13、ショックを受ける新リーダー
「俺がリーダーになったからには安心だぜ、お嬢さんがた! 荒事は俺とアレンに任せて、後方支援を頼むぜ」
ダンジョンに足を踏み入れ、屑のヴラドがかっこつけながら言った。
何だったら一人で荒事を全部担当してもらいたいくらいだった。
俺はお前を巻き込むが、お前は俺を巻き込んでくれるな。
そう宣言してやりたい。
「あら、そう。それならしばらくお任せするわ」
おすまし顔で答えるイリヤ。
満足そうにスケベ面を晒しながら頷いたヴラド。
「あ、スライムを見つけました!」
マギカが叫ぶ。
指さした先には、スライムがいた。
「お、ゴブリンか、ここはまかせ……」
鼻息を荒くするヴラドだったが……
「せーーーーい!!!」
ヴラドが言い終わらぬうちに、イリヤがスライムを杖でしばき倒していた。
「お、おう。……こ、ここは任せな、お嬢さんがた」
何が起こったか分からなかったのか。
それとも、現実逃避をしたかったのか。
ヴラドは白目を剥きながらそう呟いていた。
☆
そして、ヴラドが活躍することなく三階層へたどり着いた。
スライムをしばき倒すイリヤには慣れてしまったヴラド君。
「荒事は俺に任せな、お嬢さんがた!」
念押しをするように、力強く言っていた。
「あ、ゴブリンよ!」
今度はイリヤが、本日初登場である棍棒を装備したゴブリンを見つけた。
「よし、スライムじゃない! 今度こそ、俺にまかせ……」
「来ました! うおぉぉぉおおおぉぉぉお!!!!」
ヴラドを突き飛ばし、駆けるマギカはゴブリンの胸ぐらをつかみ、乱暴にぶん投げた。
そして、いつものようにマウントを取って固く握りしめた拳を何十回と振り下ろす。
「っご、ぶるっぎゃ……」
肉と骨がぶつかる異様な音と、ゴブリンの弱々しい呻き声が耳に届く。
血に濡れるマギカの拳は、止まることなくゴブリンを殴り続ける。
そして、ゴブリンは抵抗むなしく死に絶えた。
「マジカルスティック……ゲットです」
ゴブリンから棍棒を略奪し、嗜虐的な笑みを浮かべながら、マギカが呟いた。
「な、なんじゃこいつ……恰好だけじゃなく行動までいかれてるぜ……」」
ヴラドが戦慄の表情を浮かべながら、言う。
……このままでは、ヴラドの心が折れてしまう。
そうならないように、俺は精いっぱいフォローする。
「まぁまて、ブラド。あいつを良く見てみろ」
「はぁ、何をだよ?」
「返り血で、あの頭のおかしな衣装が身体に張り付いて、えっろいボディラインが目立つようになったじゃねぇか」
フリフリの衣装も、返り血に染まり、ぴったりと身体に張り付いている。
バイオレンス&エロなマギカのその姿を見て、ヴラドがごくりと生唾を飲み込んでいた。
「……確かに、アリだな」
アリなのかよ。
俺はヴラドに引くことになった。
☆
そして、11階層。
結構いいペースで進んだとはいえ、そろそろ腹も減るころ合いだった。
「へい、イリヤ! そろそろ飯の時間じゃないか?」
スライムを撲殺するマシーンの挙動にもすっかり慣れ切ったヴラドが、イリヤに向かって問いかけた。
「そうね、お腹が空いてきたわね」
イリヤはダンジョンに自生する草を、自然な動作で千切ってから、口に含んだ。
「それなら俺にお任せ……え? あれ?」
無表情のまま草を食うイリヤに、ヴラドは困惑をした。
「私も、お腹が空いてきたので食べたいです」
「そう。なら、どうぞ」
「ありがとうございます、イリヤ」
マギカも、イリヤから草を受け取り、口に含んだ。
その様子を見て、ヴラドの困惑はさらに濃くなった。
その間抜け面が気になったのだろうか? やれやれ、といった様子で、ヴラドに草を差し出したイリヤ。
「ほら、あなたの分よ、食べなさい」
ヴラドは面食らった表情になりつつも、「どうも」とつぶやいて草を受け取った。
そして草を食ってまずさに顔をしかめた。
その後、怒ったように、俺に詰め寄った。
「……おい、どういうことだよ。こんなお嬢さんが嬉々として草を食うなんて……おかしいよな?」
「ダンジョン攻略の初歩的なテクニックだ。このくらいお前も知っているだろ?」
「いや……確かにそりゃそうだが。こんな良い女たちが嬉々として草食ってんのは……衝撃的すぎるぞ。折角俺が柄にもなく女ウケしそうな軽食を用意してきたっていうのに、なんてざまだよ……」
力なく笑うヴラド。
口の端から、草が出ていてキモイ。
しかし、こいつはいつも草食ってるはずなのに、イリヤとマギカみたいなアホに良い恰好したくて、軽食の用意をしてきたんだな。
その努力が涙ぐましい。
「……俺。もう1年以上ダンジョンに潜ってんのに、ダンジョンには出会いがあるなんて夢を抱いていたみたいだぜ」
哀れなヴラドは、ちょっと涙目にながらそう言ったのだった。




