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Blood for  作者: 椎井 慧
第1章
18/38

金色の双眸

結局今日は夕飯と風呂の時間を挟みつつ三時間も延々と数学とにらめっこをした。もうへとへとだ。

明日も学校だからもう寝ようと提案する瑠美に、これから毎日特別補講ね、と恐ろしい捨て台詞と悪魔のような微笑みを残して兄は自室へ入っていった。



「(お兄ちゃんは一旦スイッチが入っちゃうとノンストップだからなぁ……。疲れた……)」

瑠美も自室に戻り、教科書を机の上に置いた。

「あれ……?」

教科書が二冊ある。どうやら兄の教科書も一緒に持ってきてしまったようだ。

「まぁいっか、明日返せば。もう眠すぎる……」

よたよたとベッドまで身体を運び、倒れ込むようにして横になる。お気に入りのタオルケットの柔らかさに包まれ瞼を閉じると、数秒で瑠美の意識は夢の中へ羽ばたいていった。




夜は深まり、草木も眠る頃。静かな部屋にきぃ、とドアの開く音がして瑠美は目が覚めた。

「(お兄ちゃん、教科書探しに来たのかな……?)」

半分眠ったままのぼんやりした頭で考える。すぐにまた夢の中に戻ろうとしたその時、誰かが腰を掛けたようにベッドの片側が沈んだ。腰を掛けた誰かは特に何かを探す素振りもなく、じっと動かない。だんだん瑠美の意識も現実に戻ってきた。

「(お兄ちゃん、何してるんだろ……?)」

疑問に思った瑠美はそっと薄目を開けてみる。するとそこには瑠美をじっと見つめる金色の双眸があった。

瑠美の頭は一瞬で覚醒した。その瞳に見覚えがあったからだ。そう、古城で出会った赤いフードの吸血鬼と同じ瞳だ。

「(どうして――!?)」

あの時の恐怖が蘇り、両目をぎゅっと固く瞑る。心臓が聞いたこともない早さと音で脈打つ。このままでは爆発してしまいそうだ。じっとりと冷や汗が背中を伝う。

するとおもむろにベッドの軋む音がし、顔の真横のマットレスが沈んだ。そして瑠美の鼻先にさらりと髪の毛らしきものが触れた。自分と同じシャンプーの香りに混じる嗅ぎ慣れた匂い。瑠美は確信した。



――兄だ。

兄は瑠美の鎖骨から首筋をなぞるようにして唇をそっと伝わせる。それは触れるか触れないかの、優しい愛撫のようでもあった。生暖かい吐息が、汗で湿った瑠美の首筋を余計に湿らせる。兄はゆっくりと顎の下まで唇を這わせると、歯を立てずに唇だけで首筋を()んだ。

この行動の意味がわからず、瑠美は身体を強ばらせた。血が吸いたくなったのか、それとも他に意図が?なにより、あの金色の瞳は一体――。

ここで声をあげるべきか否か逡巡していると、兄の唇が首筋から離れた。

「…………ごめん」

兄は闇に溶け入りそうな小さな声で独りごちると、静かに立ち上がり部屋を出ていった。




部屋に再び真っ暗な静寂が訪れる。

瑠美の瞼の裏には暗闇に浮かび上がる鮮やかな金色の双眸だけが、いつまでも残って消えなかった。

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