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第10話 激突、ジュリエッタ姫!

 近衛隊長の合図と同時に、ジュリエッタ姫が即座に間合いを詰めてきた。


 ……って、ちょっと待って!? この娘速くね!?


「ィヤァァァァァッ!!!」


 姫さんが気勢をあげて、斬撃を放ってくる。

 上下左右から来る連撃に、俺は動揺しながらも受け続ける。


 ちょっとちょっと、マジで速いんですけどぉ!?

 やっば!? マジやっば!?


「ハァッ!!!」


「うお!?」


 一旦呼吸を置こうとして後方に退こうとしたところに、姫さんが鋭く突きを繰り出してきた。

 俺はどうにか左側へと跳んで躱しきる。


 姫さんはそれ以上追撃してくることはせず、開始のときと同じくらい、10メートル弱程に距離が離れた。

 俺は無表情に徹しながら、


 え? え? ちょっと待って、なにこの姫さん?

 おかしくない? なにこの速さ? ひょっとしなくても、俺より速いだろこれ!?

 なんなのこいつ!? 本当に一介の姫様なのかよ!? いくらなんでも無茶苦茶すぎねぇか!?

 

 と、内心動揺しまくっていた。


 いや、だっておかしいだろこの姫さん!

 剣聖より速いとか尋常じゃなさすぎでしょ!? 脳筋にもほどがあるよ!? マジでびっくりしたぞ!?


 こっそり背中に冷や汗を流していると、ジュリエッタ姫が余裕の笑みを浮かべた。 


「……なるほど。見た目からは大して鍛えているようには見えなかったが、さすがは剣聖といったところだな?

 わらわの剣をここまで見事に防がれたのは、久しくなかったことだぞ!!」


「俺はここまで滅茶苦茶な動きをする奴は…………久々に見たよ……」


「ははははは!! 当然だ!!! 妾は誇り高きハイデルベルグ王の娘ぞ!!!」


 満足気に笑う姫さんだったが、いきなりむっとする。


「しかし気に食わんな。

 『久々』などと言われるとは。つまり妾と同等の者が他にもいると言いたいわけか?」


「……さてな?

 姫さんも大概規格外のようだけどよ。

 世の中、化け物みたいな連中は意外といるもんだぜ?」


 俺の言葉に、姫さんはピクリと形のいい眉を動かした。


「ほほぅ。その化け物にはお前も入っているのか?」


「片足くらいは突っ込んでるっていう自負はあるかなぁ」


 一応剣聖って呼ばれるくらいは強いしな。

 10年以上前とはいえ、魔王だって倒してるわけだし。


「…………そうか」


 姫さんが静かに呟いて、燃えるような瞳で俺を射抜く。ジリジリと火傷でもしそうな気を発していた。


「ならば、妾がその化け物の中でも最強だと、お前に身をもって教えてやろう!!!」


 爆発でもしたかのような音を立てて、姫さんが地を踏み込む。

 仕掛けも糞もない。姫さんはまっすぐに突っ込んできて尋常ではない速さで剣を振り下ろしてくる。

 気持ちが乗った、清々しく感じられる凄まじい一撃だ。



 ………………でもそれじゃあ、『最強』とは言えないぜ?



 俺はギリギリを見切って真上へと跳び、姫さんの一撃を紙一重で躱す。

 姫さんの剣をやり過ごすと同時に、空中から剣を振り下ろす。


「ぐっ!?」


 上方からの攻撃を、姫さんは身を低くしてやり過ごした。


 いい勘してる! だが、もう一丁!!


 俺は空中で剣を振るった勢いのまま一回転して、


「おらよっ!!」


 回転した勢いを付けて、さらに姫さんに追撃をかける。

 姫さんはしゃがんだ体勢のまま、しかし素早く剣を掲げて俺の一撃を防ぐ。


 俺は無理矢理に力押しで押し込み、姫さんを地に釘付けにする。姫さんの表情が険しくなる。

 俺が着地して剣の圧力が離れると、姫さんは慌てて立ち上がった。しかし、姫さんは無理をしたせいか、硬直したように動きが一瞬鈍る。一瞬だが、この上ない隙だった。


 …………さて、これが防げるかね? 


獅子連斬(ししれんざん)!!」


 袈裟斬りから始まる連撃。勇者ユエルが、知の四天王マクスウェルを葬ったときに使った剣技だ。

 俺は高速の三連撃を、姫さんへと一瞬で放つ。

 ギィィンっと、ほとんど一度にしか聞こえない甲高い金属音が響いた。

 姫さんが、奥歯を噛み締めるように顔を歪ませていた。


 ……おお! 防ぐかなーとは思ったけど、マジで受けきるとは…………やってくれるじゃねぇかよ!! 


 感心する俺に、姫さんがすかさず反撃してくる。

 上下左右、バラバラにくる素早い連撃を俺は一つ一つ丁寧にさばいてやる。


 これだけ剣を合わせれば推測できる。

 おそらく、姫さんには基本の型がない。

 強いが、あくまで我流。我流ゆえに剣の出どころは判別しにくいが、非効率ゆえに多少俺の防御が遅れても受けきる余裕がある。


 姫さんは獣王国で鍛えられたおかげか、剣速と軽快な身のこなしは目を見張るものがある。剣の筋もいい。才能でいえば、掛け値なしに最強をうたえる器だろう。

 だがいかんせん、剣の技量は今ひとつだな。振りは速いが、力が乗り切っていない。連撃はできても、そのほとんどが軽い。


「…………ぐぅぅぅ!?」


 何度も剣を振るっているのに有効な斬撃が一度も出せないことから、姫さんは攻めているはずなのに余裕を失っていく。


 さて、そろそろかな?


「ちぃッ!!!」


 突き放すように、姫さんが重い一撃を入れてきた。

 俺が受けると同時に一歩後ろへ退くと、姫さんもバックステップを踏んだ。


 攻めあぐねて有効打が入れられない相手を前にして、プレッシャーに耐えかねて一呼吸入れたいんだろうけど…………残念! 逃がさねぇよ!!


烈空天翔破(れっくうてんしょうは)!!!」


 俺は矢のような速さで一直線に翔ぶ。

 姫さんに体当たりする勢いで突進し剣を振るう。

 姫さんは下がり際に攻撃が来て動揺したようだったが、どうにか俺の一撃は防いだ。

 並の相手なら、この一撃で終わってるところだ。野生の勘というか、センスは本当に抜群だな。


「お見事…………だが、これで終わりだ!!」


「ッ!?」


 俺は剣を合わせたまま腰を落とし、爆発するようにしたたかに地を踏み込む。

 突進した勢いを上乗せさせて、俺は鍔迫り合いをする姫さんごと高く翔び上がって吹き飛ばした。

 

「……くぅっ!?」


 空中に吹き飛ばされて動揺する姫さん。完全に体勢を崩してしまい、姫さんは着地に失敗して背中から地面に叩きつけられた。

 苦悶の声を上げるものの、姫さんはすぐに剣を拾いあげ立ち上がろうとして、


「……………………ぐ……うぅうぅぅう……」

 

 状況はわかっているものの、納得は出来ないといった感じの顔をして唸った。

 喉前に突きつけられたのは、俺の剣。

 姫さんは悔しそうに俺を睨みつけていたが、


「………………まいった」


 とうとう観念し、僅かにうつむいた。

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