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第21話 修羅場?

 不機嫌MAXなエッタに連行されて、俺は今現在なぜか広場のベンチの前で正座をさせられていた。


「ロイよ。私もな、初心なねんねではないのだ。

 男というものが女を求めるものだということはよく知っている」


 俺の前で腕を組み、うなずきながら話すエッタ。

 俺は、はぁ、そうすか。と心中で相槌を打つ。


「であるからな、そなたが求めるのであれば私はいつでも受けるつもりでいた。

 昨晩は野宿であったからな、さすがにないとは思っていたが。

 しかし今日は違うな? そなたと共に過ごす初めての夜だぞ?」


 そうなんだがそれ微妙にニュアンス違わねぇか? モニカもいるし、部屋だって違うぞ?


「そんな夜にな、そなたは女のいる店に行くのか。

 なんだそれは? 私をバカにするにも程があるぞ」


 その瞬間、道行く人の視線が妙に痛く感じた。

 

「うわぁ。あいつ、あんな綺麗な人がいるのに遊び歩いてるのかよ」


「最低だな」


「女の敵」


「死ねばいいのに」


 気のせいかな。道行く人の厳しいお言葉が聞こえてくるよ?

 だがしかし、君たち誤解をしているぞ。

 ここは俺の名誉にかけて弁明させてもらおう。


「待て待て、前提がおかしい。

 確かに黙ってきたのは悪かったが、別に許可を取るもんでもないだろ?」


「そなたの前提もおかしいようだ。まさか私が許可をすると思っているのか?」


 エッタのこめかみに、びきびきびきっと血管が浮き出てくる。…………こわぁ。


「百歩譲って、やむにやまれぬ事情や、私がそばにいないときであれば、そのような気になってしまうのも仕方あるまい。そのくらいは我慢できよう。

 しかし先ほどのことは、到底看過できるものではないぞ」


「だから前提がおかしいっての。俺とエッタはただの旅の仲間だろ」


「…………」


「俺はお前の提案に乗った覚えはないぞ。

 ただの旅の仲間に、そこまで干渉される覚えはない」


 あんまりこれは言いたくなかったが、正直今後に支障が出そうだから仕方ない。

 白黒させておくべき案件になっちまった。


「エッタ。いい機会だからはっきり言っておく。

 俺はお前と共になるつもりはない」


「…………」


「もしも俺がお前と結婚すれば、俺の大いなる野望を達成することが限りなく不可能になる。俺はそれをずっと夢見て生きてきたんだ。それを諦めることは、俺にとって死ねと言うようなものだ」


「…………」


「別にお前自身が嫌だというわけではないんだがな。

 これだけは俺も譲れない。一人の男としてな」


 目をつむり、反論の余地などないほどに言い切る。

 それきり俺もエッタも何も言わず、しんっと静まり返る。


 ……ふ。

 とうとう言ってしまったか。

 

 ……………………ふ。ふふ。ふふふふふふ。


 あああああああああああああもったいねええええええええええええええええええええええ!!!!

 これでもう完全にエッタと切れただろおおおおおおおお、もったいねえええええええええええええええええ!!!! 今からでも撤回してえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!


 だがしかし、俺にも譲れないものがあるんだ!! そう!!! 男に生まれたからにはやっぱりハーレム欲しいだろ!!!!!

 かわいい女の子、めっちゃ美人な女や妖艶なおねーさんにチヤホヤされまくりたいとか、そんなん男なら誰だって考えるだろ!!!!


 エッタと結婚して王族なんぞになっちまえば、権威を笠にしたつまんねぇハーレムの道しかなくなっちまう。

 そりゃやっぱり、俺には退屈でつまんねぇ。 

 だからこいつだけはどうやっても譲れねぇんだ。


 ………………ホントのホントにもったいないけどねえええええええええええええええええ!!!!


「っつーわけでな、今後はそういったことで俺に文句を言うなよ。

 あと夫婦だなんだってのも……うおおお!?」


 エッタに言い聞かせるつもりで顔を見ると、めっちゃ泣いていた。涙が頬をつたりまくってポロポロ地面に落ちている。


「おおぉぉぅ………………あの、エッタさん?」


「なんだ?」


「いえ、あの…………大丈夫っすか?」


「別になんてことはないぞ……」


 ウソつけ、号泣レベルで無茶苦茶泣いとるだろが!!

 こんだけ涙流しててほとんど声を震わせないところは、その強靭な精神力を褒めていいのか呆れていいのか……。

 

 あ、鼻すすり出した。


「ぐすっ…………わ、妾だってわかっていたのだ。最初からそなたが乗り気でないことなど……。

 そなたは妾に手を出すどころか、一度たりとも触れることすらしなかった。好かれていないことなどわからんはずがない。

 それに、偶然会った女にはその場で贈り物をするくせに、妾にはなにもない。これでわからんはずがないのだ……」


 おい、偶然会った女って、まさかユエルのこと言ってんのか?

 ユエルにヤキモチ焼くとか、お前それはさすがに的外れすぎんぞ。


 しかし、反論しようにもエッタの言葉は途切れない。


「それでも妾は……ぐずっ…………妾には、共にいたいと思える相手など………………家族以外では初めてだったのだ。

 ぐじゅっ…………だから、そなたになんとも想われていなくとも、妾はそなたのことが……」


「待て待て待て!

 とりあえず泣くのはやめよう!

 その、なんだ! 言いすぎたな!! すまなかった!! 謝る!!

 だから泣くのはストップだ!!!」 


 さすがに女を泣かせといたままにしておくほど、俺は鬼畜にはなれん。

 つか、心臓に悪すぎるわ。


「ふ、ふん! ふざけたことを抜かすな! 妾が泣くはずないだろう!!

 妾は誇り高きハイデりゅぶぇ……」


「おっしゃわかった!! 結婚は認められんが、その前段階ということにしよう!!

 お試し期間だ!! お試しで互いのことを知るというかだな!!」


 エッタの言葉を遮って俺は必死に誤魔化す。

 さすがにこんなところでハイデルベルグ王国第一王女なんて名乗られたら、噂が広がるのは誤魔化しきれねぇ。

 王族を詐称するなんて、その国にバレたら死罪待ったなしなんだからな! ここが帝国とはいえ、本物だと思われても偽物だと思われてもロクなことにならん!!


「…………お試し?」


「仮の恋人同士ということだ! 

 だいたいいきなり結婚とかありえんだろ!? 一生を左右することなんだぞ!? エッタだって少しは段階踏んでよく考えるべきだろ!?」


「段階…………恋人…………」


 エッタがぽーっと考え込む。


「恋人、恋人か…………ふむ。ふむ………………恋人か……」


 いつの間にか涙が引いて、エッタはにへらっと相好を崩した。


 え? まさか、こんなんで機嫌が直っちゃったの?

 おいおい、マジかよ。ほとんど苦し紛れだったんですけど……。

 というか、この姫さん。俺が言うのもなんだけど、男の趣味悪くない? どんだけ俺のこと好きなのよ…………。


「仮な。仮の恋人な」


「ふん……そんなことを言ってられるのも今のうちだぞ。すぐに私の虜としてくれる。

 必ずそなたの方から私に求婚させてみせるからな!」


 やる気満々のとこ悪いけど、それだけは絶対ねぇわ。

 でも、その前向きさは素直に好感持てるな。

 

「へいへい。楽しみにしてるよ」


「覚悟しておくがよい! くはははははははは!!」


 エッタが豪快に笑うと、なぜか周囲の人々から拍手をもらった。


「おめでとー」


「よかったねぇ! …………本当によかったのかな?」


「ダメ男が好きな人もいるから」


「なんにしても、おめでたいでしょ!」


「おめでとー!」


「祝ってやる」


 ……おい、最後の本当に祝ってんのか? 呪ってるように聞こえたんだが。


 エッタが満面の笑みで野次馬たちに手を振ると、一層拍手が大きくなった。帝国民にも人気な王国王女さまっすね。


「…………あんたたちって、やっぱり見てて飽きないわぁ」


 モニカはしみじみと、縁側で茶でもすすっているような表情で呟いた。

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