真っ白な茄子だけどマーブル
説明が多いです。あと伏線も多いです。
「なんてこった、異世界舐めてたよ。」
思わずorzポーズを取ってしまった私。
はい、地球からの転生者、元前田・現在レイルズ・シックフィクト・数えで5歳。
アーリーフ王国王都に本拠地を構える、シックフィクト商会の三男坊です。
で、何項垂れてるだって?
この世界ボフィアって言うらしいんだけど、そうエクリックス様が大地神として祀られている世界ね。
食文化がないんだわ、全くって訳じゃないんだけどね。
ざっくりだけど説明してみよう、数え5歳の知識も完全ではないけどね
主食は木から鈴生りに生ってるマーブルって白いナスみたいな形をしている。
食感はモチモチしていて、かすかに酸味を感じる。
腹持ち良く栄養価も高いらしい、王様も家畜もこれが主食。驚きの事実だ。
スープ系は塩味のみ、具は野菜と肉か魚が入っている。
果物から作るジャム・果実酒・花から作ってる花茶は確認出来た。
緑茶や紅茶の様な葉っぱのお茶はない模様。
朝食はスープとマーブルだけ、夕食はその他に肉/魚料理・果物が付く。
肉/魚料理も調理法は”焼く”のみ、味付けは塩か果実ソース。
食事は王様から下の庶民まで1日2食が基本。
地面から直接生えてるのは全部草って認識らしい、例外は薬草・毒草・茸だ。
主食の穀物に当たるのがマーブル一択
正直な感想としては
『パンいらなくね?』だ。
生食可能で青臭さも無くモチモチしていて、ほんのり酸っぱい。
ヘタを取らなければ1年保存が効くらしい。
真ん中に切り込み入れてホットドックもどき。
半分に切って間にジャム塗ってジャムサンド。
パン職人匙投げるよ、そりゃ。
小麦に変わる食材を探して、パンを作り上げたとしても労力に見合わない。
とても分かり易い話をしよう。
世界共通通貨『マブル』
はい、1マブルでマーブル一個買えます。
林檎っぽい果物が10~12マブルなので多分1マブル=10~12円。
わざわざ新しい物を開発しても売れないよね?
パン命って、人じゃないと諦めるって。
今まで勧誘した人達はそこそこの職人さんだったらしいし、多分現実を見たんだろう。
パンを作っても売れないって。
このマーブル、エクリックス様が世界から飢えを無くす為に授けたらしい。
目出度く飢えは無くなりました、皆感謝しているエクリックス様。
本人(神)はパンをご所望。
主食としてはマーブルは現状不動だ。
安くて美味しくて採取量も上々、神様ブランドまでついて、おまけに保存が効く。
一人勝ちですね。
ここで発想の転換『麦』。
別に粉にしなくても食べられる、押し麦ごはんに麦粥、他にもあるかもしれないけど今は気にしない。
何が云いたいかと言う、とそのまま食べられるけど加工したっていいじゃないって事。
ホットドックもどきだってジャムサンドだって加工してる様なもんだ。
米・じゃがいも・玉蜀黍もパンになるなら、マーブルをパンに加工しようと考えた訳です。
ってことで作戦開始だ。
「レイルズ様大旦那様がお呼ですよ。」
「おじじが?分かった直ぐ行こう。」
おじじ、レイルズの祖父ルインズ・シックフィクトの言伝を、おじじの付き人ビエンが伝えに来た。
はてさて、なんの用事だろう。
「おじじ、お呼と聞きましたので参りました。」
庭にある東屋にて寛ぐおじじに声を掛ける。
おじじは5年前、私がまだ母のお腹にいる頃に当主の座を、父上に譲ったのでまだまだ元気だ。
父上が不在の時には代理に立つので、未だに周囲に顔が利く。ボケとも無縁だ。
「おぉ、レイよう来た。5歳になったら神殿に参拝するのが習わしじゃ、明後日向かうので準備して置く様に。」
「はい、わかりました。エクリックス様の神殿ですか?」
パンはまだ出来ていないけど、手ぶらで向かうのもなんだし何か考えてみよう。
「レイルズはエクリックス様を信仰しておるのか?」
「はい、飢えを世界から無くしたエクリックス様は素晴らしい神様だと思います。」
あれ?なんか少し陰った様な空気が硬くなった気がする。
「ほう、飢えか。レイルズお主は飢えた事など無いじゃろう。何故にそれを素晴らしいと思うのじゃ?」
はて、なにかおかしな事を言っただろうか?
「飢えた事はありませんが、毎朝お腹が減って目が覚めます。それからの朝食の時間までは本当に辛いです。もし、あれがずっと続くのなら私は生きる事を諦めてしまうかもしれません。」
転生前の記憶では、朝食を取らない人が多かったらしいが、今は全く想像できん。
それが加護・祝福なのかは知らないけれど、あの世界はきっと何かが足りなかったのだろうと思う。
っと、思考があさってに行ってしまっていた。
「毎朝、空腹で目が覚めるのか?夕食はきちんと食べておるよな?」
「はい、しっかりとエクリックス様に感謝を捧げ、頂いています。」
流石に満腹になるまでは食べていないけど。
腹八分目、大事です。
兄の一人がちょっと過剰に食べているのを見ると、特にそう思う。
肥満児って大丈夫なのかしらね?若年性成人病って、言葉がしょっちゅう浮かぶんだけど何故か恐怖を感じるのよね。怖や怖や
「もしや、魔法を使っておるのか?いや、まさか…、」
おじじがなにか考え込んでしまった様だが、魔法は使ってます。
主に健康の為に。
この世界でお風呂文化は未確認。
火山は在るらしいので温泉もあるだろう。
飲んでいる場合もあるだろうけど、入浴もきっと在るはず。
それはさておき桶に水を張ってゴシゴシってのが一般的、赤ちゃんの時だけかと思ったわ。
勿論そんなのでは衛生的に問題が有るので、出来る限りゴシゴシした後は『洗浄』って、感じで生活魔法で一発。
寝具とか部屋にも同様に綺麗にして就寝。
寒い季節、あ、夏冬あるのよこの地方。本で読んだだけだけど暑いだけの地方・寒いだけの地方てのも在るらしい。
アーリーフ王国は大陸の南東に在り海に面している。
私が今いる第二都市サワヘは内陸部側北西部にある、王都は国土の中央。
商家の子供なので地理は国語・算術と並行して教育されました。
算術で思い出したけどアラビア数字じゃない数字があります。
和数字と麻雀の索子を足した様な見た目。
元日本人なので算数程度は楽勝です、うっかりミスはあるけどね。
話を戻して、確かに寝る前に私は生活魔法を使っている。
けど、生活魔法って生活に根ざした魔法でしょ?誰でも使えるんじゃないの?
「スループならまだしも、レイが魔法を使うのか?」
スループってのは次男坊、母親は違う。
父であるダーナン・シックフィクトは奥さんが二人、あと愛人らしき援助してるっぽい人が一人居る。
私の母は第二夫人で長男9歳の母親でもある。
んで、第一夫人は次男8歳と長女7歳を産んでいる。愛人さんは不明。
「神殿で参拝すればわかる話か。」
おじじは一人で納得したのか特に何も言わなかった。
祖母は私が生まれて一年しないうちに亡くなったらしいです。
さて、やってきました貯蔵庫、奉納品の許可は頂いたので持ち出しても問題なし監視兼お手伝いにビエンが付いて来てくれています。
持ち出すのはマーブル5個・酸味のある果物2種・果実酒1本・ジャム1小壺・砂糖ひと握り。
乳製品はチーズしか見たことがない。数え5歳ではまだまだ知識が足りません。
とりあえず今回作ろうと思っているのはフルーツタルトっぽい物。
マーブルの形を変え、主食でなくデザートに仕立てあげようって魂胆です。
「さぁ、頑張るゾー。」
天高く拳を突き上げる私。
数え5歳です、ビエンの腰辺りまでしか上がらないけど『天高く』です。
「ぼっちゃま、何してるんです?」
え?気勢を上げる時ってこんな感じじゃないの?
「マーブルぁぁぁ…。」
説明しよう。
マーブルをちぎって丸めて伸ばして、金属の皿に合わせて整形しました。
一枚目ジャムを塗りたくって、二枚目フルーツ細かく刻んだのを程よく散りばめて、三枚目ジャムを塗った状態で窯に…、
「ビエン、窯はどこ?」
「かま、ですか?陶器を焼く窯のことでしょうか?」
ぉぅぃぇぃ
パンがないから窯必要ないのか。
幼児うっかりです。
ん~、焼かないでタルトと言えるのか。
そもそもタルトじゃないって言われればそれまでだが。
しかしこのままでは只、形状を変えただけになる。子供の粘土遊びじゃないんだから。
今は幼児ですけども。
「あの、ぼっちゃま?」
「あ、ごめんねビエン。僕失敗しちゃったみたい、悪いんだけどマーブルをまた皿の大きさに伸ばしておいてくれる?」
「わかりました。」
すっげえ怪訝な顔してる~。
完成形を知らなきゃ食べ物を、おもちゃにしているようなものだしな…。
用途の違う窯では調理に使えない、かと言って窯を作るツテもないし、許可も降りなきゃお金も無い。
自分で作れるものじゃないしなぁ~
なんかの漫画でピザ窯作ってるのは読んだ記憶はあるんだけど、技術もないし5歳児の体では無理がある。
技術か…、魔法だ、私にはエクリックス様から頂いた魔法とスキルがある。
熱気が逃げないように『微風』をコントロールして錬金術の応用の『電子レンジ魔法』(勝手に命名した)で発熱だ。
でも、失敗するかもしれないから8等分に切って試そう。
「ビエン、手が空いたらこの試作品を切って欲しいんだ。」
八等分の切り方を教え切ってもらう。
さて、ひと切れだけ鉄皿に載せ、いざっ。
あぃたっ、あたたた、頭痛いんですけど。
もしかして2つ魔法使ってる負荷か?
少しだけだから我慢だ、幼児頑張る。
頭痛をこらえつつ皿の上に注視すると…えぇ~、何が起こったんだ?
なんかドロドロになっちゃたんですけど?
「ビエン、マーブルって焼くとどうなるの?」
背中を向けながら尋ねてみる。
「マーブルは焼くと溶けますな。冷めたらパサパサになって飲み物無しじゃ食べられません。」
ビエンも作業しながら答えてくれる。
「じゃあ、スープの具にすると?」
「爆発します。」
は?ナニコレ危険物?
で、冒頭に至る、思わず絶叫だよ。
ビエンがビクッてしてるけど気にしない。
と、とりあえず冷ましておこう。
錬金スキル『放熱』発動
ん?なんかこれクラッカーみたいだな。
刻んだフルーツとジャムが混ざって、見た目は少し悪いけど美味しそうだ。
「ぼっちゃま?何やらジューシィでスィートな香りがするのですが。」
うん、いい匂いだよね。
「うん、なんか溶けちゃったんだよね。」
振り返ると滝があった。
いつもおじじの後ろに控えているビエン。
柔和な微笑みでとてもダンディなビエン。
5歳児の意味不明なお願いに文句なく従ってくれるビエン。
そんなビエンが…、ヨダレ垂らしてるぅ。
そういえばさっきのコメントもなんかビエンらしくなかった。
なんだよ『ジューシィでスィート』って、お前はあれかJKなスイーツ(笑)かっ。もはや死語だよっ
突っ込みたいけど突っ込んでも意味が通じないなんてなんというジレンマ、これが寂寥感ってやつか。
フフフ、涙出そう。
「ビエン、試食してみる?見た目は少し悪いけど。」
エクリックス様、悟りが開けそうです。
それだけヨダレがあれば喉、詰まらないと思うんだ。
それにしても、もしかしたらあれがこの世界のスタンダードなのかな?
神様からしてヨダレ垂らしてたのだから、そういう物なのかも知れない。
異世界パないっす。
現実逃避はここまでにして、マーブルを溶かして冷ませばクラッカーみたいになる。
見た目通りなら小麦粉の代用品になりそうだ。
私はそんなにヨダレは出ないので水を用意していざ実食。
ん~、甘い。熱で酸味が甘味に変わったのだろうか?
甘い小麦粉ってデザートにしか用途が思いつかない。
でも、ケーキとかどうやって作るんだ?
パンって、あのフカフカ感どうやって出してるんだろう?
ジャムと合わせるために選んだ果物の酸味が、熱によってマイルドになり、程よく増した甘味と引き立て合っている。
ジャムは無くすか違う物に変え、個別に混ぜるか上にのせるのが無難かな。
でも少し焦げてるな?
とりあえず見栄えの事もあるし型枠が欲しいのだけれど…、
うん、わかってます。知っています。覚えていますとも。
私一人で試食していた訳じゃない事は。
「お前はどこの彦〇呂だっ」
生活魔法『微風』によるブーストを掛けた突っ込みを入れる。
これは突っ込まなきゃダメでしょう。
いやだってさ~、あのセリフそのまんまでしたよ?前世でも今世でも宝石箱って見たことないよ。
「なんで関西弁なん?」って、突っ込みたかったですよ?でもね、ここには私しか居ないんですよ。
そして連続ツッコミの技は修めていなかったらしいです。
功夫が足りないっす。
「はっ、ぼっちゃま済みません。食べた事のない食感と熱によって粘度の増したジャム・きざんだ果物の生み出す何とも言えぬハーモニーが…。」
あれ?まだ正気じゃないのかしら?なにか毒物にでも変化したのかしら。
グルレポみたいなこと言ってるし。
でも、私も食べたしって、『毒無効』頂いてましたね。
じゃあ、ビエンを『鑑定』
ビエン(38)
格位:18
体力:18
力 :12
賢さ:19
魔力:2
速度:10
器用:12
運気:3(2+1)
状態:通常
所持スキル
算術3・短剣術2・気配察知1
備考
ヨダレ神の祝福
ルインズ・シックフィクトの従者
あ、『通常』だ、よかった毒とかなかったらしい。
混乱する毒とかって絶対やばいよね。
でも、正気でこの状況なのかそれはそれで困る。
待って待って待って~、なんか変なのあるよ?
算術は商家に出入りしてるなら当然。
短剣術は護身かな、気配察知は従者の嗜みだと思う。
んで、備考。
『ヨダレ神の祝福』てなに?
本当にいたのかヨダレ神。
幼児びっくり。すげえな異世界。
改めて『鑑定』
『ヨダレ神の祝福』担当:エクリックス
本人の好みに合致した特に美味なものに反応する
ヨダレは祝福の現象として出ているので本人の体液ではない、ヨダレにみえるだけ
運気上昇(小)
うひぉっ、思わず奇声が。
エクリックス様担当なんだもういいです疲れましたもうお腹いっぱいですこんな時はスルーするんだきっと私なら出来る。
「これ誰得の祝福だよ?」
功夫が足りなかった。
だってさ、美味しそうなものに反応すると実際はともかく、見た目はヨダレが垂れるんだよ。
私なら全力で拒否だよ、恥ずかしいもの。
運気上昇は問題ない、多分+1されているのがそうだろう。
運気の上限知らないけど微妙だと思う、デメリットの方が多いって。
まぁ、状態異状で無いなろ放っておこう。
割れやすそうなクラッカーもどきをスキルをこっそり使い、綺麗な短冊状に切り分ける。
「ビエン、これをおじじの所に持って行って、金属で型枠欲しいからお金か許可を貰ってきて欲しいんだ。お願いできる?」
未だ何か言っているのを遮ってお願いする。
彦〇呂もびっくりだ。
「食べてみてわかったと思うけど割れやすい。出来るだけ割らずに綺麗な形に仕上げたいんだ。その為に型枠が欲しい。」
「わかりました、大旦那様もこれを食べればきっと賛同頂けるでしょう、お任せ下さい。」
いってらっしゃい。
さて、クッキーみたいな抜き型は多分無いだろう。
四角の箱型のものに流し込むとして、中に仕切りがあれば短冊状にはなるだろう。
仕切りに自由度を持たせれば、いろいろ工夫が出来そうだ。
円いのをピース切りにしてもいいけど形は一種類にしかできないし、スープ皿に木の棒で仕切るだけで代用出来そうだしね。
そして次なる問題は明らかに焦げている部分、これは刻んだ果物だ。
ジャムはともかく果物はダメだな。
液体になるのだから、なるべく近い状態なのが望ましいのだろう。
液体、果実酒混ぜてみるか?
イメージ的に固体のお酒って、感じになりそう。
そのままじゃダメだな。
アルコールを飛ばして砂糖を混ぜて、味を整えればいけそうな気がする。
よしよし、考えが纏まってきたぞ。
裏技として『放熱』で果物入りも作れなさそうでもないしね、奉納の一品としてはありだろう。
あ、多少焦げていたのもスタッフ(ビエン)が美味しく処理しました。
食材は無駄にしない、これ大事です。
お読み頂き有難うございます。