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パンデミック~美味しいパンでお腹いっぱい~  作者: 礼生 治暁
第一章 マーブル、それは世界の主食
8/39

試行錯誤

 「どのようなスキルを頂いているのじゃ?魔法を使えるのじゃろう?」

直球できましたー、テンション高いなー。

 「一応神様に頂いたスキルなのですが・・・、」

間違って空気を飲み込んでしまったかの様に、喉を詰まらせるおじじ。

「いま、僕の口から漏らしていいのかわかりませんし、明日色々と分かるのでしょう?たった一日ですよ、我慢して下さい。」


 かなり時間が、多少自業自得な処があったにしても、過ぎてしまった。

「とりあえずキリマくんを起こしますか、口塞がないとダメですからね。」


 おじじが対面に座り、守秘契約を交わす。

これは一生涯口外禁止の契約だ、ただし今日一日だけの。

そして次に雇用契約解除の手続きだ。こちらにも守秘契約が含まれるが、こちらは守秘期間が2年で、内容が幅広く細かい。

双方ともに契約内容に触れることは、他人に伝えることが出来なくなる契約だ、神殿で発行しており、神の祝福によって、署名した瞬間から履行される。


 「お前の両親には私から伝えておく、外まで送ろう。」

支店長としての義務を果たすべく、キリマと一緒に退室していく。

「今回は手加減しましたが、もし外で同じことしようとするなら覚悟して下さい。」

あっという間に意識を奪われたのが堪えたのか、恐怖に顔を引きつらせ出て行った。

釘は・・・刺しておかないとね。

 

 お次はユリとの契約、守秘は私とおじじ、そして同じ守秘契約を交わした者とのみ除外。

雇用契約も更新、私の専属契約だ。端折って説明すると契約期間5年・賃金アップ・責任者見習い扱いといった感じだ。


 気を取り直して、試作品第三号の味見をしましょうか

ユリにマーブルを溶かすようお願いし、私は隅に隠しておいた二号を取りに行く。


蓋をしたままの状態でテーブルまで運び、ユリが戻ってきたのを確認し蓋を開ける。

瞬間、モーントの清爽せいそうとでも言おうか、青臭いと言えなくもない清らかさを感じさせる、爽やかで甘さを感じる香りが拡がる。

黄土色の酒から、薄くなり透明感がまし、暖かさを感じる琥珀色。

枠から剥がし一枚だけ残して、残りは蓋の中に戻す。

その一枚を3つに分け配る。

そっと口に運び歯を入れる。


 さくっ 


口の中に広がる香りと甘み。うん、上出来


あ、二人は放置しときましょう。うん、いつものです。

そのうちスルースキル極めそうです。

悟りはそろそろ開けそうです。

功夫すごいっす。 スルーと悟りでチートってできないかな?

現実逃避スキルも極めそう、笑えないって。


 踏み台をマーブルの鍋の所まで運び、木べらでゆっくり混ぜる。

次のゾネンを仕込んだら、花茶で一つ作ってみようかな。


 次の予定やら明日の事などを考えていたら、現実に戻ってきた二人から量が少ないだの・味がわからなかっただの、文句だか不満を言われる。

「僕元々、奉納品を用意したくて頑張ってたんだけどな。エクリックス様に感謝の気持ちを捧げたくて、頑張っていたんだけどな。」


 効果は抜群だ!どころではない。

自己嫌悪レベルまで逝っているのか頭を抱えしゃがみこんでいる。


メンドクサ チョーメンドクサ ホントメンドクサ


「ユリッ、マーブルの鍋を竈から外して。お祖父様、モーントは果実酒を使い切ったので、もう出せませんが次のゾネンが出来たらまた味見できるし、明日の夜は纏めて口に出来るのだから我慢して下さい。」

踏み台から降り枠を準備に向かう。

こびりついているのは見当たらないが布巾で拭い、セットする。

枠の四隅に留め具・ストッパーが在ると便利かも

改良を考えつつ、マーブルとゾネンを混ぜている所まで持っていく。


作業は進みあとは冷ますだけになり、次の試作品に入る。

「次は一つ花茶でつくろうと思うのだけど、どうかな?果実酒は2回やったのでだいぶ覚えたと思うのだけど。」

ユリに目を向けると、自己嫌悪からは脱したのか真面目な顔で頷く。

「大丈夫だと思います。砂糖で甘みを付ける処だけ少し不安ですが。」

「味覚・舌の感覚だけが頼りだからね、不安を感じるのも仕方がないよ。」

では、花茶に挑戦しよう。

花茶は二種類あるが・・・『ノセウ』と『ハビワ』か、両方とも蓋付きの筒に入っている。


ノセウは蔓性つるせいの植物でジャックの豆の木みたいに太くなる蔓だ。

ある程度までの高さになると頭をたれ、アーチ状態になる。

垂れてきたら向きを調整させる事が出来るのでノセウを栽培している所ちょっとした庭園みたいで見ものだ。

花の色はオレンジ、香りはユリ系なので好き嫌いが分かれる匂いだ。

味は酸味があり、これも好み次第。

ちょっと難しいかな。


 ハビワは細い木で成長しても太くならないので、背の高さもそれなりまでにしかならない。

花が小粒なので栽培は楽な部類に入るだろうが、収穫量が多くないので値段はそれなり。

花の色は白、香りは甘い蜜の香り。

お茶の味はほんのり甘みを感じる。

お菓子の材料には向いていそうだが、マーブル自体が白いので見た目的にどうかな?


 「どちらを使うか悩ましいな。ユリ、ノセウの匂いって好き?」

ノセウを差し出しながら尋ねる。

「私は好きですよ、高貴な大人の女性ってイメージもありますし。」

これは昔『隣国から嫁いできたお姫様が好んでいた』、という情報から印象づいたものだ。

なのでこの国では極一般的な認識だろう。

「お祖父様はどうですか?私は匂いが強すぎて、食事や休憩の時には好ましくないと思いますが。」

「コローナは来客時にしか出しておらんかったな。儂もそれほど好きじゃないレイの言うように匂いが強いのでな。」


 若い女性は好きと仮定するとファッションの一部、おしゃれ・羨望・憧れなどが入っているのかな。花茶に求めているものが異なっているとも思える。

そしてマーブルクラッカー・・・、女性向けの商品としては有りだな。

「二人に聞きたいのですが、今作っている物を売り出したとして、買い求めていく人はどの様な人でしょう?」

 客層を推測して、商品を開発するというのは私でも思いつくことだ。

今現在のシックフィクト商会の客層を考えていないのは、まず商品ありきで始まった事なのであまり考えない様にする。

元々、瓢箪から駒と言っても過言ではないし。


 「私は値段次第とは思いますが、甘い物ですので女性・子供が欲しがると思います。」


まずはユリの考え、『値段』いい着眼点ですね。味で見たら確かに女子供がターゲットです。

値段については私まだわかりません。

砂糖・果実酒・ジャムは高い、花茶は高いのかな?マーブルは安い位しかわからない。

でも近隣で類似品がないなら、稀少性でいいお値段付けそうですよね。


 「儂は貴族や商会などが贈答目的で、買い求めると思う。」

性別・年齢でなく、社会的地位の有無で客層を分けたのか、流石おじじです。


 データとしては少ないし正確さも不明ですが、大商会の隠居と現役で若い女性の意見、宛にしてもいいと思います。

「女性・子供向けには店頭でバラ売り、贈答品向けは受注生産制にして品数・原材料の値段でランク分けするなどで対応可能かな・・・・。」


 うん、決めた。

「ノセウで作りましょう。明日の宴には女性もいらっしゃると思うので、感想も集めやすいですから。」

わかりました、とユリが嬉しそうに返事をし、おじじは静かに頷いた。

「まず花茶を細かくしたいのですが、ミキサーはないから石臼?ありますかね。」

おじじを見て、ユリを見る。あ、これあかん奴や。

気を取り直して、

「胡麻すり・・・胡麻自体ないよ。石臼もマーブル以外穀物のない世界じゃあるわけないよっ」

思わず絶叫。おじじとユリが「ビクッ」って、しているけど気にする余裕がない。

なんか昨日もこんな事有ったな。


なにかしら無いとここで詰まってしまう、ミキサーは細かく切る・・・手でやると手間がかかりすぎるのでダメ。

石臼・・・すり潰す・・・、手でやるとしたら、平らな石と棒が必要だけど、効率的にどうだ?

多少なりとも便利な道具はないものか・・・。

薬草って、すり潰すのじゃないかな。あ、あれだ薬研やげん、乳鉢でも可。

でも、明らかに一般的な道具じゃないので、手に入らないかもしれない。

ここは素直に年長者(5歳児基準で)に頼ろう。


「花茶を細かくするのに磨り潰したいのですが、何かいい道具ないですか?」

二人共首をかしげている。

幼児無念。 Orz 久しぶりだよ、この体勢


仕方がない、原始的ではあるが試してみよう。モーントが入っていた壺を持ってきて(こっそりスキルで乾かし)、ノセウを入れる再び登場麺棒、大活躍だね。

ガシガシと潰して行く、これはしんどい。

「大変そうじゃのう、やはり男手は必要そうじゃな。」

ユリが変わってくれたけど、やはりキツそうだ。

「薬草は磨り潰して加工するのでは、ないのですか?」

「「あ」」

「・・・道具があればその分楽にはなります。」


身振り手振りを加え、すり鉢を説明し理解してもらう。

実稼働時には間に合わせるか、無い場合、花茶は除外。こっそりミキサー状態になる様、魔法を発動する。


 ユリを一旦止め、花茶を確認しレードルでお皿に掻き出す。

再度確認し、ユリにもよく見て覚えてもらい風で飛ばないように蓋をする。

マーブルを溶かしてもらいながら、ゾネンを枠から剥がす。

一枚残し、他は蓋で密閉し・・・以下略


 いつものヨダレ・グルレポはスルー。天丼はやりすぎると面白くないよ?


溶かしたマーブルにノセウを少しずつ混ぜていく。

百合科の匂いキツイです。『微風』でこっそり頭部周りの風を循環。


 途中で気がついたユリが、枠を持ってきた。

ユリにバトンタッチし、レードルで『一杯ずつ』流し込む。

ノセウを使った試作品の分量を伝え、もう一回作るようお願いすると私はおじじに断りお昼寝に向かう。(5歳児の体力、察してください)

疲れと共に思考が短絡的になり、魔法・スキルを多用してしまい、空腹と睡魔がタッグを組んで攻め込んできます。

なんとか自室に着き、ベッドに倒れこむようにして意識が途切れた。




 頭の片隅でつまみ食いを心配しながら、私は眠る。

変な夢見なきゃいいな~


お読み頂き有難うございます。

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