21、嘘ではない
そして、いつも通りにダンジョンに挑戦することになった俺たち。
低階層は罠にかかることもなく問題なく進み、いつものようにマギカがゴブリンをぶっ殺して棍棒を手に入れていた。
ご機嫌な彼女らとともに、15階層に辿り着いたとき。
「……まて、次のフロアは、怪物の居住区だ」
目前のフロアにモンスターがひしめいているのを見つけた。
今のレベルで策も無しに突っ込むのは命取りだ。
「……他の道順を探しますか?」
「いや、策がある」
だが、俺にはその作戦があった。
「策って、なんですか、アレン?」
マギカがキョトンとした表情で言った。
「着いてこい」
そう言って、俺はマギカとイリヤと共に、通路を進んだ。
そしてフロアの入り口に着いてから、
「マギカ、ちょっと良いか?」
「? はい」
俺の呼びかけに応じて近寄るマギカの腕を引く。
突然のことに対応できないマギカ。
俺はマギカをそのままモンスターハウスの中に入れた。
「……ええええええ!? な、何を考えているんですか、アレン!!??」
俺はすぐさまマギカを通路に引き戻す。
「釣れたようだ。モンスターどもがお前めがけてこちらに来るぞ」
「な、何のためにそんなことを!?」
「ここは狭い路地だ。一方向から一体ずつ敵が迫るならば、対処可能なはずだ」
うじゃうじゃと蠢くモンスターどもを横目にしながら、俺は言った。
「後ろはどうするんですか!?」
「俺は回復薬のイリヤを守りつつ、後ろからのモンスターの襲撃に備える!」
「……ご主人様」
俺の言葉に、ポッと頬を赤らめたイリヤ。
ぶっちゃけ、こいつも杖でモンスターをしばき倒しているのだから、守る必要なんてないし、その気もない。ただの理由付けだ。
「嫌ですよ! それなら、アレンが前に行ってくださいよ!」
「悔しいが、単純な戦闘力ならば俺よりもお前が上。……厳しい戦いになるとは思うが、イリヤの回復魔法もある。俺は、マギカならこの場を切り抜けられると信じているぞ」
「ず、ズルいです……。そんな殊勝な態度をとられてしまったら、応じるしかないです……」
しゃおらぁぁぁぁぁぁぁっ! かかってこいやぁぁぁぁぁぁつ!!
と、野獣のように叫ぶマギカ。
どうやらおだてられたら調子に乗るタイプだったらしい。
彼女は普段以上の力を発揮し、モンスターたちを蹴散らしていく。
そもそも、普段からそのくらいの力を発揮してくれ、と思ったのは内緒だ。
しかし、そんなマギカ無双もそうは続かない。
あまりにも多勢に無勢だからだ。
傷つき、ボロボロになったマギカが、叫ぶ。
「あ、アレン! 一度体勢を立て直すために交代してください!」
「ダメだ、こっちにもモンスターがいる!」
「そ、そんな……」
絶望的なマギカの言葉とは裏腹に、俺は余裕たっぷりだった。
俺はゴブリン二匹を鼻くそをほじりながら相手をしていたのだ。
モンスターがいるのは、別に嘘ではない。
「イリヤ、マギカに回復を!」
俺が支持すると、イリヤは嬉しそうに「はいっ」と返事をしてから、回復魔法をかけた。
「……これで、まだ戦えます!」
マギカは傷が回復し、精神力もある程度戻ったようだ。
一体のオークの額を棍棒でかち割ってから、もう一度自分に支援魔法をかける。
そして、元気になってまた暴れまくるのだが……。
やはり多勢に無勢。
マギカはしばらくすると、また押され始めたのだ。
「あ、アレン……アレンさーん! お、お願いしますから、交代してください、ちょっとでいいので、休ませてくださーい!!」
「……すまん、マギカ! こっちも手いっぱいだ!」
「そ、そんな……」
絶望が滲む声のマギカ。
俺の前にモンスターはいなかったが、嘘ではない。
俺も手いっぱいなのだ。
中々でかいハナクソが、取れそうで取れないからだ。
「イリヤ、マギカに回復を!」
やはり俺の指示に「はいっ」と嬉しそうに応えたイリヤ。
マギカに回復魔法を施す。
「……こ、これで打ち止めです!」
マギカは回復してから、支援魔法の重ね掛けをした。
そして、必死の表情で暴れまわった。
それは、まさしく一騎当千の活躍であっただろう。
……しかし。
「あ、アレーーーーーーン!!!!」
やはり多勢に無勢。
残りゴブリンが五匹となったところで、とうとう倒れてしまったマギカ。
傷を回復しても、体力までは回復できない。
マギカは絶体絶命と言えた。
……ちょうど良い頃合いか。
俺はダガーを手にして駆け付ける。
マギカを血走った目で見つめていた一匹の首を、一閃。
血しぶきが舞い、ゴブリンの頭部が宙を舞う。
その頭部を掴み、唖然としているもう一匹に投げつける。
頭蓋骨が一匹のゴブリンの顔面を潰した。
これで、二匹。
「よく頑張ったな、マギカ」
俺は3匹のゴブリンから、マギカを庇うような位置で立ちつつ、それはもうカッコつけて言った。
「た、助かりました、アレン……」
頬を朱色に染めて、視線を逸らしながらマギカは言った。
命の危機に駆け付け、颯爽と救った俺。完璧だ。もしかしたらこれでマギカは堕ちたかもしれないな。
「俺の仲間を痛めつけた代金は、その命で支払ってもらうぞ」
俺がそう言うと「アレン……」と、熱っぽい声音でマギカが言った。
ゴブリンたちに人間の言葉は通じないので、ちょっと恥ずかしい奴だったかもだが、これで良し。
俺は奇声を発するゴブリン3匹の首を、次々と刎ね、殺していった。
……これで、モンスターハウスは攻略できた。
「た、助かりました、アレン。……やっぱり、私たちのリーダーは最高です」
恥ずかしそうにマギカが俺に向かって言う。
「はい、ご主人様とならば、近いうちにダンジョンを攻略できると、私はそう確信しています!」
信頼に満ちたイリヤの視線。
俺は二人に向かって、得意げな表情で頷く。
「いつかと言わず、今日だ! 今日、ダンジョンを攻略するぞ!」
そう、今日にでもダンジョンを攻略してやるのだ。
今のモンスターハウスの戦闘、俺は全くと言って良いほど消耗をしなかった。
にもかかわらず、マギカの戦闘のおかげで、レベルはかなり上がった。
まずは、俺を慕いはじめ、言うことを聞いてくれるようになる予定のマギカを使い潰す。
それから俺は、体力・レベルともに余裕を持った状態でダンジョン攻略に挑めるのだ。
二人は顔を見合わせてから、頷きあい。
「はい、今日こそダンジョン攻略です!」
「ご主人様がいれば、絶対に可能です!」
と、笑顔で告げたのだった――。




