1、死に戻り
ダンジョンには、死がありふれている。
冒険者に死をもたらす獰猛なモンスター。
至るところに仕掛けられた致死のトラップ。
襲い掛かる困難、募る疲労は階を進むごとに蓄積されていく。
そのどれもが、一攫千金を目指してダンジョン攻略を志し、深く潜りゆく冒険者の心身を蝕む。
そんなダンジョンの中で、今にも膝を屈しようとする冒険者がいた。
十代後半の青年だ。
その表情には苦痛と苦悶が張り付いており、一見して若者だとは分からないが。
「ちくしょう、最低だぜ……っ!」
悔しそうに歯噛みをしながらいう青年。
彼の周囲には、鬼のような形相をした筋肉の鎧に覆われた強力なモンスター、オーガがいた。
「くそっ、くそっ。糞ったれ!」
手にしたダガーナイフを振る。
その鋭い切っ先は、一体のオーガの心臓に深々と突き刺ささり、命を奪う。
――が、それだけだった。
この多勢を押し切るには到底及ばない。
青年の研ぎ澄まされた聴覚が、聞こえないはずの足音を感じ取っていた。
――それは、ゆっくりと背後に忍び寄る、死神の足音だった。
「ちっくしょー!」
ぶるり、と大きく身震いをする青年。
それは、死神の握る大鎌の気配を感じたためか。
単純に血を失い過ぎたためか。
その判別は、既に出来なかった。
それでも懸命に抗い、生きることを諦めない青年。
しかし、オーガは容赦をしない。
疲れ、動きの鈍くなった青年に対していたぶるように攻撃を加え続け、やがて、身動き一つとれなくなったところに、一斉に攻撃を加え始める。
「ああ……またかよ、糞が」
目前に迫る死の気配を前にしても、青年は動じない。
……そしてもちろん。
ご都合主義的な助けが来ることもなく。
――ぐしゃ
脳髄に響く音が聞こえ、青年の意識はなくなった。
こうして。
青年――ダンジョン冒険者アレンは、無慈悲な死を迎えたのだった。
☆
「くっそおぉぉぉぉぉおお、また死んだああぁぁぁぁぁぁああぁ!!!」
……そして。
ダンジョンで死んだ後、青年はいつも通りに朝の目覚めを迎えるのだった(笑)
☆
――これは、世にも奇妙な「死に戻りダンジョン」の攻略する、鬼畜冒険者の英雄譚……なのかもしれない。