赤点
夏休みが明け、二週間余りが経ったある日。九月も中旬だと言うのに容赦ない残暑にうなだれるようにして帰宅した兄の目に映ったのは、ソファに力なく突っ伏す瑠美の姿だった。
「あれ?教室いないなぁと思ったらもう帰ってたんだ」
「うん……」
「ど、どうかしたの?」
兄が心配そうに問い掛けると、瑠美がよぼよぼと顔をあげる。
「これ……」
瑠美がぷるぷると震える手で差し出した紙には右上端に赤文字で5、と書かれていた。
「こないだの数学の抜き打ちテスト、赤点で追試になったぁ……」
差し出されたテストの解答用紙をまじまじと見つめる兄。ほとんど答えが書かれておらず真っ白な上に、丸が一つもない。お情けで三角が二つついているだけだ。
「これ、まさか100点満点のテストじゃないよね?」
「100点満点だよ……」
「えぇ!?こんな点数存在するんだ!?」
「ここに存在してるよ……」
瑠美は理系の科目がからきし苦手だ。国語や英語は学年でも上位に入るぐらいの得意科目だが、数学や化学となると途端に頭がパンクしてしまう。とは言っても、こんなに酷い点数を取るのは初めてだ……。両肩脱臼と言わんばかりに肩を落とす瑠美。
そんな妹の落胆ぶりを見て兄が思い付いたようにぽん、と両手を打った。
「よし、俺が勉強を見てあげる!」
「え……?」
「二学期の成績で二年次のクラスが決まるからね。来年こそは同じクラスになれるように、瑠美の成績を俺が上げる!」
兄は勉強に関してはなかなかのスパルタだ。この間の夏休みの宿題も、ここまで終わらなければ夕飯抜きだと言われ半泣き状態でやらされた。高校受験の勉強も、兄として瑠美の第一志望に絶対受からせるのが俺の使命だ、と夜中まで必死に苦手科目を教えてくれた。
いつでも学年トップの成績で秀才の兄にここまでしてもらえるのはとてもありがたい。ありがたいことなのだが、あの辛い日々を思い出すとげっそりしてしまう。しかも兄と同じクラスになろうとしたら一体どれだけ勉強しなければならないのだろうか?瑠美としては次の学年に上がれれば成績なんて中の中ぐらいで良いのだが……。
「はい、じゃあ早速始めるよ!教科書出して」
兄は完全にやる気満々である。彼は一度火がついたら止まらない人だ。もう断ることは出来まい。観念した瑠美は大人しく教科書を開いた。
「よろしくお願いします……」




