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パンデミック~美味しいパンでお腹いっぱい~  作者: 礼生 治暁
第一章 マーブル、それは世界の主食
9/39

一先ず完成

「お腹が・・・ぺこぺこ・・・です。お、おにぎり食べたいんだな。」

個人の記憶は残っていないが関係ない事はよく覚えている。


大体、1時間半ほど寝ていた様だ。


 厨に入り、ユリに声をかけ肘から指先までを洗い、マーブル半分と水でお腹を落ち着かせる。(ちゃんと自宅の食料庫から持ってきました。)


 マーブルクラッカーは・・・無事でした。

おじじの姿が見えないが、何かと忙しい人だ。気にせず作業に入る。

ノセウの二回転目が丁度、枠に流し込まれるところだ。

やっぱり百合科の匂いは苦手。


 頭巾・手ぬぐいを付け、ノセウの一回転目をテーブルに持ってくる。

納品されたジャムは『ズバイリン』・『テュール』の2種だ。

ノセウの蠱惑的な香りと喧嘩しないのは、『テュール』かな。

 

 『テュール』は背の高い樹に生る、見た目緑色のトマトといった感じだ。

表皮はツルツル、果肉は黄みがかった白、味は甘み酸味共に強くジャムも同様。

香りはりんごのような爽やかな香り。ジャムになると透明感のある黄色になる。


 ノセウの2回転目が終わったユリが 口を覆っていても笑顔とわかる ニコニコしながら、歩いてくる。ノセウの残量を確認し、小さい木べらを取り出した所でビエン登場。

ナイスなタイミングだ、私はあまり味見したくないのでビエンに頼もう。

いい匂いだと思うけど強すぎて苦手、口に入れたい匂いではない。私見ですが

早速ビエンに頼み、快く了解を得た。

私が食べない理由は数に余裕がないからです。

異論は認めない、本当に苦手なのです。


 木べらで適量塗り付けサンドして、半分に切り(スキル使用)二人に渡す。

あ、もうヨダレは発動していますのであしからず。

グルレポを要約すると、

妖艶な美女かと思い服を脱がすと、まだ初心な所を残す少女だった。(ビエン談)

つんとおすまししている、背伸びしたい年頃の可愛い女の子(ユリ談)



ギャップのある2つの味が喧嘩せずに両立している。と、私は解釈

二人のイメージがだいぶ違うのは、外見重視・第一印象を重視するビエンと内面重視・本質を見ようとするユリという感じかな。

蛇足ですが、生々しい感想をしたビエンはユリに『卑猥だ』、とボディブロー食らっていました。

そういえばこの二人は伯父・姪の関係でしたね。遠慮がなかったです。


予想よりずっといい評価だ。ただし、他の物に比べると甘さが弱いとも言われた。

もちろん対策は考えています。

こう言った癖が強いものは固定客がつきやすいから、商品としてはありでしょう。


今後も私は、ノセウの味見はしないだろう。(願望


 だいぶ日も傾いてきたので、片付けに入る。

今日使わなかった食材は、まとめて元々あった食材と混ざらない様にしておく。

片付いた処でユリを呼び、ミーティングを始める。

紙に『2号』『3号』『4号』と書き、それぞれ使った食材・分量をお互いに確認し合いつつ書き出していく。



 そして明日の話に入る処で、黙って見守っていたビエンから 明日の話の前に と断りが入って話が始まる。


 もはや記憶の彼方に行っていたキリマ君、今日のことでしたね。


解雇後、犯罪者として奴隷堕ちする所を両親が庇い、判断を神殿に委ねる事に。

神殿にて事情説明を済ませ判断を仰ぐと『極めて凶悪、重犯罪奴隷にすべし』。

雇用契約の場で暴力を持って事を成そうとしたので『恐喝未遂』

また対象者が、祝福の儀を受けていない『幼児』で雇用主の家族。

改めて説明されて、被害者側のおじじでさえ慌てたらしい。


重犯罪奴隷は終身奴隷で衣食住は最低限与えられるが、いつ死んでもおかしくない様な家畜以の扱いをされる。


両親はそれでも抵抗し、罵詈雑言を おじじに・神官に・神に 向けたらしい。


その場でキリマ一家いっかは取り押さえられ、縛り上げられた。


普通に働いていたキリマの兄も呼び出され、一家全員取り調べ。

住居も調査が入ることになった。住居の調査はまだ継続中らしい。

長男以外は重犯罪者として奴隷堕ち、という結果になった。


長男は念入りに検査され神術の『訓戒』を受けるように指導された。

どうも長男は自立を考え実家を出ていたらしい。

流石に裁判権がある神殿で神を貶めたら、最も重い罪になるのは当然である。


おじじは支店の意識改善と規律順守をレコエに命じ、レコエ自身には『訓戒』を受けるようキリマの兄と一緒にその場で申込させた。


 当事者としてはため息つく位しか出来ない。

腑に落ちない、ここまで神の恩恵を受けている世界で神に逆らう、しかも大神殿のお膝元たるサワヘでだ。

恩恵のない世界の記憶が有るからかも知れない と無理闇飲み込む。


 それでおじじが心配したらしく、武道場を開いている知り合いに相談しに行き、サワヘでの用事が終わり王都に着くまでの、およそ一月護衛を頼んだらしい

明日の朝から来るらしいので、そのつもりで居る様にとの、おじじからの伝言。


そして明日、ユリには彼女の伯母であり、ビエンの妻でもあるアンゼルマ、通称アンが手伝うとの事。

普段アンが行っている家事と宴の準備は、見習いの女の子に任せるとの事。

「それは・・・アンには慣れないことをさせるね。でも、頼りになる。あとでお礼を言っておかないと」

アンは普段から休んでいる所を見た事がない程、色々お願いしているので申し訳なく思うがこれ以上ない適役でもある。

私の中で「お母さん」と言えばアンである。

出来なくは無いだろうけど母上が、家事をしている所は見たことがないので。


そうなると雑用系をアンにお願いしてユリはクラッカー作りに専念できる。

「明日は果実酒が『プルト』、花茶が『ハビワ』だね。そしてもう一つお願いしたいのがあるんだ。」

問題は解決済みなのですっ。




 夕食後、おじじに少し時間を貰い、厨に向かう。

「おじじには感謝しているんだよ、だから少しだけ僕の秘密を見せるね。」


錬金術で電磁波を操り皿の上のマーブルを溶かす。

砂糖を軽く一掴みし、液状マーブルに混ぜる。

手をかざし、ワザと波立たせ撹拌させる。

枠に流し込み、熱を飛ばし冷ます。

スッと枠から外し、ひと切れおじじに手渡す。


おじじは何かを我慢するかのように歯を食いしばっている。

「食べてみて、これが基本となる味だよ。砂糖しか混ぜていないマーブルだけの味。」

これに香り・色を着けているだけなのだ。

「おじじが許してくれなかったら 受け入れてくれなかったら 明日奉納する品も 祝いの席で従業員が口にする味も これから生み出される味も 全てなかったかもしれない。」


感謝の気持ちをありったけ込めよう。


「ありがとう。 この場におじじが居てくれた事が 僕はすごくうれしい。」

おじじでなく、父だったら許可は貰えず、当たり障りのない無難な奉納品を献上していただろう。


このマーブルクラッカーが広まれば、次の商品を生み出すことも容易になる。

未だ5歳、まだまだ障害は出てくるだろう。

けれど一番最初の、幼年であり 実績がないという障害を取り除いてくれたのは、間違いなく私の祖父 おじじである、ルインズ・シックフィクトだ。


「本当にありがとう。」


「孫の我儘を聞く甲斐性くらいなくては、先に逝ったコローナに笑われてしまうからのぅ。」

いい土産話ができそうじゃ 遠くを見つめながら呟く

おじじの横顔は泣いているような笑っているような顔をしていた・・・。



ヨダレが発生していない・・・失敗作か?

「おじじマーブルだけのはダメかな、美味しくなさそう?」

ヨダレが無い方がいいのに、無いと不安を感じてしまうこのジレンマ。

いや、これ単体で売るつもりは無いのだけど・・・

「大丈夫だぞ、これだけでも食感が素晴らしいからの。果実酒のと比べてしまうと物足りなく感じるがな。」



 明日朝食後に贈答に用いる文箱の話など細かい確認をし、就寝の挨拶をしておじじと別れた。







「年を取ると涙腺が緩んで困るのぅ、まさか孫に泣かされるとは・・・」


お読み頂き有難うございます。

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