一人目
このままでは世界が腐ってしまう。 誰かが止めなければいけない。
いや・・・私がやらなければいけない。 自分のことだから。
ズンッという音が町中を駆け抜けたのは12時過ぎのことだった。大型デパートの中で友人三名と一緒に今からファーストフードでも食べにいきますか? などとくだらない話も交えながら語っていた『門松 雄二』はその音が自分の人生の中で一度しか起きないビッグイベントのオープニングフラッシュのように感じていた。
顔が一気ににやついたのを門松自身が実感して背筋を凍らせていくのだ。
『あぁ、このまま世界が終わってしまうかもしれないな・・・!』
そんなことを考えるたびに門松の心臓は嬉々として全身に液体をめぐらせ、冴え渡った脳は次に何がくるのかをアドレナリンを準備しながらわくわくしていた。
ほんの数秒後には大きなゆれがデパート全体を揺さぶった。
パンッ・・・! という乾いた音とともにデパート中の電源が落ちた。
目がくらみ、闇しか見えなくなる。遠くから家族の悲鳴がいくつも上がった。
それがよりいっそう門松を現実から引き剥がしていくのだった。
揺れは物の数分で収まったかに見えた。しかし、
「ヒイイッハハハッハハグギイィイイハハハアハハッハハッハアアァァァァアアァアァァ・・・
やぁ、ごきげんよう? 君かい?」
今度こそ門松は悲鳴を上げた。先ほど楽しんでいたことがウソのように乾いたなさけない叫び声をあげた。その声はこの状況に快感を覚えている者すべてを探り当てるために響いたように思ったのだ。
揺れが収まっていないにもかかわらず、門松は恐怖のあまりエスカレーターの方向へとかけ始めた。
足はもつれ、何度も転んだ。ほんの数メートルしか離れていないはずのエスカレーターに向かうまでに、揺れはすっかり収まってしまった。それでも門松の胸の高鳴りは収まらなかった。
同じ場所にとどまること自体が死を意味するように感じたのだ。
デパートの自動ドアは門松がくぐるのをまるで待っているように スゥッ・・・、 と開いていった。
それがいっそう門松の足を加速させるのだ。これが本当に終わりなのかもしれない・・・。
デパートから出た門松は目を疑った。そこには道路も壁も、人もいない。
赤く焼けた空が乱暴に地面の瓦礫の白を光らせていた。
はっとして振り返ると。デパートは跡形もなく消えていた。
真っ赤な光の中で凶気に門松は襲われた。
「・・・っ・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・・・・・あぁ」
門松がポロリとこぼした後悔の一言だった。
『お前じゃないのか?』
自分の耳の穴の中から聞こえたような気がした。そこで門松は息絶えた。
その日は奮発して期間限定のバーガーを買ってみた。ほかの連中も好きなものを注文していた。
ポテトを口いっぱいにほおばりながら門松は自分では耐え切れないなぁと心の底から思った。
進路や将来の夢について、真剣に考え始めたのはこれがきっかけだった。
次にこみ上げたのは強い後悔と哀れみの感情だった。
『次にあいつらは、誰を試しにいくのだろうか・・・』
大きな選別が。自分の住んでいない場所で起こっていくような気がしたのだ。
もっともっと怖くできたら最高ですよね。