対に不可能のタイミングだ。

 突進系の剣技で距離を潰そうにも、前準備の集中がまったく出来ていないから失敗するのは明白だ。


 レッドドラゴンの口が歪む。完全に獲物を捕えた眼をしている。


「ひゃぁっ!?」


 俺の声に反応したのか、それとも予感があったのか、エッタは座り込んでいた女を抱えて跳んだ。直後、蒼炎が音も無く周囲を焼き尽くしていく。

 エッタ達は奇跡的にレッドドラゴンの魔法を躱したが、レッドドラゴンは微塵も動揺せず僅かに手の角度を変えた。


「ちっ!!」


 エッタと女は跳躍後の着地でバランスを崩していた。もう一度跳ぶいとまはないだろう。レッドドラゴンの蒼炎が、二人を飲み込もうと地を這うように焼きつくしながら絶望的なスピードで迫ってくる。


「よけろ!!!!」

 

 もう一度俺は叫んだ。

 とても間に合うタイミングではない。でもそれは、条件が違えば答えは変わってくる。エッタだけなら(・・・・・・・)まだ避けられる。


 エッタは弾かれたように女から離れ、女の前に立った。

 

 おい。

 ダメだ、馬鹿、やめろ。


「……失せるがいい」

 

 レッドドラゴンの蒼炎が、エッタを包んだ。


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