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第13話 騒動のあとに

「そなたがそう言うのであれば、わらわの気持ちも決まる。

 ……いいだろう、ロイ。妾の心身、そなたに捧げよう!

 共に剣の道を歩もうぞ!!」


 姫さんが俺の手を両手で包んで、さらりと爆弾宣言を投下した。


「きゃー!? 大胆な告白!?」


 横で、なぜか無関係のモニカが口元に手を当てて楽しそうに盛り上がっていた。


 いやちょっと待て落ち着け俺生きてきた中で告白なんてされたことねぇしまさかそれが一生の話になるレベルとか考えたこともねぇし?

 姫さんは確かに美人だし剣の腕もたつから話も合いそうだし気立てもよさげだし普通に考えれば俺にはありえないほど上等な相手なんだろうけど王族だし自由が奪われるしモテモテになってハーレムみたいな状況になってみたいしでも姫さんめっちゃ美人だしこれだけの相手にこれから先俺が相手にされる可能性って……


 と、いろいろ脳内で考えはめぐっているいるんだが、混乱して言葉になららららららら。

 

「…………」


「ロイ? なぜ黙っておる?」


 脳内がオーバーヒートを起こして石化しているからです。

 だが、俺の繊細な心の機微がわからないジュリエッタ姫は、俺の手を握ったまま不思議そうに首をかしげた。


「!?」


 いかん! それやめて!? なぜか直視できなくなるから!?

 くっ!? 敵(姫さん)の攻撃力が甚大すぎる!!! なんかもう、無駄にいろいろ考えんでも、一緒になっちゃえばいいんじゃないかなーってマジでぐらついてきちゃうんですけど!!?

 

 精神力がどんどこ消費されていく俺に、姫さんが容赦なく追い打ちをかけてくる。


「もしや、剣の道を行く女は嫌いなのか?

 ……それは困るな。妾は、やはりこの道を極めたい。誰よりも強くありたい。

 他のことなら妾も折れることはできようが、これだけは曲げられん……」


 キッと姫さんは俺を見据えて、


「ロイよ! 妾にできることならなんでもしよう!

 妾を王女と思って侮るなよ? そなたを男として満足させる術は身に付けているぞ!!

 妾には母上直伝の妙技があるのだからな!!!」


 などと、ドヤ顔をするのである。でも顔は真っ赤になってしまっているのである。

 なんというサマにならない姫さんなのだろう。脳筋でも羞恥心はあるんですね。 


 姫さんが動揺してくれたおかげで、僅かに俺は冷静さを取り戻した。

 と、ちょんちょんと肩を叩かれて思わず振り返った。


「…………(ニタァ)」


 と笑う鬼がいた。鬼は王だった。ついでに血涙も流していた。




 それからは大変だった。

 超大変だった。

 もう一度だけ言うけど、ホント大変だった。


 まっすぐな好意で迫ってくるジュリエッタ姫。


 「ロオオオオオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオォォォィィィィィィイイイイイイィイィィィィ!!!!!!」


 と嗚咽&怒号を発する魔物モンスターと化したハイデルベルグ王。


 「姫様が…………幼少のころより剣にしか興味をもたれなかった、あの姫様が…………これほどまで想いを寄せる方が現れる日が来るとは…………くっ!!!」


 と、嬉し泣きを超えてマジ号泣する近衛隊長と、


「わかる!!! わかるぞ隊長殿!!!!

 私も、獣王国より戻られた姫様の振る舞いを見て絶望を感じたものだが…………まさかあの姫様のこのようなお姿が見られる日がこようとは……くぅぅぅぅぅううう!!!!!」


 と吼える大臣に囲まれ、更にそれは別の者へとも伝播していき王城は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


 結局、事の発端は姫さんが俺に求婚してきたことだけど、正直俺が一番不思議に思ってる。

 ジュリエッタ姫には俺の何がヒットしたの? 今後の俺のモテモテ人生計画のためにも、参考に是非教えて欲しい…………なんつーことを聞いてる余裕は当然皆無である。


 放っておくと本当に結婚の儀でも執り行いそうな勢い(そしてそれをぶち壊そうと暴れ出すオッサンの図式)だったので、


「…………帝国の侵略の魔の手が迫っているときに、何をのんきな!!」


 とか100%のマジ顔で突っ込んでやると、さすがに皆が落ち着きを取り戻した。俺は彼らに呆れたフリをして、用意された部屋へとこもって夜を明かした。厄介事を棚上げして逃げたとも言う。


 いや、本心から思ってることではあるよ?

 王国と比べて戦力2倍の帝国が、最強の勇者を引き連れて攻めて来るかもしれないとか、割りとヤバめの状況のはずだと思うんだけど。

 そんな時に王女とはいえ結婚がどーたらとか大騒ぎしてる場合かっての。この王国マジで脳天気すぎやしませんかね?


 しかし、この状態はまずい。

 俺自身も望まぬ結婚を強いられそうでヤバい。(断っておくが、姫さん自身は嫌いじゃない。むしろアリよりのアリだ! けど王族にされるのは御免だな)


 だが本当にヤバイのは、今後の帝国の動きだ。

 帝国の悪の大臣ゾギマスの野郎がどれほど軍を掌握できているのか、帝国が侵略戦争を仕掛ける本気度はどの程度なのか、規模はどれくらいなのか、どこまで準備は進んでいるのか、できるだけ現状を詳しく知っておきたい。


 そこで俺は翌朝、この二つを解決する思いつきを王へと提案した。




 ◇ ◇ ◇




「帝国へ行くだと!?」


 俺が迷いなく頷くと、ハイデルベルグ王は身を乗り出しかけて、すごすごと座った。


「…………王国でも帝国への諜報活動はしている。

 その情報だけでは足りんか?」

 

「昨日、モニカがもたらした帝国の現状を、王が把握していなかったことがすべてです。

 事は迅速さが要求されます。

 一刻も早く、多くの情報が必要となるはずですよ?」


「しかし、何もお前が直接行くことはないだろう?

 そういう話であれば、俺の方から改めて精鋭を募り、通常とは別動隊を組み調査させるぞ」


「無論そちらもお願いしたいと思います。

 俺とモニカだけでは、情報収集が不十分となる可能性もありますから」


「む…………うぅむ…………」


 王は渋い顔をしていたが、ここは納得してもらう他ない。


「俺とモニカであれば身の安全は問題ありません。

 万一、俺たちが帝国の動きを調べていることが露呈したとしても、俺たちが王国側の人間であると警戒されることもないでしょう。

 俺とモニカは王国出身ではありませんし、モニカはつい最近まで勇者一行として魔王を倒す旅をしていて、王国にはほとんど縁がありません。

 俺は、確かにここ最近は王国領の村に住んではいましたが、帝国がそこまで把握しているとは思えません。

 俺たちが王国側に付いていると推測されることはあっても、断定はできないはずです」

 

 まずないだろうが、もしも俺がザザ村にいたことが知られていれば、俺に悪感情を抱いているゾギマスのことだ。

 村にいた俺に対して、なんらかのちょっかいをかけてきていてもおかしくない。

 知の四天王、マクスウェルを倒したときまでは、俺が勇者パーティーの一員として行動していたことは把握していただろうしな。


「俺たちであれば、低いリスクで帝国内を動くことができます。

 情報収集だけでなく、うまくいけば今回の件の根本を潰すことだってできるかもしれない。

 仮に俺たちがヘマをして捕まったとしても、王国は知らぬ存ぜぬで通せば何も危険はないはずです」


「そうだな。だが、しかし」


 一度言葉を切り、ハイデルベルグ王の鋭い眼光が俺を射抜いた。


「…………ロイ、お前が裏切らなければな?」


 改めて、目の前の男が王なのだと否が応にも自覚する。

 王と呼ぶに相応しい、物理的な圧力でも持っているかのような威圧が発せられていた。


「帝国は、すでに勇者殿を取り込んでいるのだろう?

 お前たちが帝国側へと付き、王国の現状を漏らさぬとも限らぬ。

 魔王を倒した勇者一行に加えて、剣聖も加わりこちらの情報まで抜かれるとなると、我ら王国が対抗する術は非常に厳しくなるであろうな?」


 淡々と告げる王に、俺は跪いて頭を下げた。


「……ハイデルベルグ王。

 あえて言う。俺を信用してくれ。

 俺は、王国のため、なんて大層な理由では動けない。

 俺は、俺のために動く」


「…………」


「ようやく魔王を倒して平和の道を歩きだした世界で、戦争なんて馬鹿げたことはして欲しくねぇんだ。

 そんなことで振り回され、不幸になる連中を見たくはない。

 たとえ戦争の回避ができないにしても、どうにかして被害は最小限に食い止めたい。

 そのためにやれることはやっておきたい」


 ザザ村の人たちをはじめ、俺が旅をしていたときに立ち寄った街や村は、王国にも帝国にもある。

 多少なりとも縁があった場所が戦火に見舞われるなんて、ンな寝覚めの悪くなるようなことはごめん被りたい。

 それに…………、


「ハイデルベルグ王、もう一度だけ言います。

 俺は帝国へ行きます」


 王からの威圧を真っ向から受け止めて、俺が告げると、 


「………………は」


 ガシガシと王が頭をかいて、苦笑して手を振った。


「……どだい、俺がダメだと言ったところで、お前は勝手に行っちまえるだろ?

 いいよ! 行ってこい! むしろこっちが頼みたいくらいだ!!

 どこで奴らを迎え撃てばいいかわかれば、俺も王国騎士団も、完全武装で決戦に望んでやるとも!!」


 がはははははと笑って、ハイデルベルグ王が立ち上がった。

 この王、すでにやる気満々である。


 当然のごとく、近衛隊長からツッコミが入った。


「……いえ、たとえ開戦しようとも、王は国にいてもらいますけどね」


「なんだと!?」


 なんだとじゃねぇよ。当たり前だろ、おっさん。

 一国の王が気軽に最前線に来ようとすんな。



 そんなわけで、俺はモニカと共に帝国へと旅立つことになったのだ。



 …………ふ。

 ふっふっふっふっふ。

 ふふふふふふっふふふふふふふふふうふふふふ。


 っしゃぁぁぁぁぁぁ!!

 これで俺は、『やむを得ない理由』で王国から離れられる!!!

 やむを得ない理由!!!! なんて、いい響き!!! これ大事、超大事!!!

 なぜなら、これでジュリエッタ姫との結婚うんぬんも、いい感じにうやむやにできるってもんだからなっひょーーーい!!!!


 いやね、俺も一晩考えたわけよ。

 滅茶苦茶悩んだんだよ。王族だけはナイと思っても、やっぱり姫さんはどう考えても俺には高嶺の花だからさ。

 しかも、なぜだかよくわからんけど俺に好感持ってくれてるんだよ? ありえないし、こんな奇跡手放すとかもったいなさすぎるっしょ?

 だからさ、完全に破断にするのは惜しいから、いい感じに先延ばしにできないかなーって思ってたわけですよ。


 そこで、帝国の現状調査!!

 王国から離れて物理的に距離を置いちゃえば、どうしようもないだろ?

 うんうん、俺ってホント冴えてるなー。あまりに頭の回転がよすぎて、怖いくらいだぜ。くふっ。



 と、俺は完全に浮かれポンチになっていた。

 王の横で静観していたジュリエッタ姫が、「ならば妾も同行しよう!!」とか言い出すまではね……。


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