号砲
『次の競技は棒倒しです。二年男子生徒の皆さんは集合場所へお集まりください』
放送委員会の女子のアナウンスに促され、兄と相澤は集合場所へ向かう。
「なあ、橘はいつから瑠美ちゃんのことが好きなんだ?」
「…………子どもの頃から」
「じゃあ片思い歴めちゃくちゃ長いじゃん!?」
瑠美に初めて声を掛けた時から変わらぬこの気持ち。
十年以上ずっと誰にも言わず、燻らせ続けていたこの恋情を、まさか口にする日が来ようとは。
長年秘めていたこの気持ちは日に日に大きくなっていくのに、目の前にいる一番気持ちを知ってほしい張本人には一生伝えることが出来ない。
そう思って、これまで必死に押し潰してきたこの感情。小さく小さく畳んで心の奥底に仕舞いこみ、鍵を掛けていたはずだったのに。
いとも容易く相澤に暴かれてしまった。
――それがとても清々しかった。
「そう。俺はもう瑠美への片思いで言ったら、超ベテランなの。先輩なの。だからもっと敬えよ」
兄が少し意地の悪い口調で言うと、相澤は気持ちのいい大きな笑い声でばしばしと兄の背中を叩く。
「あっはは! そうですね、先輩!」
「痛えな、やめろって」
「――でもさ、オレ負けないから」
突然の真剣な眼差しに、相澤が本気なのだと悟る。
「俺だって……負けねえよ」
兄と相澤は同級生たちに混じって、スタートライン上に横一列に並んだ。
『よーい、スタート!!』
パンッ!と合図を告げるピストルの音。
それは、二人の戦いが始まる号砲でもあった。




