表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンデミック~美味しいパンでお腹いっぱい~  作者: 礼生 治暁
第一章 マーブル、それは世界の主食
5/39

ワンパンKO.

 「今日も大地の恵みを賜ることを、喜びと共に感謝し、生きる糧とします。」

食事の前の挨拶を済ませ、へたを落としたマーブルに手を伸ばす。


初めて木に生っているマーブルを見た時は驚いたものだ。

ヘタが付いていると『白い茄子』まんまだったし、それが背の低いとは言っても5M程ある樹木に鈴生っているのだから、バナナの新種かとも思ったわ。

 

ちなみにこの世界、『ボフィア』では1.2cmが1セロン・10セロンで1ロン:12cmとなり、100ロンで1ロンメ:1.2m・1.000ロンメで1キロン:1.2kmとなり、1.000キロンで1メルロン:1.2000kmとなる。(鑑定スキル調べ)


朝の食卓には私とおじじしかいない。他の家族は王都にいる。

私が居るここ『サワヘ』は、アーリーフ王国の第二都市でシックフィクトの本拠地ではあるが、構えている店は本店ではない。本店は王都にあるのだ。


元々は豪農だったシックフィクト家だが、マーブル・果物・畜産と手を広げ規模を拡大していつしか商家となったらしい。

その後も着実に成長し、今では王都に店を構える大商会となる。

王都に店を構え80年と、なかなかの老舗である。


 なぜレイルズのみ第二都市にいるかというと、明日行う参拝の為である。

サワヘには、エクリックスを祀る大神殿があるのだ。


父母も一緒に来る事になっていたが、父ダーナン・シックフィクトはとある問題の事後処理で動けず。

母は体調を崩しており、王都からの旅に耐えられないだろうとの事で見合わせた為、代理で祖父である、ルインズ・シックフィクトが同行することになったのである。

尚、他の兄弟は王都にある学校に通っている為、元々不参加である。


 「レイ、食事しながらでいいので聞きなさい。明日は朝、食事を終えたら大神殿に参拝し、夜には店の者を呼び、祝いの席を設けるので、そのつもりでいなさい。」

マーブルを飲み込み、頭を縦に振る。


 店の者といっても、私は面識ないんだよね。

お披露目兼従業員の慰安といった所だろうか、三男坊だし大人しくしていよう。


 「それで奉納品じゃが…。」

まだ話は続くらしい、花茶を飲みながら耳を傾ける。


 「ちょっと多めに作っての、夜の祝いの席で皆に食べさせたいのだが、大丈夫かの?」

多めに作る事は構わないが、幼児一人では手が足りないと思う。

 「流石に僕一人では手が足りません。ビエンが手伝ってくれるな、大丈夫かとは思いますが…。」


ふむ、とおじじは少し考えると、

「ビエンは他に用事を頼むのでな、店の物で若い者を二人付けるので、それで何とかして欲しいのぅ。」

「それは信用できる者でしょうか?今後商品として扱うつもりでしたら、売り出すまでは勿論、出来る限り長く秘密にしておくのが良いのではと思います。」

「そこは大丈夫じゃ。親もうちの商会に勤めている者で、『口外厳禁』と契約を交せその場は、儂も同席することにすれば大丈夫だろう。」

ん?随分するっと返答が来たが前もって考えていたのかな。


「わかりました。それで夜は何人程集まるのでしょう?」

「40人じゃ。」

ん?そんなに従業員いたっけ。

「40人?」

「40人じゃ。」

40人らしい。


えぇっと、計算計算・算術算術

40人に一枚ずつだとしても3種あるので3枚。

型枠で一度に作れるのが24枚だから、一種につき2回転必要となる。それが三回

実際の作業はどうだ?

①果実酒のアルコールを飛ばし、砂糖を加え味を調える。

②マーブルを溶かし①を加え、よく混ぜて型枠に流し込む。

③冷めたら枠を外して完成。

花茶の場合は①が変わるだけなので問題はないが…。


「三種類を40人に行き渡らせる量を作るには、時間が足りません。どうしても冷ますのに時間がかかるので。」

『放熱』使えばほぼ一瞬だけどね。

 「冷めなければ固まらぬ、か。型枠の数を増やして対応するか…。それはまだ早いかもしれんな。」

それならば、とおじじは続ける。

「今日付ける者に、明日も続けて作ってもらうことではどうじゃろう?レイが居らんでも作れないものじゃろうか。」


 明日、動けないのは私だけでしたね。

「難しい作業はないので、今日一日で味さえ覚えれば問題ないかと。」

来てくれる二人を信じよう。


 朝食を済ませ、おじじと一緒に商店の搬入場に向かう。

「レコエはいるか。」

おじじが大きな声を張り上げる。

搬入場の入口の方から はいっ と返事が聞こえ、男がやってくる。


 お待たせしました。と頭を下げるこの人はたしか…、

「レイルズ、お主の叔父にあたるレコエじゃ、今は支店の頭を任せている。サワヘに着いた時にも挨拶はしたな。」

「叔父上、レイルズです。宜しくお願いします。」

レコエはニコニコ笑っている。

「いやぁ、男の子いいですなぁ。うちは娘しかいないもので。うちの娘と結婚して私の息子になりませんか?」

必殺!幼児スルースマイルッ

おじじの服を引っ張り促す。


 「挨拶はそのへんで、頼んだものはどうなっておる。」

「品はお屋敷に向かう出入り口の側にまとめてあります。マーブル40個・果実酒四種各二本・花茶2種・ジャム2種各1壺、揃えてあります。お代は本店宛で品目は慰安費用・食料でよろしいでしょうか。」

うむ、とおじじが頷く。


 「それと例の二人に運ばせるように。レイ、案内したらそのまま作業に入ってくれ。後で一回顔を出す。」

そう言い残し、おじじは執務室に向かう。


 さてさて、どんな人が来るのかな~。

てくてくと荷物の置かれている所まで歩いていく。




 「お前が本家の三男坊か?ふんっ、なんで俺がこんなチビがきのお守りなんかしなきゃならねんだか…」

ちょっとガラの悪い高校生位の男の子が近づいてきたと思ったら、いきなり喧嘩腰で話しかけられてポカーンとしてしまう。


ゴキッ っと、凄い音と共にもうひとり。

今度も同じく高校生くらいに見える女の子が現れた。


 「この子は本家の子なのよ。ただの使用人がなんて口きいているのよ!バカじゃないの?」

さらにポカーン。お目目もまん丸に開いていることでしょう。


 すごいなぁー異世界。

女子高生が右ストレートで男子高生をワンパンKO.ですよ。いきなり拳ですよ?

幼児驚愕。



ガミガミと男子校生を叱っている女子高生に話しかける。

「お姉さん、お兄さんはこの仕事やりたくないみたいだけど、お姉さんはどうなの?」

「レイルズ様、私のことは『ユリ』とお呼び下さい。私は専門も配属も決まっていない正規採用されたばかりの従業員です。本家の方と本来であれば軽々しく口を聞ける身分ではありません。そして私は光栄に思っていますよ、新規事業の一角になるかもしれないと聞いていますので。」

さっきのあんちゃんと真逆な人ね、だから組ませたのかもしれないけど。

預けられる私の身にもなって欲しい。特に今回は今日一日だけという時間制限があるのだから。


 「それは期待になんとか答えたい処ですが…、正直今回は時間に余裕がないのでグダグダ言っている人は邪魔なので、レコエさん呼んできて下さい。」


待っている間に周りの手が空いていそうな人を捕まえ厨に運んで貰うようお願いする。


 「レイルズ様、お呼と聞きましたがなんでしょう。」

「レコエ支店長、あの男の子は僕の仕事の手伝いはしたくないそうですので、引き取って下さい。」

「今回の仕事はかなり特殊で、急ぎだと聞いていますが?」

「だからこそです。文句を言って指示を聞かない人など邪魔です。」

「…、わかりました。キリマ聞いていたな、お前は邪魔だそうだ。私も邪魔な奴は任されている店に必要ない。本日限りで解雇する。」

周囲が静まり返る。


 「ぁんでだよっ、ふざけんなよ。今日まで一生懸命やってきた。なのにガキのお守りしろって言われてやりたくないならクビかよ!」

立ち上がりつつ激昂する少年、キリマ。


ユリを促し、華麗にスルーして厨に向かう。

隣のユリからそわそわと何かを言いたそうな気配がする。


 「どうかしたの?」と問いかけると

「いや、あの…、あのまま出てきちゃってよかったんですか?」

真面目だからスルーできないか。功夫足りないね。

「僕はね、やらなきゃいけない事があるんだ。だから頑張るんだけど、それを邪魔する人に割いてあげられる時間はないんだ。それに僕がキリマ少年を雇用している訳じゃないから、彼の進退には口は出せないよ。」

ユリは納得したような、したくないような何とも言えない表情をしていた。


お読み頂き有難うございます。

用意してもらった品に 「ジャム2種各1壺」追加しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ