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第26話 練気と魔法と

「ちがうちがう!! もっとぶわぁあああっという感じだ!!」


 エッタが両手をぶわぁっと広げて言い切る。


「悪い、もうちょっと具体的に言ってくれ。

 動きのひとつひとつについて集中力を高めて行うってことじゃないのか?」


「集中するのは大前提だが、妾はそこまで意識はしていないな。

 それよりも、もっと大胆にどかーんっとなる方が大事だ!」


 エッタが前触れもなく、ぱぁんっと弾けるような音を発して一直線に飛ぶ。

 狼のような跳躍で数メートルの距離を一気に移動していた。

 俺も同じように跳躍してみるが、エッタのような素早さはまるでない。


 結局あれから雨はあがらず、俺たちは夕暮れ前になっても木陰で待機していた。

 こりゃ今日はもう動けそうにないってことで、俺とエッタは互いに得意分野を教え合っていた。

 俺はエッタに剣の型を。エッタは俺に自力での身体能力向上を可能とする練気れんきを。


 エッタはすでに型を覚えた。簡単で基礎的なものではあるが、繰り返し鍛錬すれば今よりは大分洗練されるのは間違いないだろう。そこから自分流に合わせていければ一角の剣士といったところだ。

 現時点での総合力で言えばまだまだエッタよりも俺に分がありそうだが、このままだと普通に追い越されそうだ。

 

「エッタはどうやって練気ができるようになったんだ?」


「獣人たちがやってるのを真似したらできていたぞ。

 あやつら、めたらやったらに素早く動き回るのでな。どうにか対抗しようと剣を合わせていたら、いつの間にかできるようになっていたのだ」


 なんだそれ、意味わかんない。

 薄々わかってたけど、エッタは頭で考えるよりも先に身体が動く天然系らしい。理屈抜きで強くなっていく才能先行タイプなのだが、人にモノを教えるのは恐ろしく向かない方々だ。

 となると、俺自身が練気を使う上でのコツみたいなもんに気づかないとできるようにはなれそうにないか。

 こりゃ、気長に取り組む必要があるかもしれないな。


「ひとまず休憩にするか。

 ……魔水マインド・ウォーター


 俺は生み出した水をコップに入れてエッタに渡す。

 エッタが礼を言って、一息に飲みきった。


「ぷはぁ!! 生き返るな!!」


「訓練のあとの一杯は最高だよな」


 どうせならエールをぐびっと行きたいところだが、さすがに旅路で酒は持参していない。

 俺は自分の分の水も生み出して飲み干す。


「しかし魔法が使えるというのは便利なものだな」


「まぁな。とはいっても、俺は水とか火とか出す程度の簡単な初歩魔法しか使えないけどな」


「それでも十分役に立つではないか。

 旅をするときには必須といってもよいのではないか?」


「必須ってほどじゃないが、いちいち水を用意したり、水場を探したりする手間は省けるので楽ではあるな。

 旅を始めた頃に不便すぎるってことで魔法使いに師事して教わったんだよ」


「そうなのか。妾も魔法を使ってみたいなぁ」


 魔力さえあれば、初歩魔法であればそこまで難しいものじゃないけど…………まぁモノは試しか。


「やってみるか?」


「うむ!!」




 絶望的であった。

 絶望的に才能がなかった。


「以降、エッタは魔法禁止な」


「…………むぅ。どうしてうまくいかんのだ?」


 きゅぃぃぃいんとエッタがこりずに魔法を発動させようとする。

 すかさず俺は勢い良くエッタの頭をはたいた。


「何をする!? 痛いではないか!?」


「たった今禁止っつったろーが!!」


「なぜだ!? 次はうまくいくかもしれんだろう!?」


「魔法に関しちゃほとんど素人の俺から見ても、見るからに暴発する雰囲気だったじゃねぇか!!」


「そ、そうか? ……やってみたら、今度こそできるかもしれんではないか?」


「無理。絶対無理。明らか無理。

 何回やっても魔力の集中がなくて不安定すぎるし、これじゃ絶対失敗する。

 エッタ、お前は絶対的に魔法に向いてない」


「……むぅ」


 少しは自覚があるのか、エッタは不満そうに口を尖らせるが反論はしてこない。


「どーしても不満だって言うなら、城に戻ってから王宮魔術師様にでも師事するんだな。

 断言するが、100%サジ投げられるだろうけど」


 俺には魔法のイロハはほとんどわからないが、それでもエッタの魔法の才能がうんこだっていうことはよくわかる。


 エッタの魔力はおそらく俺と同等程度に低い。

 つまり、初歩魔法以外はロクに使えない。

 そしてエッタは、ちっぽけな魔力しかないのになぜか恐ろしく魔力を制御できない。常に今ある魔力を全開レベルで放出しようとするので、まったく制御が効かないようだった。

 魔力が低すぎるので暴発しても怪我はない。暴発というか、単なる失敗でしかない。そしてなんの効果も発揮しない。まさしく糞の役にも立たないシロモノであった。


「はぁ。わかった。魔法は諦める」


「それがいい。人には向き不向きがあるからな。

 なぁに。どうせできるようになったところで、大した魔法は使えそうにないんだからいいじゃねぇか。

 相対的な傾向ではあるけどな、基本的に戦士系の人間は魔法が不得手なもんなんだよ。

 魔法の才能がないから戦士になるのか、それとも動けるから戦士になるのか。

 それはどちらとも言えないけど、少なくとも俺が知る限り魔法も剣も一流の腕を持っているって人間は見たことも聞いたこともない」

 

「そうか…………しかし、やはり魔法が使えれば便利ではあるな」


「別にこの程度のもん、必要なら俺に言えばいいだろ」


「よいのか?」


「あん? いいに決まってるだろ。むしろ何かダメな理由でもあるのか?」


「…………いや。何もないな」


 首を横に振って、エッタは笑った。


「ロイ、そなたは…………」

 

「あああぁっぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」


 唐突に、女の絶叫が上がる。

 反射的に周囲を見渡すが見える範囲に異常はない。


 街道か? こんな何もないところで、一体なんだってんだ!?  


「ロイ!! 先に行くぞ!!!」


 俺が剣を手にしたときには、すでにエッタは声のした方向へと走り始めていた。


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