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第23話 頼み事

 俺たちはチンピラ連中から話を聴き終えて宿に戻ってきた。

 俺は自分の部屋に荷物を置いて隣の部屋を訪れる。


「やほー。どしたの?」


 モニカがベッドにだらーっと寝転んで、顔だけ向けてきた。

 もう寝るつもりだったのか、肌着に薄い衣を羽織っただけの格好だ。

 ちょいと目に毒な格好だが、モニカなのであまり気にならない。


「エッタは?」


「店主が夜食作ってくれるからそれ食べてくるって」


 よく食うね、あの姫さん。

 それとも泣いて腹減ったかな………………いやいや! チンピラ連中相手に暴れたからだよな!


「いないならちょうどよかった。

 モニカ、話がある」


「えぇ、何その前置き?

 ちょっと不安になっちゃうなぁ」


 思わずぶっ飛ばしたくなるような猫なで声を出して、モニカは身体を起こしてベッドに座り直した。

 俺もベッドに座って、


「帝国がきな臭い動きをしてるってのは間違いない。

 場合によっては、早々に王国に攻め入る可能性もゼロじゃない」


「そだねー。ユエルから直接話聞けたのはよかったよね」


 本当は、もうちっと突っ込んだこと聞きゃよかったんだけどな。

 偶然会えただけだから、いろいろと抜けちまった。


「帝国と王国がぶつかったときのことを考えると、やっぱりこれだけはどーにかしときたいってことがある。

 で、こんなん頼めるのはお前しかいない」


「うん」


「危険もあるし、面倒な案件だってのもわかっちゃいる。

 だが、他の奴に頼むのは難しいし、なんだかんだでお前向けの話だと思うんだ」


「うん」


「動くべき時の見極めがシビアだろうから、タイミングはそっちで見計らってもらうことになる。

 それまでは、どうしても待ってもらうことにはなるだろうけど……」


「うん」


「………………お前、その雑な返事なんとかなんないの?」


「ロイこそ、そのなっがい前置きなんとかなんないの?」


 こいつ…………人が珍しく気を遣ってやってんのに、なんちゅー言い草しやがる。


「わーったよ! じゃあ単刀直入に言うからよぅく聞いとけよ」


「うん」


 このババァ、ハッ倒すぞ。




 俺が頼み事をひととおり説明すると、モニカは相変わらず雑な返事で頷いた。


「でもそれ、イケるとは思うけど絶対できるとも言えないよ?」


「そこはまぁ、失敗したらそれまでってことで」


「えー。そうかもしれないけど、これって失敗しちゃ不味いでしょ?」


「いいんだよ、面倒にはなるが別にそれ自体は取り返しがつかないことじゃねえんだから」


 あくまでモニカに頼むのは、一種の保険のようなものだ。

 帝国が、というかゾギマスが王国侵略について、どの程度本腰を入れているのか。

 もしも帝国が王国へ攻めいるとき、勇者であるユエル以外にも何がしかの手札があるならば、その時にはこの保険が必要になるかもしれない。

 …………まぁ、なんですか? たとえゾギマスのハゲにいくつも手札があったとしても、この剣聖さまの活躍ですべて華麗に粉砕してあげますけどねぇ!

 その活躍で俺は更なるモテ度を手に入れるわけですよ! いやぁ、モテモテすぎて困っちゃうなぁ、うはははははははーっはっはっは!!!


「何変な顔して笑ってんの?」


「少しばかり希望に満ちた栄光の未来を想像してしまってな。

 俺を称える人々にどう応えてやればいいものかと迷ってしまうのさ」


「あははは。ロイくんは妄想たくましいねぇ」


「はんっ! これはちゃんとした現実的思考に基づいた予想結果ですぅ!

 モニカさんには到底想定できないような深い考察にのっとってますぅ!!」


「はいはい。よござんすね」


 くっそ、モニカの野郎。広場で日向ぼっこして、元気に遊ぶ子どもを見守るような生暖かい目をしくさりやがって!

 今に見てやがれよ? 俺が数々の女にチヤホヤされまくる姿を前にして、吠え面かかせてやるぜ!!

 俺が崇高なる固い決意を新たにしたとき、大事なことを思い出した。

 

「……あ、モニカ。ちょっと待ってろよ」


 俺は一度部屋に戻って、自分の荷物から革袋を取り出して戻ってくる。


「これ軍資金な。あと、これも使ってくれ」


 革袋の中から、透き通るような掌大のウロコを取り出す。ウロコはグリーンドラゴンの逆鱗部分で、一体のドラゴンに一個しかないから非常に貴重。売れば普通に10年は暮らせる程度の金にはなる。

 結構な額の金を前にして、モニカは珍しく神妙な顔になった。


「……それ、王国に行く途中にいたグリーンドラゴンの?」


「そ。さっきの爺さんの話で思い出したわ。

 それだけあれば、可能性は大分上げられるだろ?」


「………………そうね。今すぐって言われたら微妙だけど、あんたの言うタイミングならきっとできると思う」

 

 頼もしいお言葉だ。


「じゃ、頼むぜ」


「はいはい、せいぜいモニカちゃんに任せなさいな。

 ……ところで、ロイ。もう部屋に戻るつもり?」


「あぁ。なんか用事でもあるのか?」


「別にないよ。おやすみ」


「……おう」


 一瞬、モニカが微妙な表情をした。

 何かあるのかとも思うが、本人が言わないのだから俺が聞いても仕方ないことだろう。

 俺は自分の部屋に戻り上着を脱ぎ捨てベッドに倒れ込もうとして………………………………おい。

 おいおいおい。


 俺は目の前の光景を見て、これがどういう状況なのか理解できず固まった。


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