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第28話 VSレッドドラゴン

 レッドドラゴンが炎を這わせた腕を曲げ、来い来いと挑発してくる。


無辜むこの女性を襲う邪悪なるドラゴンよ、妾が鉄槌を下してくれる!」

 

 止める暇もなく、エッタはレッドドラゴンへと駿足で突っ込んでいく。

 いきなりの全力、ただの人間相手であれば間違いなく反応する余裕は皆無のスピードだ。

 が、エッタの斬撃はレッドドラゴンが掲げた炎をまとう右腕によって受け止められる。


「ちぃッ!!!」


 エッタはそのまま連撃を加えるが、レッドドラゴンは見切っているのかすべてを両の腕で受け切っている。


「悪くない攻撃だ。人間としては破格の膂力りょりょく、まるで獣人のようだな」


「お前こそ頑丈な腕ではないか! 威勢だけではないようだ! なかなか斬れん!」


「…………」

 

 レッドドラゴンが僅かに訝しむ。

 そりゃそうだ。レッドドラゴンが人化した状態の腕を斬るなんて、考えるのも馬鹿らしくなるような力が必要だ。しかも炎を纏った、魔力を這わせている状態なのだ。俺には相当厳しいし、支援魔法を受けて勇者の加護が全開状態のユエルであれば、といったところだろう。


 なおも続くエッタの斬撃の隙をついて、レッドドラゴンが拳を鋭く突く。

 エッタは辛うじて身をひねり躱すと、即座にカウンターを仕掛ける。

 左脇腹を狙った横撃はしかし、レッドドラゴンの畳まれた腕で完全にガードされる。

 エッタの動きが止まる。その隙を逃さず、レッドドラゴンは短く息を吐いた。


「砕け散れ」


 ごうッと空間ごと破壊するような突きがエッタの胸に直撃する。いや、かろうじて剣を盾にして受けていた。

 爆発したような音が上がり、エッタが後方へと大きく弾き飛ばされる。

 レッドドラゴンの拳が貫いた空間に炎が舞って消えていく。


「人間風情にしてはやるようだな。我の拳を受けられるとは」


「……重い一撃だが受けきれんことはないぞ。その程度の拳、何度襲ってこようと妾には脅威ではない!」


 エッタが胸を張って啖呵を切るが、よく見ると剣を持った腕がプルプル震えていた。

 無理もない。レッドドラゴンのパンチをまともに防御する人間なんて普通いねぇから。怪我していないだけでも十分すぎる。

 俺はエッタに駆け寄って、


「気は済んだか?

 レッドドラゴン相手に単独で突っ込むなんて無茶だぞ。

 あれで一応、最強の魔物と言ってもいいくらいなんだからな」


「最強の魔物か。良い響きだ。

 しかし、人の姿をしているからついつい失念しそうになってしまうな」


「姿かたちは人に見えるけど中身は変わんねぇよ。最初に見た状態のレッドドラゴンを斬れなきゃ、あいつも斬れねぇって」


 巨大なドラゴンから人になったもんだから、なんとなく弱くなったように見えるけどンなこたぁない。

 小さくなった分だけ、肉体や力が凝縮されて強くなったとも言える。


「まさか妾の剣を腕でガードされるとは思わなかったが、元の姿を考えると斬れなくともうなずけるな」


 そんなん当然だし、むしろ奴の拳をまともに剣で受けきったことに驚くわ。

 剣は折れるどころか傷すらついていないようだ。さすがはハイデルベルグ王国第一王女の持つ剣だ。実はこれ宝剣ではなかろうか? あの親馬鹿王ならマジで持たせかねない。


 それにしても、練気れんきってのは身体能力の上昇が本当に半端ない。

 だがそれをもってしても、レッドドラゴンのような尋常ではない魔物相手には分が悪いようだ。


「エッタ。俺がレッドドラゴンを引きつける。お前は回り込んで後方から隙を見て攻撃してくれ」


「一対一ではやらんのか?」


「上級種のドラゴン相手にタイマンでやってどうすんだよ。

 下手すりゃマジで死ぬからな」


 あの野郎、今も飄々としているがそれも当然だ。

 あいつは未だ魔法は使っていないし、人化してからはブレスも吐いてない。

 俺たちで言えば片手で戦ってるようなもんだ。ぶっちゃけ舐めてるのだ。

 しかしだからこそ、今ならその油断につけこんで楽に倒せるチャンスがある。


「そうか…………死ぬのは困るな。

 うぅむ、それは困るが……」


 何かが引っかかっているのか、エッタは渋い顔をしている。


「どうしたんだよ?」


「少し思ったのだ。

 ……妾は最強を目指している。それは決して人の範疇だけのことではないはずだ。

 なのに、こんなところで妥協してしまってよいのかと」


 相手がドラゴンなんだから別だろ。種族としての強さがまるで違う。

 と、反射的に浮かんだ言葉を飲み込む。


「あやつは確かに強い。

 だが、どうやっても勝てぬ相手とも思えんのだ。

 その可能性があるならば妾は……」


「ダメだっつってんだろ」

 

 エッタの襟首を掴んで猫のように持ち上げる。


「な、なにをする!?」


「こんなところで命張るような戦いしてどうすんだよ?

 そういうのは、もっとのっぴきならない時か、大舞台でやるもんだぜ」


 ぽいっとを後方に投げてやると、エッタは空中で一回転して華麗に着地した。本当に猫みたいなやっちゃな。


「こら、ロイ!!」


「魔物討伐なんて効率よく行うもんだ。そこに正々堂々なんて言葉は必要ない。

 ……けど、エッタの言いたいこともわかるぜ」


「え?」


 俺は右手に持った剣の切っ先をレッドドラゴンの首へと向ける。

 レッドドラゴンはこれみよがしにため息を吐いた。


「今度は貴様が相手か? 二人同時の方が我の手間も省けるのだがな」


「そりゃどうもご親切に。せっかくの提案だが、そいつはたった今否決されちまったんでね。

 あんたの相手は俺がしてやる。そうでもしないと、ウチの姫さんが納得してくれそうになくてな」


「……ロイ」


 エッタが虚をつかれたように少しだけ口を開けていた。


 そうだ。

 最強を目指すなら、なにが相手だろうが退いてる暇なんてない。

 レッドドラゴンなんて、俺にはちょうどいい獲物じゃねぇか。

 それにエッタがこの先もこんな無茶をするというなら、自分よりも力が(・・・・・・・)上の相手(・・・・)との戦い(・・・・)ってのを知っておいた方がいいだろうしな。


 そしてなにより、


「…………」


 チラっと、レッドドラゴンに襲われていた女の方を向くと、女は不安そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。

 地べたに座ったまま、両手を地について事の成り行きを見守っていた。


 よっし!! こっち見てる、ちゃんと見てくれてるぞぉぉぉ!!!

 今こそアっピールチャンスぅ!!! レッドドラゴンを俺が華麗にぶっ倒して、あの娘からの評価値をカンストさせてみせるぜ!!!!


 俺は内心テンション上げ上げで剣を構える。


「来いよ赤トカゲ野郎。人間風情の力ってやつを見せてやる」


「身の程を知れ」


「あ、そうだ。今なら特別に選ばせてやるよ。

 無様にこの場に死体を晒すか、おめおめとしっぽを巻いて逃げ帰るかをな」


「…………」


 レッドドラゴンの片眉がピクリと跳ねた直後、俺に向かって迷いなく突っ込んでくる。 

 まったく予想通りすぎるぜ!!


 レッドドラゴンが動きだすと同時、上段に構えて俺も突っ込んだ。

 互いの距離が即座に消され、俺は叩きつけるように剣を振り下ろす。


「オラよぉッ!!!」


「ぐっ!?」


 ギィィィンっと、まるで金属同士がぶつかり合ったような音が響いた。

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