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12、新リーダー

「ああああああああああああああああぁぁぁぁっぁ、また、また……死んだあぁぁぁぁああ!!」


 いつものように目覚めた俺は、いつも通りに叫び声を上げる。

 イリヤとマギカが死んでから、19階層までは到達した。

 そして、20階層に降りる前に、悪辣な罠にかかってしまい、そこで終了。


 頭を振って、今回の敗因を確認する。

 やはり、足手まといの新人二人を、途中までとはいえ連れているのが負担になっていたのだろう。

 二人から解放されたことで気が緩んでしまった、というのもあったかもしれないな。


 そう結論付けて、俺は起き上がり、すぐさまギルドへと向かった。



「これ以上変な奴が来たらたまらん!」


 そういうわけで、俺はギルドに掲示していた張り紙を破り捨てた。


 邪神教徒の暗黒シスターに、すぐに調子に乗って罠にかかる脳みそ筋肉女。

 俺一人なら確実に20階層以下まで進めるというのに……。


 パーティは組めたのだから、これ以上足手まといはいらない。


「ええい、くそ。こんなんだったら、あのアホのヴラドにパーティを組んでもらうように頼み込んだ方がましだったか?」


 俺がぼやくと、


「おう? なんだアレン、今俺の名前呼んだか?」


 絶妙なタイミングで通りがかったヴラドが、俺の前で立ち止まった。

 その間抜け面を見て、俺は冴えた考えを閃いた。


「よう兄弟! 今日もイカしてるねぇっ!」


「なんだよ、気持ち悪いな……。もしかして俺のことバカにしてんのか?」


 満面の笑みを浮かべる俺に、ヴラドが引いていた。


「いや、何。そうじゃねぇよ。俺はお前を見誤っていた。俺はソロで20階層以上に行けることを、自慢だと思っていたが、何のこたねぇ。パーティを率いて19階層まで行くだなんて、素晴らしいことさ! それに比べたら、おれはただのクソってことに気づいただけさ」


「やっぱりバカにしてんのか?」


 げんなりした表情で、言うヴラド。

 不審に思われている。仕方ないだろう。


 だが!

 俺はこのギルドでこいつ以上の屑野郎を知らない。


 つまり、アホ二人を押し付けるのに、こいつ以上に適した人物はいないのだ!

 こいつに押し付けても、俺の良心は全く痛まないから!!


「そう言うなって、兄弟! なぁ、一つ頼みがあるんだよ!」


「お前が俺に頼み? ……バカにしてんのか?」


「それはもういいから、話を聞け!」


「いいか、アレン。俺の好かねぇものを教えてやる。まずい酒を出す酒屋と、パーティメンバーの美人冒険者を手籠めにするカス男だ! 覚えてろよ、クソったれめ!」


 ヴラドが俺に中指をおったてる。

 やはり俺の見る目は間違えていない。

 正真正銘の屑野郎だ、こいつは。

 普段なら問答無用で殴り合いだが、今は我慢だ。


「いや、それだよ、頼みってのは!」


 俺はわかりやすくもみ手をしながら言う。


「俺のパーティにな、また人が来たんだよ」


「てめぇに惚れてるあの趣味の悪い、デカ乳シスター以外にか?」


「ああ。そのあとに、もう一人。これまた乳のでかいキュートな女がきた」


「……何の話をしているのですか?」


 俺の肩をとんとんと叩いて話しかけてきたのは、先ほどから話題にあがっているマギカだった。

 ギルドに来ているということは、こいつもまた懲りずにダンジョンへと向かうつもりらしい。


「いや、なに。このナイスなタフガイに、俺たちのパーティリーダーになってもらいたくってな」


 マギカにそう言った後、今度はヴラドに告げる。


「こいつがさっき言った女さ。……ほら、とってもキュートだろ?」


「恰好はいかれてやがるが、なるほど。こいつは良い女だぜ!」


 下卑た眼差しでマギカの全身を舐め回すように見るヴラド。


「……なんですか、この品性の欠片も感じられない人は?」


 マギカが非難めいた視線を俺に向けてくる。

 俺はとても自然な口調で、マギカに告げる。


「こいつは俺が認める男さ。パーティを組んでダンジョン攻略をする際、こいつ以上にリーダーを任せるにふさわしい男を俺は知らないねぇ」


「なんですか、その芝居がかった口調は?」


「おおっと、つい熱がこもっちまったぜ!」


 ふーん、と呟いたマギカは、俺とヴラドを見比べる。

 ヴラドはマギカに愛想を振りまきつつ、得意げな表情で俺に微笑みかけた。

 別に悪いことはされていないが、何かムカついた。


「アレンにもこの人にも、不快な感情しか抱けないのですが……」


「ご主人様、マギカ。揃ってどうされたんですか?」


 マギカが言うと、今度は背後からイリヤが姿を現した。

 イリヤの姿を見たマギカは、「うっ!」と、呻き、顔を青くしていた。

 イリヤに殺されたようなもんだしな、身構えるのも不思議ではない。


「おう、あんたか! 実は今、俺がアレンにパーティリーダーを頼まれてよ!」


 顔と身体は文句なしに抜群のイリヤが現れて、テンションが上がるヴラド。


「……そうなの? でも誰がパーティメンバーでも関係ないわね。ご主人様以外の言葉を私が聞くことはあり得ないわ」


 イリヤの言葉に、ヴラドが意気消沈する。

 やばい、このままでは押し付ける作戦が失敗してしまう!


「待て、イリヤ! このナイスなタフガイも一緒にダンジョン攻略に行く、それは決定事項だ。そして、こいつがパーティリーダーとなる、それも決定事項。分かるか?」


「はい、それは構いません。ですが、それでも私はご主人様以外の命令を聞くことはありません」

 

 頑なに拒絶の意志を見せるイリヤ。


 俺の言うことだけを従順に聞く、良い女だ。

 ……本当にこいつ、邪教徒のシスターでなければ最高なのにな。

 俺は悔しくて涙が出そうになる。


「良いか、ダンジョン攻略は、生半な覚悟では失敗するだけだ。成功をするためにも、攻略の最中はリーダーの指示に従わなければならない。これは、俺からの命令だ。分かったな?」


「ご主人様がそうおっしゃられるなら、善処します」


「よし、それで良い」


 神妙な表情で頷いたイリヤ。

 

 一連の様子を見ていたヴラドが、血走った目でこちらを見ながら呟いた。


「っかー、やっぱりべらぼう良い女だぜ。……俺はこういう清楚でエロい身体をした女を抱きたいと常日頃から思っていたってのに、神はなんて不公平なんだ……」


 大仰に悔しがり、恨めしそうにこちらを見るヴラド。

 清楚どころか邪悪の代名詞みたいな神にお仕えしてるんだよね、こいつ……。


「……ここだけの話、シスターイリヤは、絶対にダンジョンを攻略しなければならない理由がある。そして、そのために有用だと判断されれば……おいしい思いができるぜ? 俺もその口だ」


 俺の適当な呟きに、アホのヴラド君はスケベ顔になった。


「なるほど、そいつは良いことを聞かせてもらったぜ、兄弟!」


 下半身男ヴラドは大喜びで俺の肩を叩いてから、二人に向かって告げる。

 

「なぁに、イリヤにマギカ。ダンジョン攻略なんざ、俺に任せりゃうまくいくさ!」


 気色悪いウィンクを二人に向かってかますヴラド。

 うひゃ~、気持ち悪い!


「なんか……いやらしい視線を感じるのですが……」


「本当に、この男がご主人様以上のリーダーとなるのですか?」


 不信感を隠さないマギカとイリヤ。

 捨てられた子犬のように、つぶらな瞳を向けるヴラド。やめろ、そんな目でこっちを見るな。


「そうさ、こいつと一緒にダンジョン攻略さ! ヴラドは俺なんかよりもよっぽど、パーティを率いるのに適したすんげぇやつさ!」


「そうそう! 俺が率いれば、ダンジョン攻略だって夢じゃないさ! イリヤとマギカが手助けをしてくれりゃ、そら確実に、な!」


 最高到達階層がせいぜい19階層のボンクラが調子に乗っていた。


「……ご主人様のお考えに、異を唱えられるはずがありません」


「まぁ、今回は様子見ですよ?」


 イリヤとマギカは、ヴラドのパーティ加入に渋々了承した。


「へへ、そう来なくっちゃな!」


 調子に乗りまくるヴラドが、下心が透けて見えるスケベ顔で言った。

 ムカつく男だが、確かに頼りになる。


 今回のダンジョン攻略でヴラドが俺よりもよっぽどリーダーにふさわしいと判断されれば、二人を押し付けることができる。

 足手まとい二人から解放された俺は、新たな頼りになるメンバーを探すことできるのだ!


「頼むぜ、リーダー!」


 俺はヴラドの肩を叩く。

 マジで頼むぞ……いや、ホントに!



 こうして。

 それぞれの思惑が絡み合う冒険が、今始まろうとしていた!


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更新再開!!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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