第9話 アホの娘の正体
なぜだろう。
なぜこうなったんだろう。
ていうか、こんなことやってる暇あんの?
俺とアホの娘……自称ハイデルベルグ王国第1王女、ジュリエッタ・ハイデルベルグは、互いに剣を持って対峙していた。
「剣聖ロイよ! 妾を相手にして逃げぬことは褒めてやろう!!
その蛮勇を讃え、妾が全力をもってお前を倒してやるとしよう!!」
ビシィっとハイデルベルグ王国第1王女、ジュリエッタ・ハイデルベルグが俺を指差した。元気いっぱいだな。
これまで俺もスルーしてきたが、ハイデルベルグ王や大臣たちも名乗りに関してはスルーしてるようだし自称じゃなくて本当なんだろうなぁ。
本当じゃなかったら、大胆すぎる詐称に死罪待ったなしだろうし。
「……ロイ、ロイよ」
ハイデルベルグ王が、すすすっと俺の横へと移動してきた。
「あんですか王様?
俺はですね、今あんたんとこのパッパラな娘さんに絶賛絡まれ中でお忙しいんですけど」
「ふっ。可憐だろう?」
おい、親バカ。
…………この王様、ホント身内の中だけになると、そこらへんにいる単なるおっさんだよなぁ。
確かに姫さんは背の高さが普通な割にシュっとしてるし、ちゃんと出るとこ出てるし、意志の強そうな目はキラッキラしてる美人だ。結ってる金髪がうなじを見え隠れしてるのもポイント高い。
でもな、互いに剣持って対峙している状況で王様がこっそり言う言葉がそれかい。
「アレは第2夫人のイェールレイディとの間に生まれた娘なのだが、俺たちに似て美麗ながらも健やかに育ってくれたのだ」
聞いてねー。
「……というかあの姫さん、止めなくていいんですか?
怪我をさせるつもりはありませんが、手を抜くつもりもありませんよ」
ぶんぶんと何度か素振りをする姿を見ればわかる。
ジュリエッタ姫は、強い。
唐突にやってきて勝負を挑んでくるというアッパーな言動からは到底想像できないが、かなりキレのある剣の振りをしている。
おそらく、そこに控えている近衛隊長レベルはあるだろう。
つまり、ひょっとしたらこの国で上から何番目かの強さの部類に入るかもしれないということだ。
手を抜くつもりがないのは、抜いたら普通にやられそうなことがわかっているからだ。
………………まぁ、なんですか? あんなことやこんなことがOKだというのであれば? 手心を加えるくらい考えてやらんこともないけどね?
それにしたって、王様の娘って時点でないけどさ。遊びでも本気でも俺の人生終わるわ。
「はっはっは! 剣聖たるお前に負けろとは言わん!!
しかしな、実はお前がジュリエッタを相手にするのは楽しみでもあるのだ。
アレは筋がいいぞ? あのころの俺よりも強いと思ってくれていい。
俺は案外、お前といい勝負をするのではないかと思っている」
「あの様子見れば実力があるのはわかりますよ。
そもそもなんなんですかあの姫さん? 俺は初めて見ますよ。
王の子は王子ばかりで、姫がいたってこと自体初耳ですし」
「当たり前だ。表舞台には立たせておらんし、ある程度の情報統制はしていたからな。
おいそれと知る者はいないぞ」
「……はぁ。なんでそんな面倒なことを?」
「決まっておる!!
目に入れても痛くないほど、愛らしいからだ!!!
俺の娘は絶対に嫁にやらん!!! だれにもやらんぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「…………」
おい、おっさん。
「ロイよ、手を抜けとは言わんが、万が一怪我でもさせてみよ?
…………俺は王となってから初めて、王としての最高権限を発動させるかもしれん」
「個人相手に戦争しかけるなよ!?」
その度胸、帝国相手に使えや!!
「ぐははははははははは、軽い冗談だ!!!
なぁに、少し小難しい話をして肩も凝ったからな!!! こんな催し物も悪くないだろう?
お前には悪いが、かわいい娘のわがままに付き合ってもらうぞ」
豪快に笑う王に、俺は苦笑する。
「……いつかのときを思い出しますね。あのときも、これくらいは強引でしたよ?」
「はて、そんな昔のことは、俺は忘れてしまったなぁ?」
まったく、都合の悪いことだけはなかったことにしてしまう困った王様だよ。
「それにしても、あの姫様。立ち居振る舞いが普通の剣士と比べても段違いすぎですね。
魔王領にでも遊びに行ってたんですか?」
「ジュリエッタは獣王国へと留学していたのだ。
つい最近帰ってきたのだが、成果と称してドーベングルズ将軍と戦ってな。
皆危ないからやめろと言ったのだが、あのとおりの猪突猛進具合で聞く耳持たん。
渋々将軍が受けて戦いが始まると、予想に反してジュリエッタが将軍を倒してしまってな。それも傷ひとつ受けぬ完勝よ。
将軍が手を抜いたと言う輩もいたがな。ジュリエッタとの戦いの後、将軍が職を降りると言ってきかなかったのだ。アレに敗けたのがよほどこたえたらしい。
今では初心に戻って、職務の合間に新兵たちに混ざって訓練している姿が見られるぞ」
……ちょっと待て、ドーベングルズ将軍って、確かめちゃくちゃ体格のいいゴリゴリの叩き上げの将じゃなかったっけ?
頭もキレるけど、実力も確かっていう心技体オールマイティの将軍様だと思ったんですけど?
………………どうやら、あの姫さん、本気で油断ならねぇタマらしいな。
俺が顔を向けると、うずうずとした様子の姫と目があった。
「さて、ロイよ! そろそろ心の準備はできたか?
勝負を終えた後に、妾が王女であったから敗けたのだと言い訳するでないぞ?
もっとも勝負の後に、それだけの元気があるとは限らんがな!!」
余裕の表情で剣を構えるジュリエッタ姫。
実力も自信も十分ってことか。
獣王国で、俺たち人よりも身体能力の勝る獣人を相手にしてきたのなら、それもうなずけるかもな。
…………ま、なんかあったとしても、モニカがいるからな。回復魔法で万事解決だろ。
俺は自分の魔剣レーヴェルスフィアを抜いて、剣の先を下方に向けて構えた。
「ご安心ください。
生憎と俺は過去、姫様よりも緊張する相手にきっちり勝ちをおさめていますから」
「父上のことか? くははははははは!! 面白い、よくぞ吠えた!!!!
なれば妾のことも見事父上のように倒してみせるがいい!!!!」
……おうふ。
おいおい、なんなのこの姫。完全に戦闘狂の台詞じゃん?
おっかしーなー、ここの王子様たちは普通に王子っぽい方たちだと思ったんだけどなぁ。
この姫さん、ハイデルベルグ王の特別にヤバイ気質なところだけを受け継ぎすぎじゃないですかね?
「…………お二方とも、準備はよろしいでしょうか?」
近衛隊長が、俺と姫さんの顔をうかがう。
俺たちが双方うなずくと、彼は静かに息を吸って、
「それでは――――始めッ!!!」
戦いの開始を告げた。




