駆け抜けて 青春②
「あ……うん」
「え? 反応薄くない……?」
いや、とうに知っていた。
俺の誕生日。――相澤が初めて瑠美に会った日。あいつは瑠美に一目惚れをした。見てるこっちがすぐにわかるぐらい、あっさりと恋に落ちた。目の前で自分の想い人に恋に落ちる親友。それは嫉妬や羨望が入り交じった何とも言えない複雑な気持ちだった。
瑠美を誰にも渡したくはない。しかし世間的には兄妹の俺たちが結ばれることは許されない。いや、それ以前に瑠美が吸血鬼の俺のことを恋愛対象として見るはずがなかった。もしも俺が瑠美と普通の同級生だったら。もしも俺が吸血鬼じゃなかったら。
その『もしも』を相澤は全て持っている。相澤は何も悪くない。……けれど、羨ましい。
そんな醜い気持ちが、ひとつの言動に表れた。
『瑠美は三月生まれ。三月三日のひな祭りが誕生日』
十一月生まれの俺と誕生日が違うことを、敢えて相澤に伝えた。
俺と瑠美に、血の繋がりがないことを暗に示した。もちろんそんなことをしたところで意味がないことはわかっている。けれど、口にすることすら叶わない俺の気持ちが少しでも相澤に伝わってくれれば。これが精一杯の牽制のつもりだった。
「(頼む。瑠美は、瑠美だけは諦めてくれないか――)」
「――橘はさぁ、ほんと自分のこと話さないよな」
「え……?」
「ずっと聞かなかったけど、お前と瑠美ちゃんの関係って普通の兄妹じゃないんだろ?」
「――……」
「ごめん、話したくないならいいんだ」
何も言わない俺の重い雰囲気を感じ取ってか、相澤はなるべく空気を軽くしようと笑って言った。
相澤は思ったことをすぐに口に出してしまう、真っ直ぐで嘘のつけない性格だ。そんな実直で素直な彼に気を遣わせてまで自分が守りたいものとは何なのだろうか。世間体? 瑠美との平穏な生活?
……平穏なんて、今さら何を言っているんだか。
「相澤。俺……俺も、瑠美が……好きなんだ」
「……うん」
「…………反応薄いな」
「いや、そうかなって」
へへ、と頬を掻きながら相澤が笑う。
「橘が自分のこと話してくれて嬉しいわ」
意外な相澤の言葉に肩透かしを食ったような気持ちになる。どこまで性格が良いんだ、お前は。今、目の前にいるのはお前のライバルなんだぞ。
「それなら話は早い。橘、勝負しよう」
「勝負……?」
「二年の男子が全員強制参加の種目があるだろ?」
「棒倒しか」
「そう、それでオレが敵の旗を獲ったらオレは瑠美ちゃんに告る! オレに告らせたくないなら、お前が旗を獲れ」
そこは俺も旗を獲ったら告白じゃないのか。なんて、軽く心の中でツッコミながらも俺は答えた。
「――あぁ、わかった」




