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パンデミック~美味しいパンでお腹いっぱい~  作者: 礼生 治暁
第一章 マーブル、それは世界の主食
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閑話① ルインズ・シックフィクト

家族に悪態をつくシーンがあります、気にされる方は読まれない事をお勧めします。

「まさかとは思うておったが、本当に『祝福持ち』とはのう。」


儂の名前はルインズ・シックフィクト42歳の隠居爺だ。

5年ほど前までは親から継いだ『シックフィクト商会』の会頭をしていた。

妻に先立たれ、基礎学校からの友人がなんてことのない風邪であっさり亡くなって、「そういう年になったのか」と思い、隠居することにした。

儂自身はまだまだ元気じゃがの。



今回、事の発端は倅のダーナンとその第二夫人でレイルズの母アセリアが、それぞれ事情があり、二番目の子レイルズ・シックフィクトの『祝福の儀』に同行できず、儂が代わりにレイルズと大神殿のある『サワヘ』へ到着した、その翌日から始まった。


 仕方のないことじゃが不憫じゃのう。

両親が同行していないと言うだけで、サワへの支店についても誰も挨拶に来ぬ。

当然とも言える、所詮三男坊じゃからな目の前の商売の方が大事なのじゃろう。

しかし、叔父であるレコエ位顔を出すかと思ったのじゃが・・・。

レコエの妻であり儂の娘でもあるオルファリルは、到着の際出迎えに来て居ったのだからレイルズとも挨拶を済ませている。

見誤ったかもしれないのう、優秀ではあったが踏ん張りが足りん奴だったからな。


「失礼します大旦那様、ユーリ・アンデ他見習いの者がご挨拶、と申しておりますが如何致しましょう。」

ビエンがそんな事を言って来た。ユーリ・・・記憶にないの・・・

「ユーリは私の姪にあたります、アンゼリカの方で御座いますが。」

儂の困惑顔(表情を変えるような愚は犯さぬが)を見て、すかさず説明する。

ビエン ビエン・ロワルは儂が会頭になる前からの側用人だ。流石に20年近く側仕えすると、仕える者の表情くらいは読めるのだろう。

今年で確か38になる彼は髪が短髪で黒、地肌も黒いこともありまだまだ若く見える。

儂が隠居する際、側用人からシックフィクト商会王都本店の外商部に移ることも勧めたのだが、側用人を続けてくれている。


話を聞くと、以前儂が視察に来た際には、行商部の手伝いに出ていて機を逃していたとの事。

更にその前になると見習いに入ったばかりで、当時はまだ会頭であった儂に挨拶など恐れ多かったらしい。レイルズの実兄、ナーセルが『祝福の儀』の時になるのか。


 ユーリ・アンデだが、性根は真面目で実直、ただし融通が利かないとの事。

実直すぎて先日も研修で失敗し、しばらく雑用をしているらしい。

内心首をかしげる、真面目で実直なら商品管理か会計部に回せば問題ないだろうに・・・。


「分かった会おう、果実水でも出してやってくれ。」

ビエンらしくもなく、すぐに返事が来ないので目を向けると

「レイルズぼっちゃまにもご挨拶したいと・・・。」

それは・・・難しい・・・。

「レコエは手が離せぬのか?なにか理由があってなら致し方ないが、そうでないなら目通りは無理だ。」




場所を庭先の東屋に移し、レイルズに今後の予定、『祝福の儀』の日程など話しておく事にした。


「5歳児が『飢え』を語るか。死んでしまいたくなるとも言っておった。

少し大げさじゃがそれはまだいい。十分な食事を取っているにも関わらず、毎朝の様に空腹で目が覚めるなど普通ではない。

第一あの小さな5歳児の体で、成人女性よりも余程食べるのだ。

いや、レイの兄にはもっと食べる奴がいるがあれは別だ、ブクブク太って食い意地が汚いだけだ。そもそもあやつが問題を起こさねばアセリアは兎も角、ダナ(ダーナン愛称)は同行できたはずじゃ。

まぁ、今は置いとこう。空腹になる理由として、思いつくのは激しい運動。

しかし、それはない。5歳児並みの体力しかないのはサワヘに来る際にわかっておる。

そう言えば革袋に枯れ草を沢山詰め込んで尻に敷いていたがあれはなんじゃろう。


いかん思考がまた逸れた、ありえない話じゃが『魔法』・『スキル』が思いつく。

思いつくが可能性としてはかなり低い、1万人に一人いるかいないかという話じゃ。

あの子は平民と平民の間に生まれた子じゃ、可能性は0に等しい

理由は簡単、『魔法』は決まった血筋の者しか使えず、『スキル』は修練の末に手に入る物だからだ。

例外は・・・ある。

歴史上確認されているのは4名、可能性があったものを含めても7名、『祝福持ち』と呼ばれる方達だ。

エクリックス様がこの世界に御出でになられて約400年とされる、その証となる『マーブル』を携え最初の『祝福持ち』が現れた。


 世界は貧していた、世の歴史家が言う


大地は乾き 緑が減り 動物も姿を消し、魔物ですら出没せず 水は無くなり 海でさえ干上がった。世界は滅びようとしていた。


男がマーブルを植えた 男は不思議な力を使い マーブルはすぐに大きくなった 沢山の実をつけて

男が言う これは『マーブル』 神であるエクリックス様の恵みである と


男はマーブルを皆に配り 実がなくなると また不思議な力を使い もう一本のマーブルを生やした エクリックス様の恵みは 有限である しかし、尽きることはない と


男は沢山のマーブルを生やし 旅立つ 他の人がまだ生き残っている所に赴き 同じことをいい 同じことを繰り返した


 いつしか世界に緑が戻り 風と水が現れ 人も 動物も 魔物も 生まれた


およそ100年 マーブルは世界に広がっていた 男は力を使わずとも マーブルを増やし 育てる術を世に広めた


そして世界は蘇り 男は姿を消した




 夢物語のようで本当にあったとされる話だ。神殿はその『ある男』は実在したと断言している。


二人目は西方にある国で、船と漁業・海運、鍛冶・林業・木工・製紙を広めたとされる。

『匠の王』『海王』の名で呼ばれる事もある。


その中で『魔法』を操るものたちは、民を守護し頼られ、数多の勢力が生まれ、後に貴族と呼ばれる階級が出来た。


三人目は大陸中央に現れ、集団及び国の運営・神殿と相談してだが、法を定め・広めたとされる。

二つ名・贈名に『国の父』・『法の王』とある。


そして四人目、『人類最強』・『英傑』である。今現在も生存する為詳細な記録がある。

平民に生まれ神殿騎士となり、神殿の巫女を略奪しようとする愚かな王を倒し、神殿の利権を狙った欲深い愚かな商人を罰した。

他にも物語になっている逸話があるが、それは機会があればにしよう。

平民の生まれながら魔法が使え、幼い頃よりスキルを持っていたのは彼である。


可能性があった人物も『建築王』『緑の賢者』『畜産の母』と、呼ばれる業績を残された方々だ。

やはりそれぞれ魔法やスキルを使っていたらしいが貴族出身であったり、世に認められた時には既にある程度のお年であった事、そしてご本人が黙して、何も語らなかった為定かではない。


そんな歴史に残るような人物達と、自分の孫が同じ存在などとは流石に想像できん。

きっと寝相が悪い為とか、お腹が減るのが人より早い等そんな話であろう。


 そんなことをつらつら考えていたら、ビエンがお茶の用意をして持ってきた。

お茶の他に何やら蓋をしたものがあるようだが・・・。


以下、記憶が飛んでいるので割愛。

レイが「デブヤカッ」と、叫びながら叩かれた処がとても痛い。

結構力持ちじゃのう、真っ赤に腫れておった・・・祖父を虐めるのは良くない。



不思議な食べ物をレイが作った、らしい。ビエンが一緒にいたらしいから本当の事じゃろう。

「マーブルを焼いたら美味しくなると思った」らしい、マーブルは焼くと溶けるのじゃが・・・。

失敗したと思ったら、出来ていた。理解できん。


 理解は出来んが、不思議な食べ物は美味びみだった。

同じような物を拵え、奉納したいというのなら手助けはしよう、だから味見させて欲しい。

ジャムとは違う、ほどけて溶けていく様な、それでいて後に残らない甘味。その後にやって来る果物のジューシーな香りと酸味。レイが「口福」と言っておったが、正に口の中に福きたる。




 支店長であるレコエにレイの注文を伝え、手伝いを兼ね専属側用人に使える者が居たら

と二人頼んでおいた。

しつこく何を手伝うのか聞かれたので「新商品の制作」とだけ伝えた。


どうもレコエも含め店の様子がおかしい、業績が落ちているからだろうか・・・。

ユーリの件も含め違和感が有る、ビエンに探らせるか・・・。

馬鹿な第一夫人と馬鹿なその息子のせいでダナが王都を離れられないのも原因かもしれん。

まったくもって忌々しい馬鹿母子じゃ。


 明けて翌日、レイを連れ店舗にむかう。塀と扉で隔ててはいるが、背中合わせで建っているので直ぐに着く。

レコエに声をかけ、搬入に来ていた昔馴染みと近況などを話し、そのまま近隣の店などに顔を出して戻ると、どうにもまた雰囲気がおかしい。レイを探すが荷物もないことから作業に向かったと判断し、レコエを探す。


レコエはブビーだったか従業員と話していたが、儂に気づくと話を切り上げこちらに来る。

「申し訳ございません、昨日仰られていた様に二人付けたのですが、そのうちのひとりが問題を起こしまして・・・。」


暴言などはどうでもいい、きちんと説明しないで仕事を任せた事と、経緯はどうあれ引き受けたにも関わらず、いざ仕事が始まるに至って文句を言う事に憤懣やるせない。

昨日感じた違和感、昨夜の内にビエンに内偵を頼んだが、もはや確信に変わりつつある。

3時間近く店のあれこれを調べ、関係者を呼び出し商業ギルドに向かいさらに調べ、『ガリング商会』の名前が浮上した。


店に戻りレコエに調べた事を伝え、不甲斐なさを自覚させ最悪、娘を戻すことを伝えた。

娘であるオルファリルは、見た目や雰囲気に騙されるが腐っても儂の娘じゃ。

余計な事をする輩などすぐに排除するだろう「戻す」とは「店」に、だ。

勿論その時レコエは、処分を受けて良くて王都に出向、悪くて会計部で退職までを過ごす事になる。

これはもはや見過ごせん状況にまでなっている。

レイに振り回された昨日が、平和に思えてきた。

レコエをその場に残し、執務室から契約用紙を取り出す。

この契約用紙とは神殿で販売されている物の一つで、魔法と同じ様な不思議な力を持っている。

まず不条理な契約は結べない、書き込むと文字が消えるのだ何度やろうとも。

そして契約に反した場合、契約にない事象で無理に解約しようとすると、体の部分麻痺や感覚、視覚・聴覚・味覚のいずれか封じられる、もちろんその状況では、異なる契約は結べない。

すぐその場で死ぬ事はないが、普通の生活は難しくなるので誰もが素直に契約内容に従う。神を侮らぬのであれば、だがな。 


賃金・待遇等書き込み、レコエに確認させた後サインさせる、隠居だからの。

何も言うこと無く、レイの居るであろう厨へと向かう。無事契約できるとは、全然思っておらぬがな。祈ってはおるよ、本当に


 まぁ、予想通りじゃが・・・、店ではユーリがキリマを熨したと聞いた・・・はずじゃ。

最近の若者は堪え性がないのか短気を起こして激昂し、レイルズに掴み掛りおった。

儂も若い頃には色々あったので、それなりに経験したのじゃが、まさか「幼児」に「祖父の前」で襲いかかる「自分の店の従業員」・・・予想範囲外。言い訳にしかならぬな、反応出来んかった。

今思い出しても背筋が凍る、それなのに只の子供で在るはずのレイが、棒を掴んだと思えば鋭い突きを放ち、肘と手首を回しただけでキリマの顎を跳ね上げた。

槍術のようで槍術ではない、元商人の隠居にはわからない術じゃった。

・・・儂の孫、強くね?


 キリマをレコエが連れて行き、ユーリの契約を交わして・・・?

以降記憶が飛ぶ、気が付くと儂は、レイの言葉に心抉られ地面に膝をつき、頭を抱えていた。

隣にいたユーリも同じ体勢じゃった、儂だけじゃないことに何故かほっとした。


あの甘味は「危険」だ。記憶が飛んで、大概レイルズに何かしらやられている気がする。

太ももが腫れる程叩かれたり(自室でポーション使って直した)、心・・・良心?を抉られたり・・・、老人虐待ダメだと思うよ?

自業自得だ、と儂の声で誰かが言っているけど、沽券に関わるので知らん、聞こえん。


 その夜、儂はレイが何をしているかは分かるが、どうやっているか解らないモノを見た。スキルなのか魔法なのか分からない、スキルなら「トリガー」と呼ばれる「ワード」を唱えるし、魔法なら呪文を詠唱するはずじゃがしておらんかった、故に理解ができん。

それ以外の事は、語る必要はない





孫に泣かされたなど誰が言うか・・・。




 そして明かされる真実、神の御許みもとに行き戻ってきた、『祝福持ち』のあの子は「ただいま~、流石に疲れた」といつもと変わらぬ様子じゃった。

その時儂には解った、『祝福持ち』であっても疲れるのだ、普通なのだ、子供なのだ。


朝起きたらお腹が空いたと、マーブルを食べ疲れたと言って昼寝をする。普通の子供だ

ただ不思議な食べ物を作って、棒を振り回して成人男性を熨す・・・あれ?普通じゃないかも・・・いやいや、ちょっと変わっているけど普通の子供じゃ 多分。

朝起き、食事し遊び・学ぶ 疲れたら昼寝 お腹がすけばおやつを食べ、のどが渇けば水を飲む そして・・・夜は眠る。

儂らと何も変わらぬ、少なくとも『レイルズ・シックフィクト』は『祝福持ち』でも変わらないのだ、よくよく考えればおむつだって、替えたこと有るのじゃ。


マーブルを食べ、夜は眠り、頑張れば疲れる人間なのだ

体もまだ小さく、疲れたと昼寝を良くする 子供なのだ 


そして 儂が居て うれしい ありがとう と言ってくれる儂の孫なのだ


だから少なくとも儂は、祖父としてレイに接しよう。



コローナ、儂らの孫、『祝福持ち』だったよ。

お前は顔を見る事は出来なかったけど儂らの可愛い孫じゃ。

時々祖父虐めるがな、不思議な食べ物も作るな 時々難しいことも言うし 解らない事も言う「デブヤカッ」って、呪文かトリガーワードかのう?

お前が居てくれたら、もっと楽しいのじゃろうな

まぁ、空の上で待ってくれ、土産話沢山用意していくからな。


お読み頂き有難うございます。

あと2話、閑話予定です。


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