地界の試練2
「ふぁあ。。良く寝たぁ!」
カーナ達はリュックの中でゆっくり一晩を過ごし第2試練の作戦を練っていた。
魔力の回復に備え木の実を量産し、レッドクラウンで読み漁った本の知識を引き出し最善の作を練るカーナの姿はキモラ達にとっても普通の女の子の姿では無かった。
「さぁ!いこう♪」
リュックの中に保存されている食料で朝食を摂るとカーナは足早にリュックから飛び出した。
キモラとケルベロスが見守る中、カーナの作戦は始まる。
「行きます♪」
カーナはニコリと微笑むと木の実を食べながら一気に1000人位に増える。
1000人のカーナは掌に火球を浮かばせ辺りを照らすと本体は全員と意識を切り離す。
「じゃあ、みんな宜しくね♪」
1000人のカーナ達は笑顔で頷くと腕輪を輝かせながら進みだす。
「ちょpjwtj!なに!?この音!」
「え?キモラさんこの音聞こえるの??」
キモラに聞こえる音の正体こそ、カーナの思い付いた作戦だった。
馬神の力でコウモリの様に超音波を出し、道の形状やトラップの有無を確認しながら次々に正しい進路を割り出して行くカーナ。
分身が馬神の力で声を飛ばし、それを地図の様に紙に書き込んで行く。
3時間ほど作業は続き、遂に分身から階段を見つけた報告を受けるとカーナは嬉しそうに笑って立ち上がるのだった。
「よし!攻略完了♪」
カーナは分身を消すと地図を片手に歩き出す。
一部始終を見ていたキモラは感心して後ろからついて行く。
実はキモラやケルベロスはこの塔の試練を知っている。通常ならばコップの試練ならば異常な魔力の保有者でなければクリアできない。
そしてこの試練もモンスターこそ出現しないものの通常ならば蟻の巣の様に張り巡らせられた迷宮を瞬時に攻略出来る者などいないだろう。
それを裏付けるかのように、カーナ達の進む迷宮には挑戦したであろう地界の住人の骸がポツリポツリと転がっていた。
「着いたぁ♪」
まるで通り慣れた道を歩くかのように次の階段の前に着いたカーナにキモラは声をかける。
「本当は助けたらいけないんだけどね☆あたいもカーナに興味が湧いてきたから教えるわ☆次の階段を上るとあるのは密林の間なの。まっすぐ密林を越えれば階段があるんだけど、、密林に生息してるのは地界の凶悪な植物よ。次は少しの油断が命取りになるわ!気をつけるのよ!」
階段を進みながらキモラの助言に相づちをうつカーナだったが、次の階の入り口の前で立ち止まる。
「タスクだって頑張ってる。私はここで死ぬような弱い女じゃない!!」
そう叫ぶと勢いよく次の階の入り口を開けた。
「ギギギギギギギギギギギギ!!!!!!」
バタン。
「なに、凄いのいましたけど。。」
扉の向こう側の巨大なハエトリグサのような植物達に驚愕したカーナは一旦扉を閉める。
扉に反応しているのか、部屋の中からアナウンスが聞こえる。
「3階は【密林の間】植物達を掻い潜り突破せよ」
「ふぅー、、、よし!」
覚悟を決めたカーナの二つの腕輪が光だすと1000
人のカーナは詠唱を唱え始める。
「バタン!」
「舞え。」
扉を開いた瞬時に1000人のカーナの火球が舞う!
中級魔法とはいえその数に凶悪な植物達は焼き尽くされていく。
「すごい・・・・・。」
キモラが驚くのも無理はない、1000人のカーナ達が放つ火球の舞いは圧巻だった。
一瞬で辺りは炎に包まれていく。
しかし、上手くはいかなかった。
脅威的な再生能力でハエトリグサは再生を始めるとカーナの目の前の焼け野原はみるみる密林に戻っていく。
「ギギギギギギギギギギギギ」
「うーん。奥の手だったけど、、使ってみよ♪」
再び襲い掛かる植物達を前にカーナは冷静な表情でポツリと呟くと1000人のカーナ達は一斉に木の実を口に運ぶ。
腕輪が白く光出しまるで詠唱が山彦の様に響き渡る
「な、、なんなのこの数。。。。。。。」
驚愕するキモラの前に1000のカーナに対して約一万の火球が宙を舞う。
「ドドドドドドドドドドド」
その数は一万どころではない。カーナは木の実で魔力を回復させながら馬神の力で詠唱を山彦のように重複させタイムラグ無しで火球を量産していたからだ。
火球の雨は降り止むこともなく辺りを炎に包む。
その真ん中をカーナ本体はゆっくりと進んで行く。
キモラとケルベロスは純白のローブを纏った軍勢に恐怖すら感じながらカーナの後ろを進んだ。
一時間ほど火球の雨が降り注ぐ道を歩くと、次の階段が目の前に現れた。
顔を引き吊らせるキモラ達と共にカーナは階段を進むのだった。
「あんた、やっぱり普通じゃないわね。。」
キモラと雑談をしながらしばらく階段を進むと4階の入口の扉が姿を現した。
ただ4階の扉の前には広い空間が広がっており、扉も装飾された他とは違う造りになっていた。
進もうとするカーナの肩にキモラは手をかける。
「カーナ、ここが最後の階よ。この先にはね。。地界のNo.2がいるの。あたいもどんな試練になるのか分からないわ。引き返してもいいのよ??」
しかし、カーナはリュックを指差して「今日はここでパーティーしよっか♪」と笑顔で言うのだった。
試練の事も忘れ、カーナはキモラと色んな事を話して笑った。カーナに情が移ったキモラは何度も引き返す事を勧めた。でも、カーナの強い意思は曲がらなかった。
いつの間にか眠っていたカーナ達は雑談しながら朝食を摂ると決意を新たに扉の前に立った。
「さぁ、いこう♪」
装飾された綺麗な扉をカーナはゆっくりと開く。
そこには真っ白な床しかない不思議な空間が広がっており奥の方には大きな椅子の上に存在する異形の老婆のような何かがこちらを見つめていた。
「・・・・・・・・。」
その姿にキモラとケルベロスはひれ伏し、カーナは息を飲む。
「・・・よくきたねぇ、、わたしゃずっと見てたよ。あんたの姿をねぇ。。」
ガサガサガサガサ
「!!!!!!!!!!」
カーナは恐怖で声も出なかった。
巨大な老婆の顔から蜘蛛の足が生えた異形の存在は地を這うように素早くカーナに近づくと毛だらけの蜘蛛の足でカーナの頬を撫でた。
巨大な老婆の顔はカーナの顔を覗き込むように見つめると耳元でゆっくりと囁いた。
「あのじいさんがいなけりゃ、久しぶりの人間をぐちゃぐちゃにしたい所だけどねぇ。。。だが、あんたがもしもここに来たら鍛えてやれと命令されたからねぇ。。。ただ、あたしゃそんなに気が長い方じゃなくてねぇ。。約束の2年の間にあんたが心に隙間を見せたら。。。。」
「ぐちゃぐちゃにするよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
カーナは体をガタガタと震わせながら、それでも涙は見せなかった。
強い眼差しでただ真っ直ぐ老婆を見つめた。
「・・・ほぅ。。あたしゃバウル。師匠と呼びな」
バウルは一言呟くとニタリと笑いカーナから離れ、異常な魔力を身体から発しながら呟いた。
「残りの時間、あたしから目を離すんじゃないよぉ」
「・・・・・・はい!!!!!!」
カーナは大きく深呼吸をして真っ直ぐにバウルを見て叫んだ。
・・・・・・・・・・・・・
その日からバウルとの日々は続いた。
魔法の知識や魔力の使い方を学び。
時には補食されそうになり逃げ惑い。
時には1ヶ月眠らずに瞑想し。
時にはケンカもした。
辛く挫けそうになるたびにタスクを思いだし、涙が溢れそうになるたびに笑顔を作った。
そんな日々にも遂に終わりが訪れる。
「カーナ。。あんた、よくやったねぇ。。。これはあたしらからのプレゼントだよぉ。。」
バウルがそっとカーナに魔力を向けるとカーナの左手の小指に純白の指輪が現れる。
「あんたは魔力の保有量が少ないからねぇ、、その指輪は魔力を溜めることが出来る指輪だよぉ。」
「師匠、今まで、、ありがとうごさいました。。」
カーナは深々と頭を下げるとニコリと笑顔を見せる
バウルもニタリと笑うと空間に丸い穴を出現させたるのだった。
「ここが出口だよぉ。、あと、これを、。」
バウルがそっとカーナの胸元に触れると左の胸元に小さな白い蜘蛛のマークが現れる。
「もしも、、おまえが本当に困ったときはあたしを呼ぶんだよぉ。。」
「本当に、最後までありがとうごさいました!!」
カーナは少し涙ぐむと笑顔でまたバウルに頭を下げ、キモラとケルベロスと共に穴から出て行くのだった。
・・・・・・・・・・・・
「ここは。。。。。」
穴から出てきたカーナ達は初めに来た3つだけの扉しかない草原にいた。
これでやっと。。。。
カーナが心の中で呼び続けた彼は、カーナが草原に来てからしばらくしても現れなかった。
草原にはただただ静かに風が吹き、カーナはケルベロスの頭を撫でながらじっと彼が来るのを待っていた。
一時間が過ぎ。
二時間が過ぎた。
「・・・・・タスク。。」
「ギィィィィィ」
カーナが名前を呼んだその時だった。
草原の中央の扉がゆっくりと開く。
そこには、どこか前より落ち着いた全てを見据えているような、それでいて何も見ていないような深い眼差しのタスクが立っていた。
カーナはゆっくり立ち上がると今まで流さなかった涙を全部流しながら駆け寄ってタスクに抱きついた。
タスクもカーナをぎゅっと抱きしめ「ただいま」と笑った。
しばらくしてキモラは二人に近寄ると何かを悟ったように話しだす。
「どうやら、、あなたはその存在になったみたいね。。それでこれからどう致しましょう。鹿神様。」
「・・・・・・鹿神?」
カーナは不思議な表情でタスクを見つめる。
タスクはゆっくりと地界の試練で分かったこと。
じいさんは二代目の鹿神だったこと。
その力を全て受け継いだ事を話した。
タスクはキモラを見つめると深々と頭を下げた。
「ここに来て世界を変える力と何か大事な物がわかったよ。俺達は地上に帰る。今までカーナを守ってくれてありがとう。」
「・・・・・わかりました。。」
キモラは寂しそうな表情を見せると草原に穴を出現させた。
カーナはキモラをぎゅっと抱きしめて別れを告げ、ケルベロスは寂しそうな声で鳴いた。
「いってくる!!!!!」
長い二年の修行を終え、二人はまた冒険にもどる。