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第2話 VS四天王

 20日程前。

 勇者ユエルを筆頭としたパーティーが、魔王配下の四天王の一柱、知のマクスウェルを討伐するため、奴の居城へと乗り込んだのだが――。


「くそ、キリがねぇな!!!」


 俺は次々と迫り来る、人を模した自律起動する人形、殺人人形(キリング・ドール)を、手当り次第に両断しまくっていた。

 限界ギリギリまで剣速を上げて対応しているが、それでも相手の数が多すぎて、一進一退を繰り返すことしかできていない。


「せやッ!!!」


 気合と共に、間近に迫っていたゴーレムの一種である殺人人形(キリング・ドール)を斬り捨て、ようやく俺は僅かな余裕を手に入れた。

 俺は周囲に警戒しながら、後方に向けて声をかける。


「ティアン!? 魔力が戻るまでどんくらい必要だ!?」


「……あと5分」


 後方に待機している魔法使い(ソーサラー)のティアンから、ぼそっとした呟きがかえってきた。


 5分か……それまで保つか?

 ちくしょう、マクスウェルの野郎! 一体、何体の殺人人形(キリング・ドール)を飼ってやがるんだ!?

 このままじゃ押し切られちまう可能性もあるぞ!

 死力を尽くせば一時押し返すことはできるだろうが………………ここは撤退しておくべきか……?


 乱戦の中、ティアンは盗賊(シーフ)のスヴェンと共に、俺の後方で待機している。

 ティアンは強力な威力の攻撃魔法の使い手だが、強力すぎるゆえに、一発撃つと次の魔法を使うまで時間がかかってしまうのが難点であった。


 マクスウェルのいる広大な部屋は、殺人人形(キリング・ドール)で溢れている。

 先手必勝でティアンに魔法を撃ってもらい、その場にいたほとんどの殺人人形(キリング・ドール)を一掃したのだが、直後壁が開くと同時にわらわらと出てきやがったのだ。

 不意をついたつもりが逆襲をくらい、パーティメンバーは二手に別れてしまっていた。


「ふはははっはははは!! 粘るではないか剣聖よ!!!」


 何十、何百もの殺人人形(キリング・ドール)の後方から、ジジイのしゃがれた声があがった。


「マクスウェル!?

 てめぇ!! 魔王四天王の一柱だっていうなら、こそこそ人形の後ろに隠れてないで出てこい!!!

 四天王らしく堂々と戦いやがれッ!!!」


「ふぉっふぉっふぉ! 老体に鞭打つわけにもいかんでなぁ!

 ……どれ? 次はワシ謹製の合成魔獣とでも遊んでもらおうかのぅ?」


 ふざけんな!? まだ別のが出てくるってのかよ!?

 くそっ、このままじゃマジで押し切られて…………


神の祝福(ゴッド・ブレス)!!」


 右方から聞きなれた声が響く。

 僧侶(ヒーラー)のモニカが支援魔法を発動させていた。

 神の祝福(ゴッド・ブレス)は、対象の力とスピードと、魔法耐性能力を大幅に向上させる支援魔法だ。

 効果を発揮する時間は短いが、使いどころを抑えていれば超有用な魔法だ。


「よーし、ユエル!! あのジジイに一発かましちゃえ!!」


 俺から、およそ十数メートル離れた場所にいるモニカが、真っ直ぐに指差す。

 マクスウェルの声がした方向を差しているのだが、その先には殺人人形(キリング・ドール)の姿しか見えない。

 しかしモニカの言葉に、傍らに剣を持って立つ黒髪の少女、ユエルは僅かに目を細めてうなずいた。


 ユエルは静かに剣を構えて腰を落として集中し、


「…………飛燕烈天駆(ひえんれってんく)!」


 突如、矢のような速さで一直線に突っ込んだ。

 ユエルの身体の周りは白い光で覆われ、光に触れた先から殺人人形(キリング・ドール)共を盛大に吹き飛ばしていく。


 おおぅ…………ユエルの奴め。相変わらず、どういう威力だよ?

 本来の飛燕烈天駆(ひえんれってんく)って、直線上を高速移動して2、3人くらいなら吹き飛ばすことも可能な技だけど…………うん十の敵を問答無用で吹き飛ばしまくるとか、もはや別の技だろ?


「………………な、なな、馬鹿な!?」


 マクスウェルが驚愕の声をあげる。

 ユエルは強引に道を切り開き、マクスウェルの面前に立っていた。

 マクスウェルは、慌てて後方に飛んで間合いを取る。


「ぬぅぅぅぅうう!? さすがは勇者か!?

 しかぁし!! ワシも四天王の一柱、知のマクスウェルと呼ばれし魔人よ!!!

 たかだか小娘一人、ワシの力をもってすれば…………」

 

獅子連斬(ししれんざん)


 ユエルは恐るべき速さで間合いを詰め、瞬時に袈裟斬りからの3連撃をマクスウェルに与えた。


「…………ひょ?」


 腕と、胴体と、首が離れたマクスウェルは、その言葉を最後に絶命したのだった。




 ◇ ◇ ◇




 勇者ユエル率いるパーティがハイデルベルグ城に帰還した。

 魔王四天王の一柱、知のマクスウェルを打倒したとの報告をすると、城内は騒然となった。

 マクスウェルはハイデルベルグ王国に巣食う魔人で、王国は魔人が出現してからの数ヶ月、幾度も激戦を繰り返し多数の死傷者を出していた。

 魔人の脅威が去った事実は、城内はもちろん、街中がわきたち、毎年の王国建国祭を超えるお祭り騒ぎとなるのだった。




 夜半。

 俺は一人、城のバルコニーによりかかって外を見ていると、近づいてくる足音があった。


「こんなところにいたんですね」


 振り返ると、そこには純白のドレスで着飾った、黒髪の小柄な少女が立っていた。

 年は15歳。涼やかで凛とした雰囲気と、腰まで伸びた黒髪。整った顔立ちは、一見してどこぞの貴族の娘としか思えないが、これでも歴とした最強の勇者だ。


「俺はいてもいなくても変わらないからな。

 主役のユエルと綺麗どころがいれば、お偉方は満足するだろ?」


「そんなことを言って。

 ロイさんの剣に憧れる貴族や将校の方々が、話を聞きたいと探していましたよ?」


「おっさんがおっさんと話して何が楽しいんだろうなぁ?

 せっかくこんな城にいるんだから、俺はどうせなら可憐な令嬢と月を肴に談笑したいもんだぜ」


「可憐な令嬢ですか…………。

 では、探してきますね」


 そう言って、てくてくと歩いていこうとするユエルの腕を、俺は慌てて掴んだ。


「待て待て、待てぇい! 冗談だっつーの!

 ちっと飲みすぎたから、ここで涼んでただけだよ!!」


「そうですか?

 それでは、可憐な令嬢はいいんですか?」


 いいわけない!!

 いいわけないのだが…………ここでユエルを放つのは、あまりにもデンジャー!!!


「い、いらねーよ! だから冗談だって言ってるだろ!?」


「……そうですか」


 ユエルがようやく納得して、うなずいた。

 俺はユエルの手を離すと、背中から柱に寄りかかってため息をつく。


 真面目なユエルには、融通がきかないところがある。

 もしあのまま放っておいたら、ユエルはその辺にいる令嬢に片っ端から、「ロイさんが話をしてくれる女性を探しているのですが、バルコニーまでよろしいでしょうか?」などと声をかけまくるに違いない。

 ンなことになれば、俺は勇者をナンパの使いに出すアホ剣士だ。

 可憐な令嬢は欲しい。だが、リスクがあまりにも高すぎる!!


「……そういやユエル。お前、よく貴族連中から解放されてきたな?

 パーティーが始まってから、ずっと囲まれてたじゃねぇか」


 何と言っても、ユエルは勇者だ。

 問答無用の強さと、それに加えてかなり整った涼やかな外見。

 さらには、ここ最近、王国を苦しめてきた魔人を倒すという華々しい戦果をあげてきたとなれば、放っておく者などいるはずがない。


「花を摘みに行くと言って出てきました」


「…………あ、そうすか」


 古風な言い方をする奴である。

 やはりクソ真面目か。


「庭からエイリンの花の香りがしたので。

 庭師の方に許可をもらい、一輪いただいてきました」


 ユエルは、ドレスの肩口に差していた、6枚の花弁がついた花に触れた。花は白色で、拳くらいの大きさだ。

 ドレスが白いのもあって、花はドレスにほとんど同化していた。


「……って、本当に花摘みに行ってたのかよ!?」 

 

「えぇ。だからそう言ったじゃないですか?」


「言ったけどよ…………いや、いい。ユエルだもんな。

 その自由さが、お前の売りだもんな。

 俺も見習わないとなぁ」


 ユエルは俺と同じく剣を獲物にしていて、基本的には教本に沿った型をしている。

 俺が、徹底的に基礎から叩き込んだからだ。


 しかし、今では相手によって、ユエルの剣は自由に千変万化する。

 こうするのが一番効率がいい、というのをユエルは感覚的に迷いなく実行できるのだ。

 それはユエルの才能で、だからこそユエルは短期間で驚くべき成長を遂げたのだ。元はただの無力な村娘が、たった数ヶ月で勇者と呼ばれるようになるまで。

 まったく、大した奴だぜ。


 俺がしみじみとそんなことを考えていると、ユエルがめずらしくむっとした表情をした。


「心外ですね。

 ロイさんの方が、私よりもよっぽど勝手していると思いますけど?」


「ンなこと…………………………ねぇと、思うけどな」


「なんですか、その間は?」


「なんでもねーよ」


 ちょいとばかし、やましいところが脳裏をよぎってしまった。


 いや、やましくはないんだ。

 そうそう。やましさはない。まったくない。

 ないんだから、この際、さっくり言っておくとするか……。

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