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歪み愛  作者: 真鳥 狩亜
序章 偽りの恋人の歪んだ愛
1/9

一話

皆さまお久しぶりです!この作品は、せめててこの作品だけでも完結させてみせます!

 淡雪(あわゆき)は昨日と同じように朝日が出る前に起き、寝相の良さでは五十嵐ノ国(いがらしのくに)一であろう父淡海(あわうみ)を起こし、玄米を炊き、母紅雪(こうせつ)の癖毛を櫛で梳かし、恋人の荒野(こうや)から譲り受けた瓦版に目を通した。

 淡雪の家は五十嵐ノ国の低位にしては懐が温かい方だったが、淡雪の両親も他の低位の者と同じように働きに出ていた。本来ならば、淡雪も両親同様働き口を探して働かなくてはならないのだが、淡雪はとある理由で働かずとも稼ぐことが出来る、というより資金援助してもらえているのだ。

 そもそもだが、低位は働き口を探す必要などない。いや、働き口を選べないのだ。低位は簡潔に言うと奴隷である。王位や高位の者に仕え、時に売られ時に買われるのだ。しかし、低位は同じ人間に売り買いされるという点を除けば、一般市民である中位と何ら変わりない。王位や高位の者たちは、低位の人間を売買することで自らの権力と豊かさを誇示したいだけなので、低位の者に対して暴力をふるうなどの酷い仕打ちはしないのだ。


「ねえ淡雪。母さんもう行くけれど、荒野様に失礼のないようにね」

「紅雪、私も丁度行くところだ。久しぶりに一緒に華ノ宮(はなのみや)様のところに行こうか」

 淡雪が瓦版を読んでいた間、淡海と紅雪は先に朝餉を済ませていた。淡海と紅雪は王位、つまりこの五十嵐ノ国の王である華ノ宮に仕えていた。淡海は華ノ宮の第二庭園の門番の補佐を主にしているが、月に数回第一庭園の方に手伝いに行くことがある。今日が丁度第一庭園に手伝いに行く日なのだろう。紅雪は華ノ宮の側近の給仕を主にしていた。

「じゃあ、母さんたち行ってくるから」

「父様、母様、お気をつけて」

 紅雪が玄関の引き戸をガラリと開けると、外から春の暖かな朝日が差し込んできた。紅雪は眩しそうに着物の袖で顔を覆いながら淡雪に手を振って行った。

 

 淡雪は淡海と紅雪を玄関先で見送り、家の一番奥の小さな自室で出掛ける支度をし始めた。

 さて、今日はどんな着物を着て行こうか。この藍色のは気に入っているけれど、最近はこればかり着ている気がするから却下ね。この紅色の着物は荒野様に初めて頂いた大切な着物だから、安易に着て汚してしまってはいけないわね。あら、この薄桃色のなんて良いわね。これは昨年初めて荒野様にお会いした際に、父様から頂いたお小遣いを全て叩いて買った着物だわ。うん、これが良い。

 淡雪は今日の荒野との逢瀬を相当楽しみにしているらしく、一人部屋でくるくると表情を変えながら着ていく着物を選んでいた。やっと着物が決まり髪も二つに分けて結わえ終わった頃には、もうすっかり陽が昇ってしまい、荒野との約束の時間が近づいていた。淡雪は薄桃色の着物に合わせて藤色の巾着を部屋の角に置かれた箪笥の中から引っ張り出し、淡海から貰ったお小遣いを少しだけ入れて部屋を後にした。そして、台所の隣の紅雪の部屋へ行くと紅雪のいつも使っている化粧台の上に一つだけ転がっている紅を取り、腰を屈めて鏡を覗きながら自分唇にそっと紅をさした。「よし」と淡雪は独り言を呟きながら紅を化粧台の一番上の引き出しにしまって、玄関へ向かった。靴箱の三段目の一番手前から紅雪のお下がりの下駄を出して颯爽と突っ掛けると、玄関を出て鍵を閉めた。

「ええと、服装良し。紅良し。鍵閉めた。…よし、大丈夫」

 淡雪はぶつぶつと小声で出掛ける前の確認を済ませると、少し口角を上げて微笑み足取り軽く待ち合わせ場所である桜の木公園へ向かった。

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