一ノ話
僕は、ギャルゲーに転生した。
ああ待ってそこの人達石を投げないで!
なにも、僕はヒーローに転生したって訳じゃあ無い。
はたまた親友でも、脇役Aって訳でも無い。
ライバルでも…いや、これが一番近い。
僕はヒロインの婚約者。
NTR。ネトラレ。そんな奴。
なんでだよぉ!
僕、自慢じゃ無いけど悪いコトは人並みにしかしてないと思う。
全くしていなかったなんて言えない。人間、誰でもそんなものだ…多分。
善良とは言えなくとも普通な市民の僕。
どうしてこうなった?
いや、いい意味で考えよう。
無意識に傍若無人の限りをつくす、何てコトは無い訳だ。
前世の僕も僕、今世の僕も僕だ。
僕がやったコトは、僕が責任を取らなければいけない。いや、取るべきだ。
相手が悪いと思う時はそんな事しないけどね。
では、この世界の説明をしていこう。
まず、地球ではない。
髪の色が遺伝子を無視している事から、地球だったら僕が泣く。
え、泣かれてもいい?
…酷い。
それはさておき、この世界…と言うか星はトルネチアと言う。
そんで、僕が生まれた国で、ゲーム開始地点であるこの国は倭ノ國。
星の名前はカタカナなのにね。
あと他にも秦ノ國、洋ノ國、激ノ國、魔ノ國、天ノ國がある。
六国に分かれていて、言語は三つだ。
倭ノ國が倭用語、秦ノ國が秦用語、洋ノ國、激ノ國は英用語、魔ノ國、天ノ國がなんでもOK。
ただし、天ノ國には天ノ國の住民にしかわからない言葉があるらしいから、全部で四つか。
因みに、天ノ國には天使とか神様とかがいる。
そして、ココ大事。
剣と魔法の世界だ。
剣と魔法の世界だ。
剣と魔法の世界だ。
いや、さっきの人達また石を投げてこないでぇ!
うざい?大事なことだから三回言ったのよぉ!
剣と魔法の世界。それはつまり、魔物がいる。
話は変わるが、ゲームでの僕…桜木 咲夜は、ヒロインを虐めていた。
しかも四人。
このゲームには、合計二十人の攻略対象がいる。
その中の四人。
五人に一人は虐めてるよね!?
虐めている相手は、婚約者、使用人、クラスメイト、そして妹。
一人ずつ説明していこう。あ、ついでにゲームでの僕も。
婚約者…西之宮 恵子。十月三日生まれ。
三歳の時に僕の婚約者となり、それから虐められる。
虐めは十二歳まで続く。
薄茶色の目に、栗色のショート。
僕より一つ年下で、弱気。剣士。
この子のルートに進むと、僕がトラウマとして出てくる。
使用人…轟 茅。三月四日生まれ。
侍女見習いで僕の家に来た時、僕にいじめられる。
1ヶ月で疲れて他の家に移る。
青色の目に、濃い青色のロングのポニテ。
僕より二つ年上で、現実主義者(?)。暗殺者。
特に僕が出て来ることはないが、過去として話すシーンがある。
クラスメイト…中川 愛佳七月二十八日生まれ。
小一の時から僕に虐められる
小二でいじめが終わる。
黄色の目にオレンジのミディアム。
僕と同い年。明るい。火の魔法使い。
僕はイベントで一回出て来る。
妹…桜木 美花。四月七日生まれ。
二歳の時から虐められる。
八歳のときに虐めが終わる。
桃色の目に桃色のロングのツインテ。
僕より三歳年下。天然。回復の聖女。
僕がトラウマ兼ライバル(?)。
僕…桜木 咲夜。二月十二日生まれ。
いじめっ子。
十三歳で絶縁される。
目の色不明。髪の色は灰色。
ヒーローと同い年。
妹のルートだけ実際に出てくる。
と、こういう感じだ。
この設定は、誰のルートを選ぶかで微妙に違う。
僕がいじめた理由をドーン。
婚約者…腹が立ったから
使用人・クラスメイト…何となく
妹…好きだから
可笑しいだろう。
妹が好きだからいじめる。
ああ、好きっていうのはただし性的な意味で、という。
好きだからいじめるって小学生男子でも今頃そんなことしないぞ!?
妹が性的な意味で好きって明らかに可笑しいぞ!?
他の三人ならまだしも、妹。
なんでだよ…
このゲームは、ヒーローが勇者だ。
攻略対象は、倭ノ國に六人、秦ノ國に二人、洋ノ國に三人、激ノ國に三人、魔の國に四人、天の國に二人。
その中で、ヒロインを攻略すると、一部を除いて仲間としてついてきてもらえる。
まあ、みんながみんな強いわけでは無いので、ついてくるかは選べる。
あ、でもヤンデレ枠の子ははいorYESになってたような…
一部を除いてと言うのは、魔ノ國の事だ。
ここの四人とは、四天王。
ヒーローのことが好きになったが、主人に刃は向けられない〜と言うのが二人、まぁいいじゃないと言うのが二人。
魔王を倒した後の冒険には付いて来てくれる。
ゲーム開始は、14歳。
ヒロインを攻略していってもいいし、ステータスを上げても良いし、何もしなくても良い。
16歳で、勇者になる。これは決定事項だ。
ステータスは、普通のRPGのようなものに加え、言語がある。
ココを鍛えないと、他の國に行っても言葉が分からない。まあ当然だね。
ちなみにステータスを上げまくってヒロインを攻略しなくても魔王は倒せるらしい。
ところでみんな、僕のことで気になっていることがないか?
そう!僕の年齢!
え、気になって無かった?
まあ良いじゃない。
てか僕も知らない。
生まれた時に記憶が戻ったわけでもなく、オギャーオギャーと泣いていたら母親 (仮)が来て、その顔を見て思い出したのだ。
母親 (仮)は、妹のルートに出てきた。
では、妹の話をしていこう。
小さい時から兄と母に虐められる。
七歳のとき聖女の力があると分かり、母親は虐めをやめる。
僕からの虐めは続くが、すぐに母が兄を絶縁。
だが兄は偶に現れ、蛇をしかけたり物を盗んだりしてくる。
それも一年経ったある日、ぱったりと止む。
兄は死んだと思っていると、今度はストーカーが現れる。
そのストーカーは、実は兄だった
ヒーローが兄を撃退し、妹はヒーローに惚れる。母親は病死。
ちゃんちゃん。
そんな感じだったはずだ。
いや、兄さん酷いね。
僕なんだけど。
そんな僕の前世は、僕の中の人。
つまり声優。
うん、声は付いてたんだ、僕。
基本呪詛みたいなことしか言わなかった気はするけど。
いやー、このゲームに声吹き込んで、ゲーム発売前にやって、ゲーム発売日の次の日に家に帰って評判でも見ようかと思ってたら死んだ。
風の強い日でねぇ、上からなんか飛んできたみたいなんだよ。
頭にクリティカルヒットしてからの記憶がない。
せめて、何が降ってきたのかを知りたかったな…
ま、僕の前世はどうでも良いんだ。
恋人もいない、友達もいない、未練もそんなにない。
これが初めての大きな仕事で、今まで自分の評判をみようとしたことも無かった。
評判を見ようとしてる最中に死んだ。
いやぁ、評判を見なかったら死んで無かったりして。
このキャラ、なんか親近感湧いて好きだったんだ。
あ、別に僕はいじめっ子じゃないよ。むしろ虐められてたよ。
僕は今オギャーオギャー。赤ちゃん。ほんのちょっと喋れるくらいの赤ちゃん。
僕が初めて虐めをするのは完全に喋れて二足歩行も出来ていた頃。
僕は二足歩行できない。
つまりまだ誰も虐めていない。
母親がまたやってきた。
そして僕にミルク(哺乳瓶だよ)を飲ませてくれる。
そして僕の背中を殴った。ナグッタ?
僕はミルクを戻して、泣いてしまう。
母は舌打ちし、大声で侍女を呼んだ。
僕の吐瀉物を拭けと命じ、僕の口にミルク瓶を突っ込む。
口の中が気持ち悪いが、飲む。勝手に喉が。
そしてまた殴る。さっきよりも強く。
また僕は吐いてしまう。侍女の頭にかかった。母は侍女の方を見ない。
僕が侍女の方を見ると、母と僕を睨みつけていた。
ごめんなさい。
でもなんで僕まで睨むの?
僕は殴られたから吐いてしまった。当然の結果じゃないの?
ミルクはもう飲まされなかった。
僕のオムツは、ハイテクらしい。
いくら漏らしても、何かが変わった感じはしない。
代わりに、ベットの隣に置いてある机の上の植木鉢に、肥料が足される。
オムツが肥料に変換して、それを転移させているのだろうか。
すごい機能だ。お尻が汚れることもない。
そして、その植木鉢に生えている木に、実がなる。
何の実だろうか。ココナツの小さいばんみたいな姿をしている。
僕は寝っ転がっているのでとどかないが、立てばとどくだろう。
まぁどうでも良いんだ。寝よう。
腹への衝撃で眼が覚める。
僕が吐瀉物をかけてしまった侍女だ。
僕を殴ってくる。
何回も、何回も。
僕に吐くものは無く、胃液が出てくる。
喉は気持ち悪いし、口の中は苦い。
何より痛い。
ごめんなさい。
吐いちゃってごめんなさい。
ごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
しばらく殴ると、ココナツのような実を採って、持っていく。
「普通の子なら防御してくるのに、防御してこないのね。魔無しかしら?
本格的にハズレの子ね。
うふふ、奥様に伝えましょう。」
侍女は、楽しそうに出て行った。
赤ん坊が聞いているとは思ってもいないのだろう。
魔なし。
生まれ持っての魔力が無い人のことだ。
魔力とは、魔法を使うのに必要なエネルギー。
ほとんどの人が持っている。
僕が魔無しなのだろうか。
魔力は、体の中にも、外にもある。
僕は、初級の魔法を試してみることにした。
ウォーターボールだ。
成功すれば喉が気持ち悪いのがましになるし、簡単。
声が出せないから、喋れない。
簡単な魔法ならできるのではと思ったのだ。
ウォーターボールを想像する。水の球だ。
発動しろ!
すると、僕の目の前に水の球が現れた。小さいが、少なくとも魔無しでは無い。
後は、鍛えるだけだ。
ゲームの開発者さんに聞いた、魔法系の力を全て上げられる…要はチートだ…練習方をする。
窓の外に、小鳥が現れるという想像をする。
発動しろ。
小鳥が現れた。だが、ピクリとも動かない。
当たり前だ。新たに物を作り出す魔法なのだから。
次は、酸素を作り出す。
部屋に、酸素が現れるという想像をする。
発動しろ。
ちゃんと出来ているかわからない。だが、気づかれないでできるのはこれくらいだ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
・・・
・・
・
僕は、気絶した。
眼がさめると、部屋が変わっていて、侍女と母がいた。
「奥様、こいつは魔無しでございます。
如何致しましょう?」
「本当?なら、要らないわ。
殺そうかしら。」
「奥様、それは妙案でございます。
ですが、放っておけば良いのでは無いでしょうか。
こいつがいつ死のうが構いませんよね?
なら放っておいてのたれ死んだ方が、奥様の手もかからず良いと思いますよ。
旦那様には、流産だったと伝えましょう。
旦那様は、ここ一年ほど帰ってきていませんから、気がつかないですよね。」
「それは良いわね。
殺すのも、面倒だもの。
離れにでも置いてちょうだい。
死んでも気がつかないけど、離れに行くことなんて無いものね。」
僕は、離れに行くらしい。
会話の間は部屋の外に酸素を出し続ける。
そして、倒れた。
また眼がさめると、部屋に一人だった。
ここが離れだろうか。
今度は、酸素と窒素を同時に出し続ける。
発動しろ。
発動しろ。
発動しろ。
暫く続けると、倒れた。
眼がさめる。
侍女がいた。
また僕を殴る。
僕は酸素を出し続ける。
そんな日々が続いた。
一週間かもしれないし、一カ月かもしれないし、半年かもしれないし、一年かもしれない。
ご飯は、あの植木鉢に生えている木の実だ。
喉も潤い、胃も満たされるが、味はとことんまずい。
服も、ハイテクだった。
僕の体に合わせて大きさが変わる。
それに、汚しても綺麗になるのだ。
また今日も侍女が来た。
殴ってきた。
僕は酸素を作り出す。
暫く続け、こういった。
「恨むなら、自分の母親を恨みなさい。」
部屋を出て行った。
恨む?
母親を?
そうか、恨んで良いんだ。
恨むことは別段変わったことでも無い。
恨んでいるよ。
母も、貴女も。
その日から、侍女は来なくなった。
次の日、僕は魔石を作り始めた。
五センチくらいの石を作って、それに魔力を満タンまで込める。
その後、土の中に埋める。
気絶するまで繰り返し、たまに食事をとる。
一日中込めても大丈夫になったら、一気に五つの石に魔力を込める。
それが平気になったら、五倍に増やす。
それを繰り返していた。
いつしか、何個でもできるようになり、石を大きくして、また何個でもできるようになり、石を大きくした。
それの繰り返し。
春。いつかの侍女がやってきた。
僕の顔を見ると驚いて、
「あんた、まだ生きてたのね。
妹が生まれたのよ、今日ね。
こっちは旦那様が見ていたから、きちんと育てることになったのよ。
殴ったりはするけどね。
あんたも、旦那様が見ていたらこうはならなかったのかもね。」
「私がなに言ってるか分かる?
わからないでしょ。
無知って怖いわね。」
そうまくしたてると、出て行った。
ガシャンと、何かが壊れるような音がした。
金属製の扉が、グニャリと歪んでいる。
出られなくしたんだな。
別に良いけど。
妹が生まれたということは、今僕は二歳か。
そして四月七日。
カレンダーを作る。
今日の日付をセットすると、そこが光る。
「」
声が出ない。暫く練習を続ける。
「あいう、えお。」
やっと声が出た。
吃音かとも思ったが、繰り返すとスラスラと声が出るようになった。
設定がなかったせいか、僕の子供の頃の声のままだ。
立ち上がろうとして、転ぶ。
筋肉が無いからだ。
明日からは、魔石を作りながら歩く練習もしよう。
次の日、筋肉痛になった。
だが、練習を続ける。
二週間で、歩けるようになった。
二年半近く過ごしたと思われるベットから降りる。
きちんと歩けるし、しゃべれる。
僕は、唐突にペットが欲しくなった。
蛇を二匹作り出す。
横幅二センチもないくらいの蛇が現れた。
片方は真っ白の体に黒い目、もう片方は真っ白い体に赤い目だ。
僕に巻きついてくる。
「目が黒い方の子はジャック、赤い方はクイーン。
君たちの名前だよ。」
僕の頬を舐める。嬉しいのか、嫌なのか、よくわからない。
「ジャック、クイーン、君達は魔物を倒しに行ってきて。
強くなって帰ってきてね。」
ジャックとクイーンは、ピンと伸びて、次の瞬間には転移をして何処かへ消えていた。
僕の部屋には、ベビーベットと植物しかない。
ちなみに、一応窓は付いている。
この部屋を改造する。
ベビーベットは、柵の高さを低く。
植物は、味を良く。
タンスを新しく作り出し、その上に大きなぬいぐるみを置く。
タンスにはなにも入っていないが、これから入れていく。
ぬいぐるみは、目のガラス部分に、魔力をたっぷりと込めた。
これで完成だ。
部屋の隅の壁にもたれると、ガコン、と音がして、床が動き階段が出てきた。
古く、石でできた階段。
僕は、靴を作り出し、それを履いて降りて行った。