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23、脱落

 一撃でオーガを討伐してからも、油断なく俺たちは迷宮を進む。

 基本的にはモンスターとの戦闘を避けて進むが、時には戦闘を避けられないこともある。

 そんな時は、三人のコンビネーションでモンスターを退ける。


 そして、俺の指示を従順に守る2人とともに、とうとうソロでの最高到達階層である25階への階段を見つけた。


「……この先は、25階層だ」


 俺の呟きに、ごくり、とマギカがのどを鳴らした。


「凄いです、まさかこんな短期間でここまで来られるようになるなんて」


 イリヤはマギカの言葉を聞いて深く頷き、それからうっとりとした表情を浮かべた。


「流石は、ご主人様です……っ!」


 全自動ご主人様AGEマシーンと化したイリヤと、なんやかんやで俺に全幅の信頼を寄せちゃったマギカに向かって、俺はゆっくりと口を開いた。


「ここまで来られたのは僥倖だ。……この先は、厳しい戦いになる。何せ、俺がこれまで一度も攻略をすることができなかったんだからな」


 俺の言葉に、二人はハッとした表情となった。


「アレンでも攻略できないなんて………一体、この次の階には何があるって言うんですか!?」


 マギカが驚いたように、そして不安そうに呟く。


「そうだな、説明をしておこう。次の階は――必ず、怪物たちの居城モンスターハウスになっている。しかも、雑魚モンスターは一体としていない。……数え切れないほど多くのオーガが、そこにはいる」


「……それって、どうやって攻略すればよいのでしょうか?」


 イリヤが救いを求める様に言う。

 俺は彼女に視線をまっすぐに送り、そして応える。


「お前が鍵だ、イリヤ」


「私が鍵、ですか?」


 不思議そうな表情を浮かべて、彼女は言う。


「ああ、そうだ。次の階層を攻略するには……イリヤの【イビルゲート】でオーガたちを全滅させる必要がある」


「でも、イリヤの【イビルゲート】はコントロールが難しいのではないですか?」


 マギカが俺の言葉に対して、即座に返答する。

 その危険性は、もちろん承知の上だ。


「ああ、そうだな。だが今はのイリヤは、これまで以上にレベルが上がっている。そして……前回までのダンジョン攻略で犯した失敗も、すべてイリヤの経験となっている」


「それが一体、どういう……?」


 不思議そうに首を傾げるイリヤに、俺は告げる。


「自分の魔法を何度も暴走させてしまった経験があり、そして厳しい冒険で鍛えられた今のイリヤなら。レベルアップして強力になった【イビルゲート】すら使いこなせるはずだ……っ!」


 俺の言葉に、イリヤはそれでも不安そうに応える。


「ですが、私は……」


 その戸惑った表情を見ていれば分かる。

 彼女は、自信が持てず、不安なのだろう。


 だが、そんなことは関係ない。


「大丈夫だ。俺は、お前を信じている。イリヤなら、必ずできると。……だから、何も心配するんじゃねぇよ」


 俺の言葉に、イリヤは頬を朱色に染め、無言のまま感動の涙を流し、


「ご主人様の御心のままに……」

 

 と呟いて頷いた。勢いで誤魔化せたことをラッキーと思う反面、宗教って怖いなぁと俺は思ってちょっと引いた。


「なるほど、それなら可能性はあるかもしれません!」


 能天気にマギカが言った。

 彼女の言葉に、俺は大きく頷いて応える。


「……それじゃ、残り2階層、気合入れていくぞ!」



 それから俺たちは階段の先、25階層に足を踏み入れる。


 途端、地響きにも似た音が耳に届く。

 それは……オーガたちの雄叫びだ。


 目前を見ると、おびただしい数のオーガがこちらに殺意の篭った眼差しを向けて立っていた。

 俺たちという、新たなる獲物が現れ、喜びに震えているのだろう。


 オーガの視線に、マギカとイリヤが「ひぃっ……」と短く悲鳴を漏らした。


「憶するな、二人とも。ここまで来られた俺たちなら、やってやれないことはねぇ。大丈夫だ、自分を信じろ」


 狂気を孕んだ眼差しでこちらを睨みつけるオーガの群れが、我先にと言わんばかりに俺たちへと突撃をしてくる。

 足並みはそろっていない。

 故に、俺たちの下に来るまでには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。

 

 俺は落ち着いてから、イリヤへと視線を向けた。

 彼女は先ほどの俺の言葉を反芻しているのか、ゆっくりと頷いてから言う。


「はい。……ご主人様を信じます」


 ……俺の言葉はちゃんと伝わっていないようだったが、イリヤは落ち着いたようなのでオールオッケー。

 彼女はそのまま、真剣な表情を浮かべて、錫杖を掲げて告げる。


「私の願いに応じ、力を貸してくださいご主人様……【イビルゲート】!」


 いつも言うけど、別に俺は関係ないから。

 だからマギカ。

 俺の方を畏敬の眼差しで見ても、何の意味もないぞ。


 そんなことを思いながら、到来するオーガの群れへ目を向ける。

 そのうちの一体がイリヤへと腕を伸ばす。

 華奢な彼女の身体は、その丸太のように太い腕に捕まれて、絶命をすることに――は、ならなかった。


グッゴッガガアアアアア!

 

 耳朶を打つのは、苦痛に満ちた断末魔の叫び声。


「私とご主人様の力。その身をもって知るが良いわ!!」


 イリヤの発動した【イビルゲート】によって現れた、巨大な漆黒の腕。

 それは、これまでで最も大きく狂暴な姿をしていた。

 ……もちろん、俺の力ではない。

 なので、俺に向かって自然と頭を垂れるのはやめてくれないかマギカさん?


 オーガはその腕を見て、一瞬怯む。

 しかし、その後。

 無残な肉塊となった同胞の無念を晴らすべくだろうか、怒りの形相を浮かべて、次々とイリヤへと到来していく。


 しかし……。


「口ほどにもないわね。オーガといえども、今のレベルアップをした私と、ご主人様の力の敵ではないわっ!」


 イリヤがオーガに向けて指さすと、それに伴って左右一対の腕が、醜悪で強大なモンスターへと襲い掛かる。

 反撃を試みるオーガだが、彼女の言った通り、レベルアップした漆黒の腕には、為す術がない。


ゴッガアアアアアアアアア!


 耳をふさぎたくなるような断末魔の叫び。

 ……それが俺には愉快で仕方なかった。


 計画通りだ。このまま上手くいけば、何も問題はない。


 それにしても、凄い力だ。そしてそれを、今のところ完璧にコントロールしているイリヤも、すさまじい。

 オーガの群れを一網打尽、あとはもっとも大柄なオーガを残すのみとなった。


「これで終わりよっ!」


 そう言って、イリヤが最後に残ったオーガに向かって腕を振るう。

   

グガッ!


 恐怖に怯えたオーガの声。

 それを聞いたイリヤは、とても愉快そうに、嗜虐的に笑った。


「最高です、ご主人様の与えてくれたこの力は! 醜悪で劣悪なモンスターも、こうして簡単に屠ることができます! 私は、この力を……完璧にコントロールして見せました! ご主人様、あなたのおかげです!」


 恍惚とした表情。

 それを見て俺は、「やっぱり宗教ってコワー」と、普通に引いていた。


「さぁ、これで……お終いよ!」


 イリヤの言葉の後、漆黒の腕がその手に力を込める。

 苦悶の表情を浮かべたオーガだったが、抵抗をすることなどできるはずなく。


ッガッゴオォォォォォオオオ!!!


 最後はあっけなく、叫び声を上げて死ぬのだった。


 戦いは終わった。

 これにて25階層は攻略完了――。


「……あれ、イリヤ? もうオーガはいないから、その魔法は消して良いんですよ?」


 マギカが呆けた表情で呟いた。


「……」


 しかし、イリヤはその声には応えない。

 ――これも予想通りだった。


「あれ、イリヤ? どうして漆黒の腕が私にも向かってきているんですか??」


 マギカが怯えた声音で問いかける。


「……」


 しかしイリヤは応えない。

 そのまま、マギカが漆黒の腕に囚われそうになって――。


 俺はスキル、【第六感】を発動させ、マギカを間一髪のところで救い出した。


「あ、アレン! ありがとうございます、助かりました!」


 心底ほっとしたように、マギカは言う。

 俺は彼女に応えないまま、イリヤへと目を向ける。


 そこにいたのは……


「すみませんご主人様……やはり私には、全くこの魔法をコントロールできません!」


 と、自分の発動した魔法に捕まっている、間抜けな女の姿があった。

 あまりにも真剣な表情で泣き言を言っているもんで、俺はちょっと笑いそうになった。 


「……安心しろ、イリヤ」


 俺は彼女に向かって微笑みかける様に言う。

 一瞬安堵の表情を浮かべたものの、次の俺の言葉を聞く前に、


「……っあ。ごご主人様、ばんざーい!」


 と叫んだ後、漆黒の腕に握りつぶされてしまったイリヤ。

 こういうのを狂信者って言うの? やっぱ超こええ。

 俺は能天気にそう思った。

 そして、瞬時にイリヤのぺしゃんこになってしまった躯と漆黒の腕が消えた。


「あ、ああ……イリヤ。どうして」


 マギカがショックを受けていた。

 しかしそれを見て、俺は思わず口元に笑みを浮かべてしまった。

 それは、決してイリヤの死にざまが面白おかしかったからではない。



 ここまでがあまりにも、計画通り過ぎてだ。



「安心しろ、イリヤ。お前の犠牲は無駄にはしない」


「……アレン?」


 途端、俺の身体から力がみなぎってくる。

 マギカを見ると、彼女も同様の体験をしているようだった。


 これは、何十ものオーガを倒した経験値を、一気に獲得したことによるレベルアップによるものだ。

 俺とマギカは何もしていないが、三等分するはずの経験値を二人占めすることができた。

 それにしても……ここまで一気にレベルが上がるとは。

 

 マギカが驚きの表情を浮かべていた。


「イリヤが死んだのは残念だが、それでも俺たちは進まなければならない。死に戻ってあいつに合わせる顔なんてない。……最後まで攻略すること。それが今、俺たちがあいつにできる最善のことだ!」


 俺の言葉に、マギカは力強く頷いた。

 最初からこうなることを見越してイリヤを捨て駒にしていたわけだが、そのことを問いただすような素振りはない。


 当然だ。

 今のマギカは、俺に全幅の信頼を寄せているのだから。


「行きましょう、アレン。……最後の戦いへ!」


 マギカの言葉に、俺は心中で「チョロすぎて心配になるぜぇ」と思ってから、仰々しい表情で頷いたのだった――

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更新再開!!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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