表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/74

第24話 スリーピング・スリーピング

 なんですかね、このシーツのふくらみは?

 どう見ても明らかに人一人分の大きさが作っているふくらみなんですけど?


「…………すぅ」


 そして誰がどう見ても明らかにエッタにしか見えない女が俺のベッドを占領してるんですけど?

 俺は踵を返し、ダッシュで隣の部屋に戻る。


「おかえりー」


「お帰りじゃねぇよ!? なんでエッタが俺の部屋にいるんだよ!?」


「エッタの部屋でもあるからかなぁ」


「なるほど、道理でベッドが大きめだと思ったぜ……ってそういうこと聞いてるんじゃねぇ!!

 モニカてめぇ! 宿取るときどういう説明しやがったんだよ!!!」


「私は二部屋って言っただけだよ。

 エッタは、私たちの他に夫が一人いるって言ってたね」


「止めろよ!? お前わかってて放置しただろ!?」


「まぁまぁ。エッタいい娘じゃん?

 ここらでロイくんも身を固めることを考えてもいいんじゃない?」


「断る!! 俺には大いなる漢の夢があるからな!!! まだまだ家庭なんてもってられんのよ!!!」


「そっかそっか。じゃ、おやすみ~」


「やめて寝ないで!? お前は向こうで寝てくれよ!! 俺こっちで寝るから!! エッタの奴、もう爆睡してんだよ!!!」


「残念。モニカちゃんも、もう寝てまーす。…………すやぁ」


「おいお前まじか? 冗談だろ? モニカ、起きろ! 起きてくれって!」


「すやぁ」


「すやぁじゃねぇよ!! お前がその気なら無理矢理担いででも隣の部屋持ってくぞ!?」


「すやぁ」


「……半笑いしてんじゃねぇぞこの野郎」


 一瞬、マジで担ごうかと思ったけど、ついさっき頼み事をした手前さすがにバツが悪すぎる。

 こうなりゃ床で寝てもいいんだが、せっかく宿に泊まっててベッドがあるのに、昨日に続いて地べたに転がるとか何が悲しくてそんなマゾ的な行動しなくちゃいかんのだ、どちくしょうが。


 ……待てよ。

 もしかしたらまだ空いてる部屋があるかもしれねぇよな!

 よし、とりあえず店主に部屋の相談をして……


「先に言っておくけど、もう部屋はうまっちゃってるからね。

 私たちだってギリギリで二部屋とれたんだから」


「…………あ、そう」 


 思わずうなだれてしまう。

 俺はなんだか非常に疲れた気分になり、ダラダラと部屋の隅の方へと移動して、くてっと横になった。


「なにしてんの?」


「……なにもしねぇよ。寝る」


「向こう行かないの?」


「行かねぇよ。マジで変なことになったらどうすんだよ」


 俺だって聖人君子じゃねぇんだからな。

 隣に美人さんが寝てりゃ、最初はその気が無くてもムラムラして手も出したくなるだろ。


「へたれてるねぇ」


「言ってろ」


 なんかもういろいろ疲れたんで本気で寝ようと思って目を閉じる。

 明日だってなるべく早く動きたいし、休めるときに休んどかんとな。


「…………しょーがないなぁ、ロイは」


 ばさっとシーツを剥がす音がする。

 寝ながら振り返ると、モニカがすたすたと歩いて扉に手をかけていた。


「あたしが向こうの部屋行くから、ここ使っていいよ」


「…………いいのか?」


「ちゃんと寝られるベッドがあるのに床で寝るなんて馬鹿馬鹿しいでしょ。

 じゃ、おやすみ」


「お、おう。…………おやすみ」


 ぱたんっと扉が閉まり、すぐに扉が開く音がする。

 本当に向こうの部屋に行ったらしい。


 モニカなら同性なんだし、別にエッタと一緒に寝たところで問題はないわけだし構わないんだろうけど。

 モニカがこういう気遣いをしてくれるのって、あんまり覚えがないんだが……。

 

「まぁいいか! せっかくベッドがあるんだから、快適に使ってやらんとな!」


 ばふっとベッドにダイブすると、ぼうんっと少しだけ跳ね返された。

 あー、これこれ! いいよね、このしけたスプリング感、安物のベッドって感じで。

 ハイデルベルグ王国での部屋は質が高すぎたからなぁ。高価すぎたせいか、俺には返って身体に合わなくてあんまり休めなかったんだよなぁ。

 今日は思う存分快眠できそうだぁ……。




 どれだけ時間が過ぎたのか。数分か、数時間か、感覚的にはどちらとも言えるのでよくわからない。

 まだ暗闇が満ちる中、俺は目を覚ました。

 誰かが部屋の中に入ってきたのだ。

 とは言っても、殺気はまったく感じられないし悪意があるわけではなさそうだ。

 侵入者はそっと扉を閉めると、まっすぐに俺の方へと向かってきた。

 俺は様子見で寝た振りを続けていると、


「…………」


 そいつは俺を跨いですすすっと布団の中に入ってこようとして……、


「って、何しとんだお前は!?」


 思わずがばっと身を起こす。

 この暗闇でも、さすがに目の前に誰がいるのかはわかる。


「ひゃっ!? …………もー、びっくしりたなぁ。起きてたの? 

 起きてるなら起きてるって言ってよ。気遣ってこっそり入ってきてあげたのに損した気分」


「いや、こんな時間に侵入してくるとか誰かと思ってよ。殺気がなかったから変な奴じゃないとは思ったんだけど…………。

 って、お前も平然と布団に入ってくるなよ! マジでびっくりしたじゃねぇか!?」


「ちょっとちょっとあんまり騒がないでよ。

 隣の部屋に迷惑だし、あたしだって眠いんだからね」


「…………すまん」


 すぐ隣に座っているモニカに思わず謝ってしまう。


 あれ? なんで俺が謝らなきゃいけない流れになってるの?

 突然ベッドに乱入してきたエルフのが非常識な存在ですよね?


「なんかさ、最初はエッタと寝ようと思ったんだけどさ」

 

 いくらモニカと言えど、さすがに同じベッドに座ってて至近距離で面と向かうのは気まずい。

 俺はモニカとは反対側を向いて横になった。


「寝てるエッタを見てたら、なんかこー、胸がきゅーっとなっちゃってねぇ。

 お姉さん、いろいろとこみ上げてくるものがあったのよ」 


「なにそれ意味わかんねぇ」


「ロイにはわかんないでしょうねぇ、繊細な乙女心は」


 どこぞの84歳だって本当にわかってるんでしょうかね? 乙女卒業して何年経ちますかね。


「よくも悪くも疑うことを知らないっていうか。

 大事に育てられたんだろうね」


「王もあの調子だったしなぁ。

 でも結構長い間、獣王国にいたようだけど?」


「頻繁にやり取りがあったり、王から獣王国に便宜を図るよう尽力してたんじゃないの?

 ……よく寝てるせいか、エッタが余計に純粋に見えちゃってね。

 このままだと本気で好きになっちゃいそうだからさ。

 だからこっち来たの」


 …………今さりげなく大胆な告白された気がするんですけど?

 こいつ、以前から妙にユエルにベタベタしていると思ってたけど、やはりソッチの気があったのか!

 なるほど! だから過去、まったくこれっぽっちも俺になびかなかったわけだな!!


「断っておくけど、あたし、かわいい女の子は大好きだけど恋愛対象ではないからね?」


「ですよね!」


 わかってる! 俺わかってたから!! でもそれだと過去まったく相手にされてなかった俺なんだろね!? あぁ、わかってるけどさ!!!


「…………あんたって、どうしてそうアホなのよ」


 モニカは呆れた調子だったが、不思議と嫌味は感じられなかった。


「本当、馬鹿よね」


 トンっと、何かが俺の背中に当たる。

 それは確かな熱を帯びていて、すぐにモニカの額だと気がついた。

 いつの間にか横になっていたらしい。


「あたしはさ、そんな何人もの味方になれるほど器用じゃないのよ。

 あたしは、あたしのためにしか動けないの」


 はぁ。

 一体何の話をしてるんだ、モニカのやつは?


「…………おやすみ」


「ん」


 思わず返事をしてしまってから、うん? と疑問符が浮かぶ。

 …………え? 寝るの? ここで? マジで?

 モニカさん。ここ、俺いるんですけど? つか狭いんですけど?

 俺がわずかながらも動揺していると、後ろからごそごそと音がした。

 背中にモニカの額を当てられたまま、なぜか服の裾も掴まれてしまっていた。

 絶妙に身動きが取れなくなり固まっていると、やがて一定周期のゆったりとした呼吸音が聞こえてきた。

 振り返らずともわかる。完全に寝息だ。ガチ寝だ。


「………………まぁ、いいか」


 モニカだしな。

 目を閉じると、後ろから聞こえてくる寝息に誘われるように俺の意識は沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ