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Blood for  作者: 椎井 慧
第2章
33/38

空中散歩①

 ゴールデンウィーク真っ只中の五月。瑠美と相澤は隣の県にある国営公園まで来ていた。瑠美はここに来るまでの間、ずっと緊張していた。

 初めての男子との遠出。初めての……デート。デートというものがどういうものなのかもよくわからないが、とにかく兄と出掛ける時の百倍身だしなみに気を付けた。

 何を着ていけばよいのかわからず、駅前のファッションビルで恵衣に見繕ってもらった青のワンピース。袖口がフリルになっていて、背中にはリボンがついている、普段なら絶対に選ばないデザインのワンピースだ。

 靴は何を履いたらいいの? と聞いたら

「瑠美は背が意外に高いから、ヒールの低い靴にしなさい。相澤より大きくなっちゃったら変でしょ? あ、いつものスニーカーとか履いちゃダメだからね」

とアドバイスを賜ったので、ヒール三センチのサンダルも一緒に買った。

 サンダルから覗く爪先を華やかにしたくて、ペディキュアも不器用ながら塗ってみたりした。白色にラメがきらきらと光っているやつだ。

 髪型もいつもは下ろしたままのストレートロングだが、恵衣曰く「うなじを出せ」とのことだったのでポニーテールにしてみた。

 恵衣に相澤からデートに誘われたことを話したら、彼女はまるで自分のことのようにノリノリで色々とアドバイスしてくれた。デートのことなんて何もわからない瑠美にとってそれはとてもありがたいことであった。それに、いつもと違う自分になるのは意外に楽しいものだ、と思った。



「(これ、似合ってるかなぁ)」

 いつもと違う、きらきらした爪先やひらひら風になびくスカートの裾を見つめながらぼんやり考えていると、相澤が顔を覗き込んできた。

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

 瑠美が慌てて謝ると、相澤がにっこり笑う。

「大丈夫、可愛いよ」



 …………!

 相澤に可愛いと言われるのはこれで二度目だ。初対面で可愛いと言われた時もかなり面食らったが、自分の脳内を読まれたかのように言われた今の「可愛い」もかなりの破壊力を持っていた。

「その青いワンピース、今日にぴったりでいいね」

 そう言って、相澤は空を指差した。確かに今日は雲ひとつない晴天。真っ青な空の色とワンピースの色が溶け合ってしまいそうだった。そんな褒め方、兄ならしないだろうなぁとまたぼんやり考える。

「さ、行こうか」

 相澤の声で、はっと我に返った瑠美は彼の背中を小走りで追った。



 国営公園はとても広く、いろいろな花が咲き誇っている。その中でも、この時期一番美しいのがネモフィラという青い花だ。丘いっぱいに咲くネモフィラは国営公園の名物で、それを見る為に足を運ぶ人も多い。

 ネモフィラの丘に向かう途中、食べ物を売る屋台が並んでいるのが目に入った。そう言えば、今朝は身仕度に手間取って朝ご飯をまともに食べていない。……お腹空いたな。屋台をじっと眺めながら歩いていると、その視線に気付いた相澤が足を止めた。

「何か食う?」

「いいの?」

「うん。オレも腹減っちゃった」



 屋台で各々の好きなものを買い、近くの椅子に腰掛けた。

「相澤くんのそれ、何?」

「うどん。瑠美ちゃんのは?」

「ハム焼き」

「肉食女子」

 くっくっ、と楽しそうに笑う相澤の顔を見て、瑠美は少しほっとする。自分なんかとデートして、本当に楽しいのだろうかと不安だったからだ。そもそもどうして彼は自分とデートなんてしたかったのだろう。デートとは普通好き合う男女がするものだと思っていたが、そうでないケースもあるのだな。

「そういえば、お兄ちゃんはお昼ご飯どうしてるかなぁ」

「……うーん。どうしてんだろな」

「お兄ちゃんね、料理上手なんだけど面倒くさがりだから自分のためにはやらないんだよね」

「……そうなんだ」

 あれ? 興味なかったかな? 相澤の歯切れの悪い返答に、瑠美は首を傾げる。二人の一番の共通の話題と言えば兄だと思ったのだが。

「――そういえば地学の授業でさぁ」

 相澤がちょっと不自然に話題を変えてきたので、それ以上兄の話はせずに食事を終えた。

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