閑話② サワヘafter
読みづらいと思います、功夫足りないっす。
申し訳ございません。
「クソッなんでこの俺が、犯罪奴隷なんかに・・・。」
※※※※ キリマ・バントafter ※※※※
ここはサワヘにある大神殿の中、騎士宿舎の地下拘留所である。
「五月蝿いキリマ、考えが纏まらないから黙っていろ。」
偉そうに言ってくるのは彼の父親である、そして母親も同じ牢の中にいたが、そちらは静かな・・・小声でブツブツ言っているのか口は忙しなく動いている。
なぜ彼らが拘留所との名前の、実質牢屋に居るかと言うと「身から出た錆」「自業自得」である。
初めは本当に些細なことだった。ただ命じられた仕事が気に食わなかっただけだ。
それを上司に言われ納得がいかないまま、引き受けてしまったのが悪かったのだろうか。
違う、彼キリマは恐喝未遂で捕まったのだ。
このボフィアでの道徳は、神殿が教え伝える物語、この世界で実際に有った事無かった事両方を本にして広めている。
中には動物を題材にしたものもあり中々奥が深い。
「恐喝」暴力や相手の弱みを握り、恐怖・畏怖をつかい脅迫し、金銭・財産・生命・地位名誉を奪い取る犯罪。
キリマの場合、契約を結ぶ際に暴力を用い自分の要望を通そうとした、これだけで恐喝未遂である。
さらに心象を悪くさせたのが暴力を用いようとした相手が、5歳児とは言え「祝福」前なので幼児に分類される者に、ということだ。しかも相手の親族の目の前で
その場で取り押さえられたので未遂だが、自業自得そのものである。
「祝福」前の子供(5歳になると「祝福の儀」を受け神の恩恵を賜る)は、恩恵がなく周りの人間が守り育てなければいけない「弱き者」と、神殿では推奨しており世間一般の常識である。誰もが最初は「弱き者」なのだから当然だ。
そして父母、神を崇める神殿それも主神とされるエクリックスのお膝元、大地大神殿でその神を名指しで罵り扱き下ろしたのだ、正に「身から出た錆」。
罪状としては「不敬罪」(ボフィアでは「神」に対してのみ用いる)、これは全人類の敵とされる最も重い罪だ。この罪以上となると神が直接下す「神罰」のみとされる。
現状ではキリマは犯罪奴隷堕ち、父母は公開処刑になるだろう。
「どうせ捕まるならあの食物、無理やり全部食っちまえば良かった。」
彼があの食物:マッグルの名前を知る事も、もう一度口にすることも・・・無い。
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「最早、言い訳など聞かぬぞ。オルファに引き継ぎ後、お前は会計部にでも行っておれ。」
※※※※ レコエ・ギッシェafter ※※※※
先代に言われ、私は頷くことしか出来なかった。言い訳など出来ようが無い、私は何も見えていなかったのだから。
業績が少し下がる程度なら、御叱り位で済んだだろう。
だが私は人を見る事が出来なかった、よりにもよって商売敵が潜り込ませた人間を重用し続けていたのだ。
基礎学校からの先輩で、お世話になったし頼りにもしていた。それこそ仕事から恋愛まで様々だ。
しかしそれは彼ら、しいては商売敵のガリング商会の為に誘導されていたのだ。
最早自分が優秀であるなど微塵も思っていない、年齢や経験など関係ない、才能があるものには決して敵わないのだ。
「レコエ、災難だったわね。」
顔を上げると、妻のオルファリルがいつの間にか、目の前に佇んでいた。
災難、か。確かに災難だったがそれは身から出た錆というものであろう。
返事などできず、引き継ぎ作業を始めた。
圧倒である、現役時代のルインズ様を思い出すような様である。
わずか一日で膿を追い出し、小康状態まで持ち直した。
人事担当者を問い詰め、教育担当と雑用係全員とも面談した。
優秀なものはサワヘから外に出し、運搬・行商に回して一定以上成果が出ないようにしてきたらしい。
そして無難な者達で周りを固め、自分の地位を安泰させていた。なんとも小物の人事担当者だ、だがそれも実態を正確に見抜く事が出来たからの話だ。
私は支店長として、何をしていたのだろうか・・・、よく未だ優秀な人材が残っているものだと、妙な感心もしたが思えば当然である。
元は豪農で在ったとされるシックフィクト家、大きくなったのには理由があるのだ。
豪農の時代からシックフィクト家には家訓がある、「感謝の気持ちを忘れるな」。
これは見習いに入る時必ず話される事だ。
マーブル一つにも感謝の気持ちを忘れるな、大地 水 風 太陽 様々な神の恩恵を受けマーブルは育つのだ、そして人が管理し収穫し運搬して来て初めて店頭に並ぶ、それを忘れるな。
その精神に則り、シックフィクト家は従業員にも感謝の心を忘れず、「福利厚生」というものを作り上げた。従業員の冠婚葬祭には金銭か物を送り、手伝いもするし、一緒に祝いもする。
病気になれば見舞いを近所のものに持たせる、子供が学校に通うなら文具や辞書を送り支援する。
だから皆、感謝し奉公している、そして子供も感謝し、恩を返そうとうちに働きに来るし親もそう勧める、シックフィクト家に仕えれば孫の代まで安心だ、と。
そうしていつしか「大商会」とまで言われる様に成ったのだ。
考えてみれば「福利厚生」という言葉は、シックフィクト商会に関わらない人達は知らないだろう。商会関係者のみ通じる言葉だ。
「なるべく早く送りますよ、なるべく早く。その代わり開発費の一部、主に材料費は負担して下さいね。その他にもすでに決まりがありまして・・・、」
あれは本当に5歳児だろうか?オルファと交渉し自分に有利に進めている。
私には無理だ、商品開発だけでなく商人・交渉人としても勝てないとは・・・。
「レコエ叔父上、僕と貴方の違いってなんだと思います?」
オルファとの交渉に勝ち、一息入れていたレイルズが不意に話しかけてきた。
「才能の有無だ、私には才能がないのだ。」分かりきった事を厭味だろうか
「才能ですか、あれば楽でしょうね。僕も欲しいものです、全然『パン』造りに目処が立たない。」
続けて「マッグル」を生み出した天才は言う。
「ボクと貴方との違いは、見ている『所』です。自分の立っている場所を理解し、自分が向かう場所を見定めているかです。」偉そうに言いますけどねと、彼は笑う。
「見ての通り僕は子供です。力も背もお金も足りない。道具もなければ住む場所さえ親に与えられているだけ。だけど僕は『マッグル』を作った。」偶然の産物ですけどね と今度は苦笑い。
「だから僕はお祖父様に助けを求めた。耳障りのいいこと『奉納品を』と、そして材料を手に入れ作った。」
そして再度彼は問うてくる。
あなたは何も持っていないのですか? と
私は成人男性それなりの力がある、背もある、財力だってそれなりに有る。
助けを求めるのだって妻のオルファがいる、ネリーもシアーもいる。
『なんでも』とは言わないが『なにか』は出来そうだ。
「ひとつヒントを差し上げましょう。プルト、在りますよね?あれって果物として食べる時、粒の皮って剥いて食べますよね?プルトの果肉って、透き通った緑色して綺麗なんですよねぇ。」
さほど遠くない未来、レイルズの思惑など見事外し、プルトの皮を剥いて乾かし、プルトの絞り汁に漬け込み煮立て『砂糖を使わない甘いジャム』の開発に成功する。
手間は掛かるが、砂糖を使わない分安価に製造でき、専門の部署を作るほどにまでの一大事業にまでなった。
「私は今後、感謝の気持ちを忘れる事はない!」
遠くから「あれ、白ワインは?」と、声が聞こえたとか聞こえないとか。
プルトの果実酒(赤)を掲げ「プルトとレイルズ君に乾杯!」
レコエは幸せそうだ。
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「クソッ、これからって時に。仕込んだ時間が無駄になった。」
※※※※ unknownafter ※※※※
狂信者たちの指導者『傲慢』と呼ばれる男が、闇の中をひたすら走りどこかへと向かっていた。
ガリング商会を内部から操り、徐々にほかの商会まで手を伸ばしていたのだが、気がついたら『人類最強』にやられていた。
もちろん十分に『人類最強』の事は注意して動いていた。
「やつの周りには、匂いすら感じさせない程、間に挟んでおいたのだがな。」
どこで気付かれたんだか…、と思わずボヤく
まさか神であるエクリックスが新商品予定の、まだ味わっていない『マッグル』が気になって下界を直接覗いており、レイルズの祝いの席でのごたごたを目にした。
今か今かと新味『マッグル』を期待していたエクリックスは怒り、神託により一斉検挙となった。
そのような流れなど神ならぬ身には いや、神ですら予測できなかっただろう。
元来神(精霊族)は食事など不要なのだから。
「まぁ、我らに時間の流れなど障害ではない。またじっくりとやるさ。」
言い残すように男の姿は、闇に溶けて消えていった。
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「あぁ~あ、行っちまった、仲良くなりたかったんだけどな~。」
※※※※ 『人類最強』after ※※※※
不満タラタラの顔で呟くのはアルバート・フィギス、戦いに身を置く者達には『人類最強』と、羨望と共に畏怖を集めている人物である。
「教官、子供好きなんスか?あぁ、変な意味じゃないっスよ、先に言いますけど。」
アルバート・フィギス独身、結婚経験なし、年齢70歳くらい。
公式には66歳とされている。
髪の毛は黒で地肌も黒、榛色した瞳を持つ普段は陽気な笑顔を浮かべている中々の美丈夫だ。
背も高く引き締まった肉体が、更に魅力的に見せている。
「教官」と呼ばれているのは、彼が平素は教導隊に属しているのと『人類最強』『英傑』などと呼ばれるのを好まない為だ。
そもそも彼は『人類最強』なので部隊を運用するより、単身突っ込むほうが効率がよく被害も少ない。
彼以外の団員もそれなり以上に精強なのだが、彼にかかれば足手まといの何者でもない。
一番強い彼が、騎士団長でない理由の一つだ。他に彼が長命である事も理由だが。
レイルズの中では、「泣きそうな顔」をしていた、怒らせると暴れるおっかないおじさん、と認識されているが。
「結婚すれば子供できるっスよ?モテモテなんだから誰か選べばいいのに。」
「お前今子供を作ってみろ、子供のほうが先に老いて死んで行くんだぞ?そんなん見たくないわ」
実際彼の兄の子供 甥っ子は、先日彼を置いて天に上ってしまった。
その甥っ子はアルバートに憧れ、神殿騎士にまでなった、本当に子供のように思っていた存在だったのだ。
子供の頃から見知っていた人間、それも血縁者が死んだ事は、彼に浅くない傷を負わせた。
「通達、あっただろ。あいつなら平気だと思ったんだ。」
先日、全神殿に内密ながら通達されたのは新たなる『祝福持ち』の誕生である。
勿論レイルズが生まれたのは4年前だが、神殿が認識したのが今回 という事である。
「でもそれって彼は残されるんでしょう?それは可哀想じゃないっスか?」
鳩が豆鉄砲である。『人類最強』まさかの不意を突かれる。
「それは考えていなかった、大人気ない独りよがりだな。今回縁がなかったのも良かったのかもしれない。」
ようやく不満顔が消え、いつもの笑顔が戻る。
「そもそも一般人として生活したいって言うなら、教官は仲良くしないほうがいいスけどね。『人類最強』と親しい一般人なんていないっスよ?」
彼は無言で部下を殴った、勿論冗談で済む程度で力いっぱいに。
お読み頂き有難うございます。