10、底辺冒険者、引く
無事にマギカが棍棒を入手した後。
俺たちは、問題なくダンジョン攻略を進めていた。
前回イリヤが死んでしまった4階も、今回はオークが現れなかったことで難なくクリア。
続く5、6、7階層も順調に進み、今は8階層を攻略中だった。
このままの調子で攻略を勧めたいと思っていると。
「……少し、お腹が空いてきました?」
マギカが、腹に手を当てながら呟いた。
「ええ、確かに」
照れくさそうにイリヤも頷いた。
確かに、ダンジョンに挑戦してから、結構な時間が経過している。
「それはよくないな。お前たちは知らないだろうが、このダンジョン。腹が減りまくると……死ぬ」
俺の言葉に、何を当たり前のことを言ってるんだ? というような表情を向けてくる二人。
「それって、何日間も飲まず食わずだと、餓死をするという、当たり前のことを言っているのではなく?」
マギカが問いかける。
「いや、そういうことじゃないんだ。こらえきれない空腹を感じたら、死ぬということだ。もちろん! ……何故かは知らん!!」
そう、なぜかは知らないが。このダンジョンでは、空腹状態が長く続くと、意識が遠のき、倒れて死んでしまうのだ。
俺も、過去数回経験があった。
「そうなんですか? じゃあ、おなか空いたら大変ですね。どうすればいいんでしょう?」
俺はイリヤの問いかけに、頷く。
二人から離れて、このダンジョンのいたるところに自生している長方形の葉っぱをむしった。
「この謎の葉っぱを食う。そうすれば、飢えはしのげる」
説明してから、その葉っぱを食った。
「「……」」
イリヤもマギカも無言だった。
「ほれ、お前らも食っとけ」
俺は葉っぱを差し出す。
イリヤとマギカは、俺の手に握られた草を見ながら、
「これ、大丈夫なんですか?」
「ダンジョンに生えている葉っぱを食べれば、体に変調がありそうですけど」
俺から葉っぱを受け取った二人は、不安そうに呟いた。
「いや、食えって。まずいけどさ、食えないほどじゃないし、別におかしくもなりはしねぇよ。27階層あるダンジョンを攻略するには、こうして食料を調達しなくちゃいけねぇ。それとも何か? モンスターの肉でも食おうってのか?」
「いえ、それは流石に無理です……」
マギカが苦笑しつつ、続けて言う。
「ただ、自生している葉っぱを食べてしまえば。人として終わりのような気がします」
マギカが割と辛らつなことを言った。
「お前今遠回しに俺のこと人として終わってる認定したな」
「……」
無言のままそっぽを向いたマギカ。
俺は嘆息しつつ、言う。
「空腹で死ぬのが嫌なら、食うしかねぇんだよ」
☆
そして現在。
11階層まで降りていた。
「確かに、美味しくはないですけど。食べられなくはないですよね」
「薬みたいなもんだと思ったら、いけるかもしれないわね」
マギカとイリヤが草を食いながら、朗らかに笑っていた。
めっちゃ普通に草食ってるぜ、おい。
「人間として終わり……?」
俺は根に持つタイプなので、マギカに向かって中指を立てながら言った。
「背に腹は代えられないということですね」
このダンジョン内での空腹には、魔法少女さんも抗えなかったみたいだ。
「……さて、空腹も満たせたようだし。気を引き締めてこれから進むぞ」
二人は俺の言葉に首肯した。
その表情を見てから、俺たちは12階層へと下りた。
そして、早速……。
「オークが……11体」
降りてすぐのフロアには、オークがひしめいていた。
イリヤは、苦々しい表情を浮かべていた。
前回のダンジョン攻略で出会った強敵が、11体もいるのだ。
トラウマが刺激されているのだろう。
「こうなったら、あれを使うしか……」
イリヤが思いつめた表情で呟く。
自殺志願者か何かかな?
「やめておけ。ここは、オークを相手にせず、速攻で逃げるぞ」
レベルが上がったとはいえ、オークの耐久力と攻撃力が厄介なのは変わらない。
まともに相手をせずに、逃げるのが吉だ。
「いいえ、ここは私に任せてください」
「……何のつもりだ?」
マギカが自信満々で言った。
俺はそれが無性に不安で、確認をした。
「オークとは、防御力が高く、魔法防御力が低いのですよね? それならば、私の魔法で一網打尽にして見せますよ!」
「……」
棍棒を握りしめながらマギカは言った。
……失敗したら問答無用でこいつをここに置き去りにして逃げよう。
俺はそう決意をしてから、「やってみろ」とマギカに返答した。
「そう来なくっちゃですよ!!」
そういって、棍棒を握りしめた魔法少女が、笑顔を浮かべ、詠唱を開始した。
「天よ、我に力を! 「ストレングス]!」
魔法陣に囲まれたマギカに、温かな光が降り注いだ。
そして、淡く発光する光に包まれるマギカ。
おお、本当に魔法を発動した。
だが、これは……
「おい、マギカ、これって……」
「はい、支援魔法ですよ!」
俺に向かってサムズアップした後。
マギカは棍棒を握りしめてオークへ向かっていった。
「……オークは防御力高いって言ったのに、バカかよ」
呆れる俺をよそに、マギカはオークを撲殺していた。
「魔法防御力が低くても、私に攻撃魔法は使えません。しかし、支援魔法で物理攻撃力を上げればどうでしょう? 答えは……ほら、この通り!」
この通りじゃねぇよ、何こいつ?
身体はむっちむちのどすけべぼでぃのくせに、脳みそは筋肉でできてるわけ?
そんな疑問を抱く俺をよそに、得意げな表情でマギカは棍棒を振り回す。
オークの頭はひしゃげ、つぶれ、鮮血は溢れ。
無残な死体が次々に出来上がっていった。
……うーっわ、引くわー。
「……やはり、逸材っ!」
嬉しそうにイリヤは笑う。
それを見て、俺は再び思った。
……うーっわ、引くわー。




