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第14話 野盗さん、こんにちは

 ハイデルベルグ王国を出立して、俺たちはゼギレム帝国へと向かう。

 メンツは俺、モニカ…………そして、ジュリエッタ姫だった。

 のんびり歩いていくわけにもいかないので、移動手段には馬を用意してもらった。

 できれば明日には帝国へと到着して、情報収集に励みたいところなのだが…………。


「な、な……なんなんだおめぇは!?」


 30代中盤くらいの恰幅のいい男が、荒々しく吠える。

 そいつの周囲には十数人の男が待機していた。見た目の装備からしてもこの男がリーダーなのだろう。


 なんのリーダーかは言わずもがな。野盗だ。

 俺たちが馬で通りかかった際、たまたま商人の馬車が賊に囲まれている場面を目撃したのだ。


「くははははははははは!!

 わらわに…………私に! 見つかったのが運の尽きだったな!! 悪党どもよ!!!

 貴様がまとめ役か!? 

 おとなしくお縄を頂戴するもよし!! 妾…………私との勝機のない戦いに身を投じるも良し!!

 さあ、どちらか好きな方を選ぶがよい!!!」


 絶好調で、旅人風の服を着ているジュリエッタ姫が啖呵を切った。

 野盗共と馬車との間に、馬から降りた姫さんが勢い良く割って入ったのだ。


 俺はモニカと共に姫さんの後ろに控えていた。

 うーん、姫さん、生き生きとしているなぁ。楽しそうで何よりです。

 姫さんの元気なお姿を見ていると、思わず日なたで茶でもすすっているような気分になってくるよ。

 やったことないけど、要人の護衛任務ってこんな感じなんかなぁ。


「ぐ、ぬぅぅぅぅぅぅ!! 舐めやがってぇええええ!!!」


 男は吼えるものの、短気に襲いかかってはこない。

 姫さんの前には、先ほど勇ましく……というよりかは下心満載で襲いかかってきた男数名がぶっ倒れていた。

 幸いというか、死んではいない。速攻で姫さんに倒されていたが、致命傷とならない部分を斬られているにすぎない。放っておけば危ないだろうけど。


「お、おおおおおおおかしら!?

 ここここここいつ、べらぼうに強いですぜ!?

 どどどどどどどどどうしやすか!?」


 男の横にいた、三下らしい雰囲気の若い男が滅茶苦茶姫さんに怯えていた。

 無理もない話だ。

 旅人にしちゃあ明らかに美人に分類される姫さんの方から、野盗にからんだのだ。普通に考えれば鴨ネギだ。

 あいつらの脳内では、早々に姫さんを黙らせて身ぐるみ剥いでアレやコレやを楽しみたいと考えていたところだろう。

 奴らにはお気の毒さまだが、姫さんはまったくもって普通じゃないんだよなぁ。


「お、落ち着きやがれぇ!!!!

 見ろ!! 向こうは男1人に女2人だぞ!? 俺たちは何人いると思ってる!?

 このまま舐められたままで終われるか!!!!

 てめぇら!!! こいつらを皆殺しにするぞ!!!!!」


 リーダーの檄で、動揺していた男たちの眼に殺気が灯る。

 各々武器を掲げて、俺たちに肉薄してきた。


 まぁね。仮りにも賊だもんね。多勢に無勢の状態で、おめおめ逃げるのはできないよね。

 でも心意気は買うけど、心意気だけでどうにかなるほど、世の中甘くないんだよね。


「くはははははははははは!!! 戦いを選ぶとはよい覚悟だ!!!

 いいだろう!! わ……たしの剣技、とくとその目に焼き付けるが良いぞ!!!」


 姫さんが、突っ込んできた賊共を片っ端から斬り捨てまくっていく。

 斬り結ぶことなど一度もない。姫さんと賊が交差したときにはすべて終わっているのだ。

 まさしく瞬殺と言えるだろう。


「ち、ちくしょおおおおおおおおお!!!!」


 さきほど、リーダーの横で怯えていた男が俺の方へと突っ込んできた。

 決死の覚悟は感じるが、隙だらけだった。


 ひょいっと振り下ろしてきた剣を避けて、ちょいっと足を引っ掛けて転ばす。

 うつぶせになったところに、後頭部めがけて鞘入りの剣で小突いてやると、そいつはあっけなく気絶した。


 姫さんの方は、すでに大勢は決していた。言うまでもない。圧勝だった。 




「ありがとうございました!! 本当にありがとうございました!!!」


 何度も頭を下げる商人のおっちゃんと共に、俺たちは近くの街へとたどり着いた。

 俺たちは街の衛兵に事情を説明して、賊共を引き渡す。

 衛兵から幾ばくかの謝礼を受け取って、ようやく無事片が付いた。


「命の恩人に対してこんなもので恐縮ですが……」


 おっちゃんに渡されたのは、髪飾りであった。

 髪飾りには、赤色の小さな石が付属している。北方山脈で採れる、ギッケルと呼ばれる宝石であった。

 結構値打ちの石なのだが…………ハイデルベルグ王国の姫さんに贈る品としては少々格が足りない。


 姫さんもそれはわかっているはずだが、


「おお!? キラキラとして綺麗ではないか!!

 ありがたくもらうぞ!!!」


 と、嬉しそうにおっちゃんから受け取った。

 姫さんの上機嫌な態度に、おっちゃんはようやく笑みをこぼした。


「慌ただしくて申し訳ないですが、私はこれで失礼いたしますね」


 おっちゃんはもう一度頭を下げて、荷馬車と共に街の中へと向かった。


 さて、こっちはどうするかな。

 もう少ししたら日が暮れるし…………こっちは姫さんもいるからな。

 さすがに姫さんには野営の経験はないようだったし、少しの距離を稼ぐくらいなら、この街の宿に泊まる方がいいのか?


 微妙に迷ってしまい、モニカに意見を聞こうとしたところ目が合った。

 モニカはヘラヘラと笑って、


「私はどっちでもいいよー」


 先回りの返事をもらってしまった。話早いな。

 

 

  

 ◇ ◇ ◇




 結局、俺たちは日が暮れるまで馬で移動することになった。

 姫さんに宿に泊まるか確認したところ、


「なぜだ? まだ日が照っているではないか?

 このまま移動すれば、予定通り明日の昼前には帝国の首都につけるだろう?」


 と、至極当然に言われてしまった。

 うぅむ、この人本当にハイデルベルグ王国の王女様なのだろうか? 野営とか普通は嫌がりそうなもんだけど。


 しかし俺の心配をよそに、姫さんはその後も文句も言わずに俺たちに付いてきた。

 日が落ちて野営の準備をする際は、率先して周囲の検索や薪拾いをしたり、見よう見まねで馬の世話をしたりした。

 姫さんの分の食料は別にあるのだが、俺の携帯食を興味深そうに眺めていたので分けてやると「なんだこの不味さは!? 尋常ではないほど不味いぞ!?」とか言いながらも、なぜか楽しそうに食べたりしていた。ほとんど近所の子どものようなノリだった。


 テンションの高い姫さんも、さすがに一日移動して賊の相手もして疲れたのだろう。

 夜がふけるころには、焚き火の前で座ってうつらうつらして、そのまま眠ってしまった。

 姫さんの寝顔を見て、モニカがくすりと笑う。


「最初、お姫様が付いてくるって言ったときにはどうなることかと思ったけど、なんか普通に旅しちゃってるね?」


 話しながら、モニカは姫さんを横にして寝かせてやる。

 姫さんはまったく起きる気配がなく、すやすやと眠ったままだ。


 ふっと俺も笑いが漏れた。


「だな。こっちとしては余計な手間がかからなくて助かるからありがたいんだけどさ。

 あれやこれやワガママいっぱいに注文つけられたら、まともに旅なんてできねぇし。

 正直そんなことになったら、速攻引き返して王城に置いてこようかと思ってたよ」


「…………あんたってそういうところは、無駄にシビアだよね」


 モニカが呆れたように笑う。

 そうか? そもそも姫さんが旅をすること自体無茶なんだから、それくらいは考えそうなもんじゃないのか? 一応急ぎの旅ではあるんだし。

 まぁ姫さんの場合、めっちゃ強いから身の安全に関しては心配無用なんでかなり気楽だけどさ。


「そんなんだから、あんたはモテないのよ」 


「…………うっせ。ほっとけ」


 思わぬ一言に俺は軽口で答えるが、本当のところは超グサッと来た。


 ああああああああああああああああああああああ!!!

 ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 


 見てろよこのファッ○ンエルフめ!! 帝国の件をいい感じにおさめて、絶対にモテモテになってやるからなあああああ!!!!

 そのときになってお前が俺にすり寄ってきても、お前だけは絶対に相手してやらんからなああああああああああちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 俺は内心で血涙を流しながら、決意を新たにしていた。


「……あんたって、ホント、モテないよねぇ」


「ちょっと待てや。それ2回も言う意味あるか? ないよな?」


「だって面白いんだもん」


 おいおい、こいつ心底楽しそうだな?

 人の不幸がそんなに楽しいか? え?


「じゃ、あたしも寝るから。交代時間になったら適当に起こしてね」


 言うが早いかモニカは横になって、姫さんの隣ですやすやと寝息を立て始めた。

 野営だというのに、姫さんに負けず劣らずの無駄に安らかな寝顔だった。

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