三つ巴バースデー②
瑠美の横を銀シャリに乗った海老が横切る。それを横目で見た兄の目がぎらりと光った。
「瑠美! それ取って!」
「あっ、はい!」
三人は回転寿司屋にいた。相澤の奢りで好きなだけ食べる、という約束を前々からしていたらしくそこに瑠美もお邪魔させてもらう形になったのだった。
「橘の海老への執着心、もはや怖いわ。瑠美ちゃんも好きなだけ食べてな」
海老しか見えていない兄をからからと笑いながら、相澤は瑠美の前にマグロの寿司を置いた。笑われた兄は少しむっとしたような表情をしながらも海老を頬張る。
「初対面のくせに瑠美ちゃんて馴れ馴れしくない? 相澤くん」
「だって二人とも橘じゃ紛らわしいじゃん。それともお前を塁くんて呼ぼうか?」
「やめて、気持ち悪い」
友達といる時の兄は、意外にもちょっと毒づいたり悪態をついたり家では見せない顔ばかりだ。二人の男子の会話を聞きながら大人しくマグロを食べていると、気を遣ってなのか、相澤が話を振ってきた。
「ねぇ、橘って中学の時どんな奴だった?」
「えーと……。あだ名が『無自覚王子』」
「何それ?」
「女子から持て囃されるんだけど、お兄ちゃんは気付いてないんだよね」
「あぁ~。今もそんな感じだな。ムカつくなお前」
「うっさいわ、海老取れ。海老」
相澤は、はいはい誕生日だからな、と笑いながら海老を兄の前に置くと、ふと何かに気付いたように首を傾げた。
「あれ? てかさ、今日橘が誕生日ってことは瑠美ちゃんも誕生日?」
「あ……え、えーと……」
これは話しても良いことなのか、その分別がつかず瑠美が戸惑っていると兄が事も無げに答えた。
「瑠美は三月生まれ。三月三日のひな祭りが誕生日」
「あ、そうなんだ。じゃあ三月もお祝いしなきゃな」
それを聞いた相澤も特段気にする様子もなく普通に話を続ける。『誕生日の違う同い年の兄妹』を不思議に思わないのだろうか……?
そんな瑠美の疑問はさておき、二人の会話は続いていく。
「別に相澤にお祝いなんかされたくないって」
「そうなの!? なんで!?」
「うっさいわ、海老取れ。海老」
「お前は海老以外も食えよ!」
ここで瑠美は我慢出来ずに思わず吹き出してしまった。あはは、と大きな声を出して笑う。
「ど、どうしたの、瑠美?」
「ごめん、二人とも仲良いなぁと思って」
涙を拭いながら瑠美が答える。最近、ずっと兄への想いに悩んでいた瑠美にとってはこんなに笑ったことが久々に思えた。
そしていつもと違う表情の兄を見られて、それを嬉しいと思う自分がいることにも気付いていた。
どんな場所でも、どんな状況でも、やはり自分は兄のことを想っている。これは揺るぎない事実なのだと、改めて実感した。
瑠美は不意に悪戯っぽくニヤリと笑うと、兄の海老を横取りしてぱくりと口に入れた。あっと声をあげ、その後むぅ……とむくれる兄の顔を見て、胸に込み上げる愛しさを感じる。
「(やっぱり、お兄ちゃんが、好き)




