ロネット村
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どれくらい時間がたったのだろうか。。
目を覚ますとやはり漆黒の地面の部屋にいた。
ただひとつ変わっていたことは目の前にじいちゃんは存在せず、じいちゃんの来ていた服だけが漆黒の地面に無造作に散らばっていた。
「・・・・じいちゃん。。」
俺はすぐに理解した、、じいちゃんはもういないんだと。、顔をぐしゃぐしゃにして唇を噛みしめた。
グッと堪えているのにも関わらず、勝手に涙がポロポロ落ちる。
そして声を出して泣いていた。
「うわぁぁぁぁあ・・・、じ、じぃちゃ!じぃちゃん!!!!!!」
「なんや。タスク」
「ん!!!!!!!?」
どこかでじいちゃんの声が聞こえた。気のせいじゃない。
「目を閉じろタスク。」
そっと目を閉じるタスク。。
そこには確かにじいちゃんがいた。
全裸のじいちゃんが。
「・・・・・・何で服着てないんだよ。」
「いや、だってタスクの目の前に服は落ちとるわけで、わしの身体はもうないからな」
「そんな忠実に服は連れていけないとかある!?ないよね?!ただの変態だよ?!」
よく分からないファンタジー的な展開に俺は戸惑っていた。とにかく、じいちゃんは存在するらしい。
そしてじいちゃんは裸のまま真剣な目で俺に言った。
「どうやらちゃんと力は引き継いだらしいな。この場所はな、昔仲よくなった羊神の後継者に作ってもらった修行場でな。食べるものだってあるし骨のある修行相手だっておる。今日から5年間はここで修行だ。わかったなタスク」
いきなり修行って言われても、と思いながらゆっくり目を開く。遠くに沢山の山がそして海があるようだ。異空間なのが信じられん。
「・・・・・・。ねぇ?じいちゃん?あの山動いてない??」
「そりゃ動くさ。恐竜だからな。」
じいちゃんは普通に答える。
「いままでありがとう。帰ります。」
別れの挨拶をすませた俺をじいちゃんは呼び止める
「まて、大丈夫だって!ワシもいるから!心のなかで応援するから!ね?!」
「裸のじいさんと竜倒す孫なんか世界中さがしてもいねぇよ」
帰ろうとする俺にじいちゃんは言った。
「強大な敵を前にしっぽを巻いて逃げるようじゃ、大切な人1人守れんな。」
全裸のくせにドヤ顔だ。
「・・・・やってやるよ。糞ジジイ。」
じいちゃんは笑顔で答える。
「わしは世界最強の体術師だ」
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5年後
すがーーーーーん!!!!!ズゴゴゴゴゴゴ!!!!!
「タスク。。お前やっぱりおかしいわい。」
じいちゃんはタスクに呟く
現在タスクは音速を越える速度で投げた岩に飛び乗り、この空間の入口に移動していた。直径30メートルほどの岩は道を遮る山に穴を空け、ビル程の大きさの恐竜を吹き飛ばし、それでも速度を落とすことなく飛び続ける。
「じいちゃん。修行は終了だ!ロネットに帰るぞ!」
そう。ここから始まったんだと
この空間の入口。漆黒の扉に手をかける。
「ガチャン」
差し込む日差し、季節はおそらく春だろうか。
花や若草の懐かしい匂いがする。
久しぶりに見たロネット村の丘のからの景色、小さな我が家に嬉しさと懐かしさが込み上げる。
「ん?」
家と小屋の間の一番小高い場所に小さな石が積んであり、小さな花をもった人の後ろ姿があった。
海のような深い青の背中まで伸びた綺麗な髪。
透き通るような白い肌。
か細い身体に真っ白のワンピースを着たその子は、少し近づくとゆっくりとタスクの方を向く。
少し垂れ目の吸い込まれそうな漆黒の大きな瞳に今にもこぼれ落ちそうなほど溜めた涙が、タスクと目が合った瞬間にポロポロと溢れた。
「・・・・・カーナ、ただいま!」
カーナは持っていた小さな花を落とすと泣きながら力一杯タスクに抱きつく。
「いぎででよがっだ、、、」
可愛い顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってそれでも笑顔で抱きついてくるカーナの頭をくしゃくしゃっと撫でると
「ただいま、」
と小さく。ゆっくりタスクは言った。
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まるで5年の空白を埋めるかのようにカーナは喋り続けた。
タスクはうんうんと話を聞き。自分は修行をしていたとだけ伝えた。カーナの話によればここ数年の間に強力な力をもった転生者の数が増えたのだが、力に溺れた転生者たちが増え、女を奴隷にしたり虐殺をくりかえすなど胸糞の悪い事件が増えているらしい。何せ馬鹿な王たちの制度のせいで25歳以上の男たちは村や町に存在しない。
カーナも自分や村を守るために少しの魔法を覚えたと言った。
真剣に話すカーナに自分もカーナには本当のことを話そうと口を開いた瞬間だった。
「キャァアアアアアア!!!!!!」
「逃げてぇ!!!!!!!!」
村から聞こえる悲鳴。
慌てて外に飛び出すと丘の上から見える町の中央には大勢の武器を持った奴らがいた。
ただ、気持ち悪いことに武器をもった奴らはみんな同じ顔だった。
泣き叫ぶ子供。連れ去られる女。倒れて動かない人。
それを見たカーナは家に向かって走り出した。
タスクの中のまるで凪の海のような精神が津波のように動きだす。
次の瞬間、タスクは村の中央に立っていた。音を越える速度で走ったのだ。
町の中央に突如表れた男に同じ顔の男達は一斉にそちらを向き警戒する。
深く深呼吸をしたタスクは男達を睨み付けて言った。
「・・・・生きて帰れると思うなよ。」
タスクは静かに掌を合わせる。
「ぎゃはははははははははは!」「腹いてぇ!人数数えらんねぇの?1000人だよ?ばか?ねぇばか?」「それなに?死ぬ前に祈ってんの??お前が死ぬのに!?」jtngtmbug!!!!!!!!!!!
次々と罵声を浴びせる同じ顔の男達。
次の瞬間
「ビュッ!!!!!!」
見えない風のようなスピードでタスクは動く。右手を仰ぐとハリケーンのような風を巻き起こし20人近くが見えなくなるまで上空に吹き飛ばされ、村人に被害がでないように同じ顔の奴らだけの身体を掴み音速で上空に投げ飛ばす。瞬きよりも速く同じ顔の男達は消えた。
「・・・・・あと100」
消えた仲間。目の前から動いてないように見えるタスクに以上な恐怖を感じ取った同じ顔の男達は咄嗟に叫ぶ
「お、おおおおお俺は神にえええええええ選ばれた転生者なんだぞ!!!!しかもねねねねねね鼠神の後継者だ!!!!お!おおおおおお前みたいなカスが何したって勝てねぇんだよ!!!!!!」
タスクは黙ったまま下を向き掌を合わせる。
「シネェェェェェェェェェェェえええ!!!!!」
チャンスとばかりに100人の男達は剣を振り上げ一斉に斬りかかる。
「ガチン」
全ての剣を身体で受け止め、無傷のタスクは笑う。その異常な姿、服が切れた背中から見える4本角の鹿の頭蓋骨の痣。
男達は歯をガチガチ鳴らし冷や汗をボタボタと流す。そして気が付く、、絶対に触れてはいけない存在に出会ってしまったことに。。
次の瞬間
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
次々とぐしゃぐしゃになる男達、その中の1人が叫ぶ。
「そそそそそそそらだ!!!!仲間が降ってくる!!!!!!」
そう、さっき投げた900人の仲間がまるで地獄のように生き残った100人に降り注ぐ。
もしも地獄が存在するのなら、まさにここは地獄だ。広場は瞬く間に血の海になり、その中心にただ1人だけ目を瞑り掌を合わせたタスクだけが身体から白い煙を上げながら立っていた。
「おおおおおおい!!!!!いいいいいいのか!こいつが死んでもいいいいいのか!?ヒャハハハハハハハハ!」
静かに目を開けるタスクの前に生き残った1人が村人の首筋にナイフを突き立てる。囚われているのはカーナの母だった。カーナはすぐそばで叫ぶ。
「おねがぃぃぃぃ!!!!がえじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
タスクは真っ直ぐに男を見ると静かに言った。
「・・・・あと一人。」
タスクの姿が消える。気が付くと男はこの世界が丸いことを目視出来るほど上空にいた。
「・・・・ぎゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
必死に落ちることを抵抗する男に追い討ちをかけるように下からくる何かに気が付く。
「いいいいいいい岩!?」
物凄いスピードで落下する男。下から音速で迫る巨大な岩。何かを叫びながら咄嗟に男は身構る。
「あjmpgdmwpj*・・・・・」
グシャん
巨大な岩はそのまま空の彼方に消え、空からは細い銀の腕輪が落ちてくる。すぐさまにタスクはそれをキャッチする。後継者の存在がなくなったせいなのか血の海になった広場の死体や血液も煙のように姿を消した。
「あ、あ、・・・た、、タスク?」
自分の知っているタスクとのあまりの違いに恐怖すら覚えるカーナにタスクはニコッと笑って言った。
「ハハッ!全身痛てぇ!」
モクモクと煙を上げるタスクを目の前にまるで全部夢だったかのようにカーナには感じた。
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それからは村の皆で傷ついた人に回復魔法をかけたり、気絶していたカーナの母を運んだり、村人全員で復旧作業にあたった。さっきの不思議な出来事がまるで嘘だったかのように一夜にして町は元通りになる。
カーナ以外の村人はタスクの速すぎる動きを理解出来ず、タスクは立っていただけだと思い込んでいる。あの同じ顔の男達は神の裁きを受けたのだと。
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「ふぁぁぁぁぁぁあ。」
何も無かったのように次の日の朝がきた。
タスクは窓の外の静かで平和な村を眺めながら、昨日の身体の痛みがのこっていないか確認するかのように手足をベッドの上で動かしていた。
身体の痛みも残っていないことを確認するとベッドから飛び出し背伸びをする。そんなことをしていると、ドアからカーナが半分顔を出す。
「あなたは魔王ですか?」
目をまん丸にしてカーナはタスクに尋ねる。
「魔王じゃねーよw」
ドアから顔を半分出した状態で完全に疑っているカーナに5年の間何があったのかをタスクは説明した。
「そんな事言われてもさ、はいわかりました!って信じられないよ?それで裸のおじいちゃんは今もタスクの頭の中にいるの?」
「いや。じいさんは封印した。」
「・・・・・。」
カーナは少し黙ったが怒った様子でタスクを責める。
「大体さ、おじいちゃんを封印する孫なんかいないよ!かわいそうだよ!」
慌ててタスクは弁解する。
「まて、考えてみろカーナ。寝ようと目を閉じたら裸のじいさんがいる。瞬きするたびに変なポーズで待っている裸のじいさんがいる。発狂するだろ普通。」
「はぁはぁ。やっぱりカーナたんは可愛いのぅ」
その時、タスクの言葉を遮るように頭の中にじいさんの声が響いた。タスクは渾身の力で叫ぶ!
「封印術鹿神式ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
「ちょjpnjgpa!!!!!!!!!マテマテマテマテ!!わしあるの!大事な話があるの!!本当に大事なの!!」
タスクは頭にかざそうとした手を止める。
「おじいちゃん、、でちゃった?」
うるうるした垂れ目で小首を傾げながらカーナが聞いてくる。
タスクが答えようとするとじいさんが頭の中で答えた。
「カーナたん。。おじいちゃん、、、でちゃった。、ポッw」
タスクは叫んだ。
「封印術鹿神式ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
慌てるじいさんにタスクは答える。
「次はないぞ。」
「カーナ、また勝手に出てきたらしい。話があるみたいだから待って。」
じいさんの声はタスク以外には聞こえない。
タスクがじいさんに話を聞くと伝えると、じいさんは真剣に話をはじめた。
「お前の手に付いとるのは鼠神の印だな。鼠神の力は【数】万物の数を増やしたり減らしたり出来るはずだ。ほれ、やってみい?」
それであいつは1000人もいたのか。。考えていたタスクだが、じいさんの言葉にテーブルの上にある花瓶を手にとり力をこめる。
「・・・・・・・」
何にも起こる気配がない。どう頑張ってもなにも起こらない。そこでじいさんは気が付く。
「あ、鹿神付きの魔力無しのタスクには使えんみたいだな。」
はっ!と気が付くタスクはすぐにカーナの腕に鼠神の腕輪をつけると花瓶を渡した。
「タスク、何?このアクセサリー?もしかして、、プレゼント!?」
変に喜んでいるカーナに、タスクは無表情で頷くと花瓶を増やしくれとお願いする。
「タスク。魔法が少し使えるからってね、そんなこと出来ないんだよ?」
「いいからして?」
「もぅ。仕方ないなぁ。。」
出来ないと分かっているが、カーナは魔力を込める。すると鼠神の腕輪は白く光出した。
「な、なにこれ。、」
あまりの光に目を閉じた二人が目を開けたとき、そこには3つになった花瓶があるのだった。
「あの、、魔力空っぽになりましたけど。」
そう言うとぐったりするとカーナ。どうやらカーナの魔力量ではこれが限界らしい。
「カーナたん可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
違う着眼点で興奮するじいさんにタスクは尋ねる。
「副作用はないの?鹿神みたいにさ?」
呆れた顔でじいさんは答える。
「あのな、普通は12神が力を与えても一部だけで、特殊な金属に力を閉じ込めてそれを使用する。お前みたいに神の力で身体をぶっ壊しながら戦うcrazyな馬鹿はおらんよ?わしでも全力で力を使うことなどなかった。お前の身体は特殊かも知れんが、普通は死ぬからな。」
じいさんの言葉にタスクは安心する。カーナに鹿神の副作用の事をきかれたが、筋肉痛だと言って切り抜けた。
そしてタスクはカーナに伝える。
じいちゃんから聞いた世界の真実を。
自分が旅に出ることを。
「カーナは大三国の王たちが総王になるために争っているのをしってるよな?昨日の出来事、鼠神の腕輪の存在。これでカーナも気がついただろ?神は実在するんだ。 」
カーナは不思議そうな顔をする。
「知ってるよ、でもそれと神様と関係あるの?」
タスクは続ける。
「あるんだ。それぞれの神達も12の神の頂点になるために争っているんだ。12の神になる条件は一つ、自分の後継者が夜王を倒すこと。
んでさ、もっと悪いやつがいるんだよ。
ただそのレースを楽しむためだけに夜王を作ったやつさ、それが今の神の頂点。
創造神だ。
12神のうちの何人かは、3つの国々の裏で糸を引き屈強な後継者を見つけるためだけに男達をあつめる制度を作った。
その国の出身者に12神の力を与えればどちらも目的が達成されるからな。
何人かの神達は初めから能力の高い転生者を召喚して能力を授けた。
人選を楽観視した神の後継者は力に溺れる。
我先にと夜王を倒しに行った後継者は、他の後継者に叩かれる。
結局、創造神は醜い我欲の争い見て楽しんでるだけなんだよ。そこで俺は考えた。
12神の後継者じゃない。どの国の出身者でもない俺が世界を根っこから破壊しようってね。」
カーナはいっぱい考え、そして答えた。
「よくわからないけど、、タスクがどっかに行っちゃうのはさ、、さみしいな。、」
タスクはカーナの頭をくしゃくしゃっと撫でて笑った。
「はぁ、はぁ、やっぱりカーナたんは可愛いぃのう」
そしてタスクはじいさんをまた封印した。