5、レベルアップ!
「それにしても、このレベルアップというのはすごいわね。明らかに、これまでよりも強い力が全身にみなぎっているのが感じられるわ」
イリヤが感心したように言った。
「それが、ダンジョンに満ちる魔力に身体がなじむということだ」
自身の身体に起こった変化に喜ぶイリヤと話をしながらダンジョンを歩いていると、下へつながる階段が見つかった。
「よし、レベルも無事上がったことだし、下の階に降りるぞ」
「ええ、そうしましょう」
俺の言葉に、イリヤも頷いた。そのまま階段を降りることに。
そして……地下二階。
一階とほとんど変わらないようなフロアだ。
イリヤと共にフロア内を散策。
時折現れるスライムを蹴散らしながら、そろそろ別種のモンスターも出現するのでは、と考えていると……。
「わ、なにこの……気持ち悪いモンスター!?」
イリヤが明らかに嫌悪を滲ませた声音で告げた。
「ゴブリンだ」
俺は答えた。
ゴブリン。
それはダンジョンの低階層に出現するモンスターだ。
スライムほどではないが、雑魚。
しかし、群れると意外と厄介で、こいつらに囲まれて殺されてしまったことが、実は何度かある。
その時の恨みを思い出し、俺は宣言する。
「とりあえず、初めてのゴブリンだ。俺が囮になるから、イリヤは隙をついてゴブリンをぶっ殺してくれ」
「ええ、合点招致よ!」
「……」
それにしてもこのシスター、ノリノリである。
胡乱な視線を送ってから、俺はゴブリンへと向かう。
棍棒を握りしめたゴブリンに、俺は大振りに殴り掛かる。
見え見えの攻撃、当然避けられる。
隙あり! とばかりにゴブリンが攻撃に転じたところを、イリヤが杖でぶちのめした。
パシャ、と返り血が白い修道服を赤く染めた。
「よし!」
このシスター、ノリノリである……。
「あのさ、もうちょっとこう……葛藤したら?」
スライムは不定形の人ならざるモンスターだったが、ゴブリンは人型。
それを殺すことに、躊躇いを覚えても良いのではなかろうか?
そう思い、俺は問いかけた。
すると、イリヤは思いつめた表情をしてから、口を開いた。
「そんな甘い考えでは、私の目的を果たせない……」
「目的……?」
俺の言葉に、無反応のイリヤ。
……まぁ、良いか。冒険者稼業なんてやっていれば、誰にだって人に言えない過去の一つや二つあるもんだ。
パーティを組んだだけの他人に、そこまで踏み込んだことを聞くことはマナー違反か。
「足手まといにならないのであれば、それで構わねぇ」
「……助かるわ」
俯きがちに、イリヤは言った。
その返答を聞いてから、俺はゴブリンが使っていた棍棒を拾う。
一応、このダンジョンに入ったときに、いつもの得物であるダガーナイフは装備をしている。
が、低階層からメイン武器を使って、消耗させたくない。
先は長いのだ。この周辺の雑魚であれば、棍棒で問題なく撲殺できる。
「結構似合うじゃない」
「褒めてんのか、それ?」
イリヤの言葉に、俺は複雑な気持ちになった。
そして、ダンジョン探索を再開した。
二人でフロアを進みながらエンカウントしたゴブリンを倒し、スライムを倒し、またゴブリンを倒し、そしてレベルが上がった。
「やった、またレベルアップよ!」
「……おー、良かったな」
おっかねー女。
白い修道服を、ゴブリンの返り血でほとんど深紅に染めたイリヤの笑顔を見ながら、俺はそう思った。