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パンデミック~美味しいパンでお腹いっぱい~  作者: 礼生 治暁
第二章 学び拡がる世界
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王都シックフィクト家本宅

「父上とレイを疑う訳ではないのだが…、いや『レイルズ様』になるのか。」

実感してしまう、最早『親子』でさえ、こうなる身になってしまったと。

精神が大人で無かったら早々に潰れるだろう、掌を返す様を目の前で見る事になるのだから。

おじじの言う通り『父親のみに知らせる』様にしておいて、本当に良かったと思う。

「ダナ、レイはそれを望んでおらんし何よりまだ子供じゃ、お主は身を守る術も、後ろを守る盾も持たぬ我が子を外に放り出すのか?」

「いえ、そういう訳ではありませんが流石に畏れ多いと。」

「まだまだ若いの、善良であるとは思うが、商人としては落第じゃ。」

「父上、エクリックス様は『食文化』を花開かせよ、と仰せです。目標は漠然としていますが課題自体ははっきりしています。課題は私自身の問題でもあるので後回しにして、簡単に言うと『美味しい物を造り広めなさい』になります。今夜どの様な物、という一例を出す許可を下さい。」

「肉は出すのか?あれも出すのじゃろう?」おじじ、年の割には食欲すごいな。

「いえ、本日は帰路の途中で購入した、川魚を出したいと思います。調理法も今までにない物を用います。それを『あれ』につけて召し上がって頂く事になりますね。」

おじじ喉が鳴ってるよ、あと十年は元気そうだ。




「それで人手が欲しいのですが、今後を考えると迂闊な者を使う訳にも行かないのです。それに最終的にはかなりの人数を揃える事になります。」


今夜だけの事ではない。

最終的には独自で『マッグル』などを提供する場を作るつもりだ。世界的な規模を持つことを考えると、遠い目をしそうになるけどコツコツとやっていくしかない。

本当に長い生がなければ成し得ないことだ。


現状、提供できる品種が少ない為シックフィクト商会の一部に置かせてもらうことになるけど、ヒェンブル(生姜)を使った料理・ソースは展開を考えると、屋台などで興味を持ってもらうことから始めないと難しいと思う。

そもそも『ソース』を商品として扱っている所などおじじは聞いたことがないと、言っていたので商材としては未知数だ。

製造・販売を独自で成すとなると、資金もそうだが信用出来る人材確保は急務だ。

「当座、私の部屋付きの『ヨーラン・オーグレーン』を貸して下さい。ある程度まで独自の資金が貯まるまでは、ユリとヨラの二人でやっていくつもりです。」

その後も色々と話し込んだが、実際に食してみてからという話で落ち着いた。




「書庫の本はほぼ読破済みだし、なにかないかな・・・、いいこと思いついた。」

無事、父との話もある程度迄まとまり、次いで母の所に挨拶に行こうと廊下を歩きつつ、今後何をしようと考え、ひとつ思いついた。


「帰ってきたのか。お帰り、レイ。無事な姿を見られて安心したよ。」

思いついた事を頼もうとしていた本人がやってきた、なんて都合のいい。

「ただ今戻りました、ナセル兄上。兄上もお変わりないようで良かったです。」


ひと月以上離れていたので、本当に久しぶりだ。サワヘに出発するまでは、夕食を一緒に取っていたので一日一回は顔を合わせていたのだ。

ナセル兄上、ナーセル・シックフィクト今年で10歳になる、私と同じ母から生まれた兄だ。

髪は明るい茶髪で少し長め、琥珀色の瞳がほっとしたように私を見つめている。

温和で優しく、基礎学校の成績も悪くないシックフィクト家の長男であるが、後継ではない。

その事が私を独自で起たなければならないと、考えさせる理由でもある。

「兄上ちょっとお願いがあるのですが、少しよろしいですか。」

思いついた事をお願いしようとしていたら、



「おやおや、庶民の匂いが強く息苦しいと思っていたら、こんな所で密談している兄弟がいるじゃないか。」

いや私は旅から戻り、身奇麗にするために体を拭ったし『洗浄』も使ったので臭くないです。

比喩的な意味で使っているのは分かっています、残念ながら。

挨拶もせずにいきなり皮肉る礼儀知らずが、取り巻きを引き連れ歩いてきた。

「お久しぶりです、スループ兄上。『祝福の儀』を終え戻りました。」

この礼儀知らずな男、残念な事に兄のひとりである、残念な事に。大事ですよ?

このスループ・シックフィクト9歳が後継とされている。

スループ・シックフィクト、前述のように9歳でシックフィクト家の次男。

金髪を伸ばし後ろに流している、忌々しそうに私たちを見つめる目はグレーなかなかの

ポッチャリさんだ。


シックフィクト商会の未来は暗い。だから私は独り立ち前提なのだ、これが後を継いだらと思うと不安が拭えない。

そもそも私たちの兄弟なので、彼も庶民である。なのに何故あのような物言いになるかと言うと、

「ふん、貴様等私の弟ではない。片方の親が同じだけだ、私は『魔法』が使える貴族に連なる者なのだからな。間違っても外で『兄』などと言うなよ。」

と、こういう次第でして。母親が子爵家の出身なのだ。



ひとつ断っておくが、たとえ母親が貴族出身でも腰入り先が庶民なら当然庶民になる。

『魔法』が使えたとしても貴族に成れる訳ではない、優秀なら実家の貴族に囲われ、どこぞに婿入りでもすれば話は別だが…。

スループには無理だ、断言します。いっそ優秀で母方の実家に引き取られて欲しいとは思うが、無理だろう。

なぜって…、スループは魔力が3しかないのだ。

ちなみに私の基礎魔力は13だ、多いか少ないかは、わからないけど。

普段私が使っている『洗浄』は、生活魔法と言う事もあるのか魔力消費1、3回しか使えない。

スキルを持っていないスループは使えないけどね。

スキルもね、無属性魔法『光明』(消費魔力1)しかない。やっぱり三回だ。

ちなみに使った処を見たことはない。

本人曰く土魔法が使えるらしい。スキル表示されてないけどね…。本人曰く使えるらしいデスヨ。


そんな訳でスループはシックフィクト商会の後継ぎだ。輿入れ条件だそうです。

魔法が使えるなら子爵家に、使えないなら後継ぎにと。能力を判断材料になぜ入れなかった。

尚、学業は『算数が怪しいレベル』とスループと同じ母から生まれた、私の姉になるジェシ姉(8歳)が渋い顔をして教えてくれた。

まあ、もういいだろう、流石にこれ以上は私も身内として辛い。


「分かりました、以後気をつけます。」

ジェシ姉曰く「兄だなんて恥ずかしくて言えない。」

うん、私もそう思う。




なんとかやり過ごし、ナセル兄様と話は夕食の後でと約束し、母の部屋に向かう。

「母上、レイルズです。戻りましたので、挨拶に参りました。」


部屋付きの侍従がドアを開け

「どうぞお入り下さい、アセリア様がお待ちです。」

私は頷くと母の前に赴き

「母上、『祝福の儀』を終え、帰還しました。こちらが証書です。」

初めてのお使いですね、ひと月以上掛かっているし、おじじが付き添ってくれたけど。

私の母アセリア・シックフィクト、ちょっと小柄で可愛い女性だ。

自意識が芽生え、脳の発達と共に生前の記憶が戻りつつある頃、私は彼女が自分を生んだとは思っておらず、親戚のお姉さんだと思っていた。


髪は明るい茶色でセミロング、にっこり笑うその瞳は琥珀色、さっきも言ったが小柄で可愛い。実年齢26歳だが女子大生位にしか見えないのだ。

更に私には5歳離れたナセルが居ることは認識していたし、当時は精々女子高生位にしか見えなかった。


「ママとお庭で遊びましょう。」と言われ、使用人と彼女しか居ない事でようやく気がついた。

あれほど驚いたのは未だ嘗て無い。

時々出てくる『ジェシスお姉ちゃん』(ジェシ姉上)が母親の事だと思っていたのだ。


美人、という意味ではエクリックス様達の方が上だ。

主観もあるが 可愛らしい、は母であるアセリア、リア母様の方が上だ。

ちなみに父とは学生の時から交際していて、成人後すぐに結婚したとの事。

告白は母から、以降連日の猛アタックだったと、当時を知る人は言う。

そんな訳でこの可愛い人が私の母だ。実の息子ながらお嫁さんに貰えるなら欲しいです。

あ、もちろん比喩ですよ?この母に他人行儀にされたら流石に泣く。秘密大事です。

体調は良さそうだが、気を遣い早々に退出する。

夕飯の仕込みもしないといけないしね。




 そんなこんなで厨に到着。私が向かったのは予備の厨。

普段使っている方ではサラダとスープ・マーブルの準備をしてもらう事になる。

私達が担当するのはメインの魚とデザートの『マッグル』だ。

中ではユリとヨラが…険悪なのだけど、どうしたんだろう。

ユリにはヨラに軽く教えておくよう頼んでおいたが…。

困った顔をしたヨラと目が合うが、身支度が先だ。

手洗い頭巾口当ては二人にも当然してもらっている。


「お疲れ様、どうかしたの?」取り敢えずヨラに声をかける。

「済みません、レイ様。私、物覚えが悪くて、ユーリさんを怒らせてしまいました。」

あ~、これは私のミスだ。

「ユリ、ごめんなさい。ヨラは元々あまり覚えが良くないんだ、ちゃんと言っておけば良かったね。それに今日は魚も料理しないといけないから軽くでいいんだよ?どうせしばらく毎日『マッグル』は作らないといけないしね。」

サワヘではキリマ相手に上手くやっていたから油断したよ。お子様大失敗。


「レイルズ様、どうしてこの方が私の同僚になるのですか。普通の人より覚えが悪いです、悪すぎます。

言ってましたよね、今後はどんどん規模を大きくしないといけないって。

それなのに覚えが悪い人を入れるなんてどういう事なんですか御説明下さい。それになんでレイルズ様を愛称で使用人が呼ぶんですか。」

「ユリ、落ち着いて聞いてね。ヨラは確かに物覚えが悪い、彼も自覚している。でも彼はバカじゃない、一度覚えれば二度と間違えない。」

言い聞かせるように、ゆっくりとユリの目を見て話す。


「王都で家族以外の一番信用できる人間はヨラだ。はっきり言えばユリよりも信用している。ヨラはね、自分を犠牲にしてまで、僕との約束を守ろうとする、ああ、そこは馬鹿と言えるかな?」冗談も交え、話を続ける。

「下手をすると今後ずっと、それこそ一生『マッグル』を作るかも知れないと考えると、ヨラ以上の人材はいないよ。」力強く断言する。


「でもレイルズ様、愛称で呼ばせるのは駄目です。」

ん、そこにこだわるの?

「だって、私まだ許されてません。」あらかわいい、嫉妬かしら。

「ユリ、例えば君に恋人が出来たとする。その時、僕の話が出てきて「レイ様がレイ様が~」と言っていたら恋人は面白くないと思うんだ。気にしないかもしれないけどね。」

本音としては、ユリの忠誠心は、私個人に向いているわけじゃない、シックフィクト家だ。

会頭である父に命じられたら逆らえないだろう。

その点、ヨラは私個人に向いている。その違いだ。

腹黒いってことはないよね?このくらい。


あ、納得してないよ。

「それでは一年以内にシックフィクト商会から独立して、『ジュエリック商会』になった時に改めよう。」

その為にも、今は『マッグル』と魚料理を作らねば。




幾分余裕を持ち料理がほぼ完成、後は余熱が丁度良く魚を蒸してくれるだろう。

こっそりとヨラに頼んで買って来て貰った物も、完成している。

今夜はメインとデザートの給仕はユリとヨラに任せる。その場でユリの紹介もする予定。

父に対し、取っちゃダメだよ、うちの子だからね、ちょっかいもダメだよ。

と、釘を指す意味合いもある。

現状私以外だと、ユリしか『マッグル』作れないのよね。 大問題。 

ちなみに、多少多めに魚は仕込んで有り、二人には味を覚える意味もあり食べてもらう。

ヨラでさえ私を疑わしそうに見ていた。

蒸し料理って、初めて見るだろうから仕方ないけどね、これでも火は入るんだよ。

ちゃんと食べられるし美味しく出来ているから。

焦げ目がないってだけで生じゃないんだよ、信じてね。

ちょっと蒸し料理は早すぎたかもしれない。だって、食べたかったんだもん。


そろそろ時間だ、いざ!ある意味決戦の場へ。





お読み頂き有難うございます。

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