表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 滝 千博
五枚会
5/7

第三回

テーマ:退屈

禁則事項:エクスクラメーションマーク・クエスチョンマークの使用不可/登場人物の名前の記載禁止


解説っぽい物をあとがきに

 私の旦那は鉄男だ。夫と結婚するまでは鉄男なんて言葉さえ知らなかったのだけど、結婚してからこの数年で私は『鉄男』と言う存在がどれほど家族に迷惑をかける物か理解させられることになった。



「今日は環状線を一周するぞ」



 夫は休み事に電車と記念写真を撮って帰って来る。一体電車の写真を撮ってどこが楽しいのか分らない私には、居間に増えていく写真の整理がもう面倒でしかない。



「行ってらっしゃい。遅くならないでね」



 大阪駅まで車で行き大阪環状線をただ一周するだけという、何をしたいのかさっぱり分らないお出かけコース。何度か付き合った事があったけどもうとっくに飽きた。いつの間にか寝入ってて毎回揺り起こされるのがオチだし、それぞれの駅に関するうんちくなんて聞かされても覚えられないし。



「今日はお前も一緒に行くんだよ」


「え」


「来いよ、なぁ。行こうぜ」


「私行かないって前言ったよね」



 夫を見れば、何か問題がとでも言わんばかりの表情とぶつかった。私の趣味は読書とアニメだって言っても聞きやしないで、自分のことを必ず人が理解してくれると信じ込んでる。


 昔はこれをリーダーシップがあると思ったんだけど、私の見る目はなかったらしい。



「いいから付いてこいよ、教えてやるから」



 そう言って連行されるようにして来た環状線。私が大阪駅を使わなくなってからここ数年の間に色々と工事をしたらしく、階段の位置が変わっていたり屋根が新しく出来ていたりした。引っ張られて昇ったエスカレーターの上からは視界が開けて景色が良い。赤い観覧車が真正面に見えた。


 そして乗ったは環状線。先頭車両の一番前は事故が怖いから苦手なんだけど、夫はぐいぐいと私の手を引っ張った。エスカレーターのある位置は新今宮方面の先頭車両には近いけど夫の立てた予定は京橋方面に乗るのだとか。ホームに入ってきたオレンジの車体は数年前まで毎日見ていたからなんだか懐かしさを覚える。



「京阪電車の方が広いわね」


「ああ、京阪の方が座席の位置も高いし車両も長いぞ」



 JRの殺人的なあの混雑は電車が狭いからだったりして。乗りなれた京阪とだいぶ印象が違うことに今さらながら驚いた。


 入って正面の扉に手を突いて立つ。昼間だからか空いた電車はゆっくりと動き出し、先ず向かうは天満。夫の何度目ともしれないうんちくを右から左に聞き流していれば五分とせずに到着した。進行方向左側にはK‐1の空手道場が中まで見える。大学からの帰りには道着を着た人たちが練習している姿を見たものだ。


 また流されて今度は桜ノ宮。出口が変わるから一歩内へ足を引いた。数人降り、数人乗った。ホームは狭いし錆ついてるし、見るからに寂れてる。夫のうんちくは続く。そして京橋に着き、大阪城公園に着き、森の宮に着く。何度目ともしれない環状線一周だったから夫の話はそこそこ聞き流して席に座った。優先座席の青いシートには妊婦や怪我人の姿がプリントされている。



「次の玉造はな」


「昔宝石を作る人が集まってた場所なんでしょ」



 何度目だと思ってるんだろう、このデートもどき。



「そうそう。よく覚えてたな」



 偉い偉いとばかりに頭を撫でられ、少しイラっとくる。この男と付き合いだしてからのデート(とは言い難いもの)を数に入れると、もう七度目の環状線一周だ。覚えない方がおかしい。


 電車が走り出す。そういえばこの駅にブックオフがあったはず。降りれば良かったかもしれない、と一瞬考えて思い出した。鶴橋にもブックオフがあることを。でも玉造の方が治安が良いんだよね。鶴橋駅の下は混沌としてて、近付きたいかと言われると首を振る。


 環状線のほとんどは前の駅から次の駅が見えるくらい近いから鶴橋へもすぐに着いた。扉が開くのと共になだれ込んでくる焼き肉の匂いにお腹がクゥとなる。そういえばどこでお昼を食べるんだろう。天王寺で一度降りて店を探すのかな。どうせ天王寺で降りるならメイトに行きたい。ブックオフもあるし、私はあそこで一日を過ごしても何ら問題はないのだけど、きっとこの男は許さないだろう。無理やり引っ張られるに違いない。


 鶴橋を過ぎた電車は桃谷に着き、白いカラーの可愛いセーラー服の女の子たちが乗ってきた。この駅からちょっと歩いたところにある大阪では有名な部類に入る私立だ。二つ前の玉造にも女子高があるのだけどあそこの制服はここの制服ほど特徴的じゃないからあんまり目立たない。環状線内でパッと目を引くのはあの白いカラーだから。でもあのカラー、つけ外し式だとかで日本橋とかに行くと外してる子が目立つ。だらけとか穴とかメイトとかで何度も外した姿の子たちを見たなぁ。ああ、日本橋に行きたくなってきた。あのメイドカフェのポイントカード、スタンプがあと三つってところで止まってるし。アリスちゃんはもう引退しただろうか。マリエちゃんはまだロリ顔だろうか。



「日本橋行きたいなぁ」


「なら新今宮で乗り換えるか。南海本線も見たいしな」



 一人で行きたい。



「いや、やっぱり良いわ」



 私は男の案を断った。この男が見たいのは電車で、私が見たいのは漫画だから。


 そして寺田町を過ぎ天王寺に着き、降りることなく新今宮、今宮、萱原橋と各駅停まっては発車した。



 大坂へ戻って電車を降りる頃には、私はこの男とどうやって離婚するかを考えていた。

前回同様テーマが分りにくくなっております。


電車に全く興味のない嫁が、知る気もない知識を繰り返し聞かされることによりだんだんと夫に愛想を尽かせていくという話です。


体験談から言いますと、猫可愛がりされたいと思っている女でもない限り「餓鬼扱い」はかなり腹が立ちます。恋愛ではない、ただ純粋に好意を持っている相手だとしても腹が焼けそうなくらいイライラとします。


家庭(パートナー)を振り返らず勝手気ままにする男と、趣味に付き合わされてうんざりしている女。彼女にとってこのデートは退屈以外の何物でもない、という話ですが――伝わらせられるだけの技量がない気がします^^;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ