幼馴染
にぎやかな廊下、やけに学校で出会いを求める哀れな生徒たち。
「青春だ」と馬鹿みたいにはしゃいでいるレベルの低い生徒たち。
ここの生徒は、まともな奴がほとんどいない。馬鹿な奴や、低能ばかりのくそみたいな学校だ。おれはいつもそう感じながら日々取り繕いながら生活していた。唯一、俺が心を開く相手...それは、幼馴染みの“幸田 翔”。爽やかで、スポーツも勉強もできて、俺とは全く違う。俺は、勉強は好きだけど、スポーツは生まれつき体が弱くてできなかった。俺は翔が羨ましかった。翔は、いつも楽しそうだった。それに、アイツは男子にも女子にも好かれる。俺は...俺は、翔のことがずっと前から好きだ。
取り繕いのクラス。秘密を隠してなかったことにしようとする学校。目立つ奴だけが得をする理不尽な世の中。そんな世界に僕は飽き飽きしていた。どうして、陰の人間は優遇されないのだろう。目立つ奴にはろくな奴がいない。自分の思い通りにならないと機嫌を損ね、陰の人間を潰していく。面倒くさい。それに、僕の周りの女子ときたら、「私と付き合え」だの「エッチなことしたい」だの馬鹿な言葉ばかり言う。僕は学校が嫌いだ。でも、僕には唯一心を開ける相手がいる...“智井 京平”幼なじみだ。クールで、頭が良くて、でも人付き合いはあんまりよくない。『陰のプリンス』としてここの女子たちにひそかに人気だ。でも、僕はその愛称、好きじゃない。だって...京平は、僕のだもん。僕の人だから...。
―放課後―
『ねぇねぇ、京平く~ん。一緒に帰ろうよー。』
...はぁ、うっとしい。こいつら、めんどくさい。
「帰らない。サヨナラ。」
『えぇ~いいじゃ~ん。』
...こいつら、マジウザい...。
「あっ!やっと見つけた!!!どこ行ってたんだよ~。京ちゃん、一緒に帰ろ!!!」
「おう、帰る。」
ほかの女に京平は絶対渡さない。
―帰り道―
「ねぇ、京ちゃん、なんであんなにモテるのに彼女作んないの?」
「...翔こそ、なんで作んないんだよ。モテてんじゃん。」
「それはぁ、京ちゃんの事が好きだから?」
「...う、うるさい...俺の事、馬鹿にしてんだろ。」
俺のバカ...何赤面しちゃってんだよ俺のバカ...!!!
俺たちの帰り道はいつも違う。公園のほうへ遠回りしたり、幼稚園から行きつけのパン屋の方へ行ってみたり...まぁいろいろだ。
「京ちゃん、今日、なにするの?家で」
「まぁ、明日の予習とか。望遠鏡のぞいたりかな。」
「そ、そっか。僕も行っていい?」
「な、なんで...別にいいけど...」
京ちゃんは僕の事、どう...思ってるんだろう。たまに僕といるとき辛そうというか嫌そうな顔をする...そういうとき、僕はとても不安になる。一緒に居ていいのか、一緒じゃない方がいいのか...。
「...京ちゃんって、好きな人いるの...?」
「な、なんだよいきなり。いるわけないだろ。それに、いつも翔と一緒に帰ってるんだから、居ないってことは一目瞭然だろ。」
たまに翔はこんなことを聞く。なんでだろう。分からない。俺と一緒に帰るのが習慣化してきてるから一緒に帰らなきゃいけないみたいな感じなんだろうか...。
「そうなんだ...じゃ、じゃあ、京ちゃんの好きなタイプは?」
「好きなタイプかぁ...」
俺は、どう答えればいいんだ...詳しくしゃべりすぎると、ばれるよな...遠回しに言ってみるか。
「俺は...運動出来て、優しい子が好きかな...」
...これで、分かってしまっただろうか。まぁ、翔のイメージを言うと大体こんな感じだというのをざっくり伝えた。どっちみちにしろ...恥ずかしい。
「そ、そっかぁ...。京ちゃんらしいね...!髪型は二つ縛りとかおさげで、ちょっと大人しめって感じ?」
...やっぱり、僕の事じゃなさそうだ...運動ができてって言われたところは僕かなって期待しちゃった。でもそんな子どこでもいるし...それに京ちゃんが同性を好きになるなんて...あり得ない...か...。
「う、うん。じゃあ、翔はどんな子が好き?」
なんか、おち...こんでる...?
「僕は...小さい時からずっと一緒で、面倒見が良くて、頭もよくって...」
なんか...目のあたりが...熱い...。熱いと思ったら、なんかヒヤッとしたものが下へ流れていく...
「しょ、翔?大丈夫か...?」
「うん、だいじょうぶ。ちょっと、最近目が痛くってさ...あはは...。」
あぁ、僕、泣いてたんだ...ただ、京ちゃんの好きなタイプを聞いただけなのに...胸が苦しい...。
「今日は、家に帰るね...」
...翔は、幼稚園の時は泣き虫だったけど、小学校に上がってからはめったに、ほとんど泣いていない。俺はこのまま放っておいていいのか......いや、ダメだ。俺は、翔が泣いてたら一緒に居るって、幼稚園の時決意した。
「...ダメだ...今日は、俺の家に来て...泊まっていけばいい。親、二人とも夜勤でいないし、翔のお母さんには、俺が伝えとくから。」
「え...でも...」
「い、いいから...!言いたいことあるし...」
「わ...わかった...」
それからしばらくして、俺の家に翔が来た。
―京平の家にて―
「...お邪魔します...」
いつも通りの京ちゃんの家、京ちゃんの匂いがする。
「俺の部屋でいい...?」
「うん」
京ちゃんの部屋は、レモンの匂いがする。たぶん部屋の消臭剤。僕はレモンのあの爽やかなにおいが好きだ。
「京ちゃんの部屋って、どうしていつもレモンの消臭剤なの?」
「ま、まぁ...好きだから、レモン...」
俺レモンの匂いが好きだは、だけどそれ以外にももう一つ理由がある。
...翔も、レモンの匂いが好きだから...。いつ来ても、翔が居心地がいいようにしているからだ。
~♪~♪~♪~
「翔のじゃない?」
「あ、ほんとだ。」
~♪~ピッ...
「もしもし?」
『あっ、もしもし~?翔~?これからちょっと空いてない?』
...いつもまとわりついてる女子だ。
「空いてない。どうしたの?」
『ねぇ~もう忘れたの~?今度、エッチしてくれるって言ったじゃ~ん。』
「あぁ、そのことね。」
『もしかして~、他の子といる感じ~?ほかの子とイチャイチャしたりしてんの~?』
...そ、そうなんだけど...あぁ、めんどくさい。チラッと、京ちゃんを見る。
すると、顔が赤くなりながらも、真顔で、OKサインを出している。
「そ、そうだけど...ごめん、僕そろそろ...」
『え~なんか疑わしい~。あ、じゃあ、電話切らないでそこでエッチなことしてよ~その子と』
「ど、どうして...」
『だって~、いっつも断るたびに今日は彼女といるって言ってんじゃん。なんか疑わしい~。そうしないと、これから翔の家に押しかけちゃうよ?』
「そ、それは...っていうかなんで俺の家...」
『ふふっ、いいから早く~』
京ちゃん、明らかに戸惑っている。なんでこんな時に...すると、京ちゃんが小さい声で「そこの机にスマホ置いて」
と言ってきた。僕は言われたとおりに机の上に静かに置いた。
すると、もう一度小さい声で
「静かにして...」
と言う。すると、めったに開かないスマホを取り出して、僕のスマホに近づけた。
すると、なにやら音声らしきものを再生した。
(女性の声が入ったアダルトな音声...)
「ちょ、京ちゃん何して...(小声)」
「こんな事しょっちゅうだから、回避するために録音しといたやつ(小声)」
終わったと思うと、電話越しから女子がどうやら本当だと思ったらしく
『...ほ、本当だったんだ...も、もうわかった。』
向こうから切ったようだ。こみ上げてくるおかしなこの感じ。二人で大笑いした。
「京ちゃん...それっ、よく思いついたね...!(あまりにもおかしくて笑いが止まらない)」
「俺、分かっちゃったんだよ...こうしとけば...向こうは勘違いして電話切るって...(同じく笑いが止まっていない)」
「アダルトなやつにこんな使い道があったなんて...。さすが京ちゃんだね...。」
「だろ...(笑)」
衝撃的な京ちゃんの女子撃退法を知った僕。しばらくしてわれに返った僕たちは、静かに勉強を始めた。
~ ~ ~
「...ねぇ京ちゃん。」
「ん?」
「ここ分からない。」
「ここは...角度がどこも分からないから、余弦の定理を使うんだよ、で、で出来た数字使ってこの方程式に当てはめるの。」
「...あぁ、そっかぁ、なるほどね。」
「またあったら言ってね」
「うん、ありがとう。」
~ ~ ~
「...あ、あのさぁ...京ちゃん...」
「ん、なぁに?」
「...もし、もし僕が京ちゃんの事好きって言ったら...どうする?」
「...へぇっ!?」
「い、いy、いや、もしも...もしもの話ね!?」
いやいやいや、僕、何言ってんの...!!!
「そ...それは...」
あぁ、だめだ...完全に終わった...
「...嬉しい...かな。」
「...え...?う、嘘...」
「...ホント...」
「な、なんで...だって...僕たち男同士だよ...きもいとか...思わないの?」
「いや、思わない。」
「で、でもさ、周りの目とk...」
―っ...
「こ、これで、分かっただろ...///」
京ちゃんが...僕に接吻をした...。その後、ほてり切った顔で...僕を見た...
「きょ、京...ちゃん...?」
「お、俺は、ずっと...翔の事...好き...だったんだ...。」
「で、でも京ちゃん、優しい子が好きだって...」
「俺にとっての翔は、運動ができて、寂しがり屋で、誰にでも優しい...そんな翔がずっと羨ましくて...大好きだった...いつの間にか、隣に居なくちゃいけない人になってて...誰にもとられたくないって...思った...」
「...ぼ、僕も...!僕も、ずっと京ちゃんの事が...好き...だよ...!!!」
京ちゃんはしばらくして、僕にいつも通りの、僕だけに、特別な笑顔を見せた。
「じゃあ、俺たち、ずっと前から...両想いだったんだな...」
「京ちゃん、ね、もう一回、好きって言って...?」
「...やだ。」
「なんでよ!いいじゃん、一生のお願い!!!ね?」
「...翔...その一生のお願い、何回使って...」
「おねがい...」
翔は調子に乗るといつもこの『子犬のようなかわいい目』で俺にお願いする。
「......好き...だよ...///」
それから二人は、もう一度だけ、今度はさっきとは違う、思いの詰まりあった接吻をした。
― END ―