17、親睦会
この町にはダンジョンがあるため、冒険者がよそから流れてくる。
そのため、酒屋や宿屋、武器屋や道具屋が多く並んでいた。
今日はいったんギルドで別れ、そして夕方になってから再集合をした。
ギルド近くの、貧乏冒険者行きつけの安い・美味い・量も多いという三拍子が揃った、何のしゃれっ気もない酒屋へと三人で入った。
「おう、オヤジ。三人だ」
「アレンか、久しぶりじゃねぇか!? おいおい、今日は両手に花かよ。がはは、せいぜい見え張って金を落としていってくれや」
ちょび髭のおっさん店長が、入店をした俺たちに視線を向けて笑った。
俺は何とも言えない表情になっていたことだろう。
両手に花、はた目から見ればそうだろう。
しかし、その実態はただの貧乏神なのだ。
「……まずはビールを三つ。あとは適当につまめるものを」
「あいよ」
俺たちはテーブルについて、人数分のビールを頼む。
きょろきょろと視線を動かすマギカに、俺は問いかける。
「どうしたんだ、きょろきょろして?」
「そういえば、この町で酒場に来るのは初めてだなと思いまして」
「へー、そうなんだ」
割とどうでも良かったから話を聞き流す。
「私も、この町の酒場に来るのは初めてよ」
イリヤがマギカに同意したが、本当にどうでも良いから聞き流していた。
二人の会話をそのまま聞き流していると、店員がビールを持ってきた。
「はい、お待ちどう!」
俺たちをジョッキをぶつけ合う。
「とりあえず、カンパイ!」
つまみの料理も運ばれて、俺たちは気分よく飲み進める。
あっという間に一杯目は空になり、二杯目を店員に注文する。
「ビールをくれ! イリヤとマギカも、同じで良いか?」
俺が問いかけると、イリヤは上品に首肯する。
しかし、マギカは挑戦的な視線をこちらに向けてから、
「あれ、アレン。こんな炭酸ジュースをお替りですか? こんなの、いくら飲んでもこれっぽちっも酔えないです。私はバーボンのボトルを持ってきてください」
この自称9歳児、ただ飲みのくせにふてぶてしい奴だな。
俺は呆れるが、挑発をされたら応えないわけにはいかない。
「ビールは一つキャンセルだ。俺にもグラス持ってこい」
「はいよ」
返事をした店員は、すぐにビール1つとボトルとグラスを持ってきた。
度数がさっき飲み干したビールの10倍はあるバーボンをグラスになみなみと注ぐマギカ。
そして、それをくいと煽り、
「くは~、アルコールはこうじゃなきゃ、飲んだ気がしませんよ~!」
飲み干し、気分よさそうにほざくマギカ。
アルコール交じりの吐息が、妙に色っぽかった。
そして、俺に向かって挑戦的な視線を送ってきやがった。
「おやおや、アレン? グラスなんて握りしめて、この美味しい美味しいバーボンを飲むつもりですか? やめましょうよ。おビールを飲んでご機嫌になれるのでしたら、それが一番じゃないですか~」
さてはこいつ、俺にセクハラをされたことを根に持っていやがるな。
ここの酒代を出すのが俺ってこと、もしかして忘れてんのか?
とにかく、ムカつくくらいふてぶてしい女だ。
俺はグラスに、先ほどマギカが入れた以上の酒を注ぐ。
グラスから漂う、粗末な樽と安いアルコールのにおい。
安酒だからか、まだ刺々しい。
……まぁ、お高い酒をこんな風に飲むバカはいないか。
グラスを一気に傾ける。
アルコールが口内を蹂躙する。
焼けるような熱さがのどを通って胃へと収まる。
鼻からアルコール交じりの息を吐きだすと、気分は最高にハイだった。
「っかー、マギカお嬢ちゃんは、この程度のお酒をたしなむだけでドヤ顔たぁ、これは何ともまぁ、お可愛いことで」
「玉無しアレンはグラス一杯飲み干せて上機嫌ってとこですね。まったく、酒の飲み方もわからないお子様は、これだから……」
俺たちはにらみ合って、なみなみとバーボンが注がれたグラスを傾ける。
それが二度、三度と続けば、いつの間にやら周囲にはギャラリーができていた。
中には俺とマギカのどちらが先につぶれるかで賭けをしている連中もいた。
全く、こいつら全員クソばかりだぜ!
俺はそう思いつつも、何度目かになるかもわからないが、グラスを傾けるのだった。
「……私はビールをお代わりでー」
狂乱の場の中で、イリヤの言葉がむなしく響いていた。




