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第27話 みなぎってきた

 雨はいつの間にかあがっていた。


「マジかよ……」


 状況を理解して、思わず俺は立ち尽くした。

 目に前にいるのは、体調5メートルはあるかという巨大なドラゴンであった。

 ドラゴン種の中では小柄だが、十分にでかい。

 何より厄介なのは、その身体は血のような真紅に染まっている――どう見てもレッドドラゴンだ。

 ドラゴンの中でも最上位種の一角、最強の魔物と言っても過言ではない。


「あ、あぁぁ…………」


「…………」


 レッドドラゴンから庇うように、エッタは呻く女の前に剣を抜いて立っていた。

 鋭く睨みつけ、今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。

 俺は迷わず女の元へと走り寄った。


「怪我はないか?」


「あ…………ぅ、はい。私は、だ、いじょうぶ、です……」


 声をかけられて初めて俺の存在に気づいたのだろう。

 驚いたように俺を見て力なく項垂れた。


「ごめんなさい…………私では、どうすることもできなくて…………。

 あなたたちを卷き込むつもりはなかったんです……」


 女は帯刀しているものの、瞳に力は無い。

 細身ながらも筋肉はついているので冒険者か何かなのだろう。

 薄い茶色の髪を無造作に縛っていて表情は前髪に隠れ気味ではあるが、平素であれば穏やかな印象の顔に見えた。


「立てるか? 一旦向こうへ退くぞ」


 返事を待たずに、俺は女を支えながらレッドドラゴンから離れていく。

 レッドドラゴンはエッタには目もくれず、離れていく俺たちを威圧するかのように見ている。

 尋常ではないプレッシャーを感じたのだろう。

 女は小さく悲鳴のようなものを漏らし、俺の身体にしがみつくように身を寄せた。


「他に仲間はいるか?」


「い、いえ、私一人です…………は、早く逃げないと、あなたたちも殺されてしまいます……」


「安心しろ。その心配はない」


「え?」


 ある程度離れたところで彼女を座らせる。


「俺も、あそこにいる俺の仲間も、そんなにヤワじゃないからな。

 ちょっと待っててくれ」

 

 俺がレッドドラゴンの方へと行こうとすると、ぐっと引っ張られた。

 彼女は不安そうにしていて、俺の服を強く掴んで離そうとしない。


「だ、ダメです……勝てるわけが…………ぁ……」


 言いかける彼女に、俺は安心させるように頭を撫で、一瞬だけ抱きしめる。


「安心してくれ。こう見えて俺はな、魔王だって倒したことがあるんだ」


「まお…………え?」


 目をぱちくりさせる女の頭をもう一度撫でて、俺は立ち上がる。

 未だに女に目を向けているレッドドラゴンの視線を遮るようにして、俺は思わず口を歪めた。


 …………ふ。


 くふふふふふふふふふふ。


 はーっははっはあはははは!!! よっしゃよっしゃよっしゃああああ!!! 久々にドストライクの女性に出会っちゃったじゃないですかこれえええええええ!!!!?


 素朴な感じの美人さんとか、会えそうでなかなか会えないのよね!!

 年齢は20超えたくらいか? 鍛えてそうでシュっとしてるのに、ちゃんと柔らかぁい身体とかもうね!! もうね!! 見た目よりも着痩せするタイプじゃないんですかこれ、もう最高だよ!!!

 かなり好印象っぽいし、とっとと赤トカゲぶっ倒してこの娘オトすぜ!!!!


 テンションマックスの俺は、しかし極力平静を装ってエッタの隣に並び剣を抜いた。がっついたらかっこ悪いからね!

 レッドドラゴンが初めて女から視線を外し、俺とエッタを捉える。


「貴様らは無関係だ。死にたくなければ失せるがいい」


 レッドドラゴンが重苦しい、胸に強烈に響くような声を発する。

 胆力がない者が聞けば震え上がりそうだ。実際、後ろのおねーさんは自分で自分を抱きしめるようにしてるし。


 だがしかしこの程度、剣聖たる俺にはどうということはない!


「お前こそ……」

 

「お前こそ失せるのだな!! 妾がいる限り、彼女には指一本触れさせんぞ!!」


 う、うん? あれ?

 なんかかっこいいこと言おうとしたら、エッタさんに遮られちゃいましたよ?


「戯言を。人間風情が我の相手になるものか。無駄死にしたくなければこの場より去れ」


「話にならん…………妾は聖人ではない。これ以上の問答はないぞ?」


「愚かなる人間よ。矮小なる者よ。

 忠告を受け入れられぬのであれば、灰となった後に知るがいい。絶対的な力の差というものを」


「……妾の剣のサビとなれ」


 あるぇー? なんか一気に険悪な雰囲気に。まるでこれから因縁の戦いでもおっぱじめるような…………っと!?


 レッドドラゴンが口を開けてブレスを放つ。

 地を焼き尽くすように広がる炎。当たったら人間なんぞ一溜りもないだろう。

 俺とエッタが跳んで回避すると、レッドドラゴンが一瞬目を大きく開いた。


「……数多いる惰弱な人間ではない、ということか」


「ようやく理解したか!! 逃げるなら今のうちだぞ!!!」


「その選択肢、今の我にはないな」


 ぐるるるぁぁぁぁあああああああ!! と、レッドドラゴンが空へと舞い上がりながら咆哮する。

 あらら。どうやらあちらさん、マジになっちゃうみたいだな。


「エッタ、ドラゴンとの戦闘経験はあるか?」


「ない!!! そもそも妾はモンスターとすら戦ったことがないぞ!!!」


 おいおい、自信満々に言い切ることじゃないんだが。

 なんにせよ注意喚起だけはしておこう。


「奴の炎に直撃するなよ。普通に死ねるからな。

 あと、わかってると思うが絶対に油断はするな。人間とはパワーが桁違いだ。一瞬の判断ミスが命取りになるからな」


「うむ、任せろ!!」


 二つ返事には若干不安が残るが今更だ。この場にモニカがいないことが悔やまれる。

 レッドドラゴン相手に無傷で済ませられるかは微妙なんだが…………まぁ、なんとかするしかない。


「貴様らの蛮勇に敬意を評して、この姿で戦ってやろう」

 

 空を舞っていたレッドドラゴンが、その姿をどんどんと小さくさせていく。

 最終的にレッドドラゴンは人の姿(・・・)になって地に降り立った。

 燃えるような赤髪に赤眼、服は漆黒のタキシード。ドラゴンの年なんざ想像もつかないが、人の姿での外見年齢は50代といったところか。


「かかってくるがいい」


 短髪の赤髪が僅かに揺れる。

 レッドドラゴンが手を振ると、その手に幾筋もの紅蓮の炎がからみついた。


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