3、イリヤ
「なぁ、アレン。お前こんなんで人が集まると思ってるのか?」
「集まるだろ。……なんだったら、お前とパーティ組んでも良いんだぞ、ヴラド?」
「冗談は顔だけにしろってな」
隣に立つ青年、ヴラドが言った。
このヴラドという男、一言でいうと屑だ。
屑が屑らしく、俺が作成したパーティーメンバー募集の広告を見てケチをつけてきやがった。
「いや、俺も【ブラッド・レイン】と一緒に、ホントは冒険なんかしたくないぞ? 寂しがるだろうから、声を書けてやっただけだ、勘違いするな。分かったか? 分かったら死ね」
ヴラドには、通り名がある。
目立った行動をしたり、数年程度冒険者をやっていれば自然とつくものだ。
因みに由来は、名前のもじりとこいつがダンジョンに潜ると「血の雨」が降るからだ。
……問題は、ヴラド自身の血の雨だという事か。
「おい、その名で俺を呼ぶんじゃねぇ、「カウンターストップ」がよ」
中指を立てながら俺を蔑むヴラド。
「カウンターストップ?」
聞きなれない言葉に俺が首を傾げると、
「上限の999回までダンジョン攻略できずに、ステータスプレートに挑戦回数が反映されなくなったお前は、今そういう風に呼ばれてるぜ」
ニタニタ笑いながら、ヴラドがそう言った。
「あ? なんじゃその通り名。舐めてんのか? お、やんのか、この野郎?」
「お? 上等だこの野郎」
取っ組み合いの喧嘩になる俺とヴラド。
ギャラリーは俺たちの喧嘩を見てはしゃいでいる。
会場のボルテージは最高潮。
もうすぐ俺とこいつの死闘が幕を開ける!
「この張り紙は、あなたが掲示したもので、いいのよね?」
はずだった。
急に現れた、一人の女が俺たちに声を掛けてきた。
……一色触発の条件下であるにも関わらず、だ!
「俺……だけど。あんたは?」
ヴラドを無視して、俺はその女に問いかけた。
「それなら良かった! 私をパーティメンバーに、してちょうだいよ?」
その言葉を聞いて口開いて間抜け面を晒す俺たち。
その言葉が信じられなかった。
理由は二つある。
まず、一つ。
そいつがめちゃくちゃ「良い女」だったこと。
質素な装飾が施された修道服を着た、金髪碧眼。
ついでに中々の乳をしたどえらい別嬪。
冒険者稼業なんざ似合わない、どこぞのお姫さんのような女だ。
そして、空気の読めなさが半端ない。
さっきまですんげー喧嘩してたのに、なぜここで話しかけたんだ、こいつ?
「はぁい、お嬢さん。こいつと冒険者やりたいんだって? 悪いこたぁいわねぇ、そいつはやめときな。パーティメンバーが欲しければ、俺たちのところに来れば良い。なぁに、悪いようにはしねぇよ」
下卑た眼差しを美女の胸元に向けながら、ヴラドが言う。
「いやよ」
「……なんだと?」
「だって、この人がこのギルドの冒険者で、一番到達階層が高いって聞いたもの」
「いやいや、あいつが一人で潜れる階層がすげぇっつても、パーティを組んだ状態ではない。それだったら、俺たちと一緒に来たほうがよっぽど良いぜ」
「そうなの? ……ちなみにあなたは、何階層が最高なの?」
「19階層さ」
「あ、俺25階層だから」
「よろしくお願いするわ、アレン」
俺の言葉を聞いたその女は、迷うことなく俺の傍に歩み寄ってきた。
ヴラドが恨めしそうに俺を睨んできた。
「っつっても、まぁ、ただの足手まといなら、正直いらねえんだよな……」
「心配無用。私、魔法を使えるの。特に、回復魔法は得意なの」
魔法。
それは、一部の特殊な環境で育ったものにしか使えない特別な力。
ダンジョン攻略でも、魔法使いがパーティにいるかいないかでは、難易度が全く変わる。
なるほど、それならこの女、意外と拾いものかもしれない。
「そう言うことなら歓迎だ、よろしく頼むぜ」
「ええ、こちらこそ、よろしくお願いするわ」
差し出された右手を、こちらも握り返す。
足手まといになるかもしれないが、その時は問答無用で置いていけばよい。
死んだって、どうせ生き返る。
あと腐れはないだろう、そう考えれば気が楽だ。
「そんじゃ、早速ダンジョンへ向かいたいんだが……ええと」
「まだ名乗ってなかったわね、失礼しました。私はイリヤ」
「よし、イリヤ。装備が整っていたら、早速ダンジョンに潜ろうと思うのだが」
「私はこの杖があれば、それで十分よ」
これまた簡素な装飾が施された木製の杖を掲げて見せたイリヤ。
俺は彼女へ視線を向けてから、頷いた。
「よし、それじゃ受付に行くからよ。ついいてきな」
俺はイリヤにそう声をかけて、受付へと向かった。
そしてヴラドが何食わぬ顔でついてきた。
「ただしヴラド、テメーはダメだ」
ヴラドは驚愕の表情を浮かべて固まっていた。
いや何お前ついて来ようとしてんの?
ダメに決まってんじゃん、と俺は思いつつ。
アホを放ってイリヤとともに受付へ向かうのだった。