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短編集  作者: 滝 千博
五枚会
2/7

第一回・おままごと

第一回五枚会


・禁則事項…主人公の「」による台詞の禁止

・テーマ…人形

 私はどこで間違えてしまったのだろう。――ああ、娘が泣いている……。








 娘、瑠香の誕生日プレゼントを買おうと私はおもちゃ屋に行った。どんなものにするかなんて考えてなかった。とりあえず女の子なら人形だろうと思ったけれど、最近の小さい子供が好きな人形なんて知らないし――そういうことはお店の人の方がよく知っているはず。お任せすれば良いと気楽に考えた。



「はい、四歳位の女のお子さんですか? ならやっぱり――こういう、お人形を喜ばれますね」



 お店の人は抱きしめておままごとをするような大きなものではなく、すらりとして体に凹凸のある人形を差し出して来た。箱に入ったままのそれは微妙に横に逸れた視線で私を見つめ返してくる。ピンク色をふんだんに使った外箱は女の子が好むだろうレースやハートが印刷され、大人の私でも可愛いなと思うものだった。……たしかリカちゃんとか言うのよね、これ。



「ええ、そうです。彼氏のレン君もいるんですよ」



 なんということ……最近のお人形には彼氏も用意されているという。どうやら運命の恋人と位置付けられているらしいリカちゃんとレン君は、いくら相手に愛想を尽かしても離婚できない運命にあるんだろう。餓鬼なんて邪魔だなどと言って煩かったあの男を私はポイ捨てることができたけど……リカちゃんはいくらレン君が浮気しても別れられない宿命なの?



「いえ、レン君の相手がリカちゃんだと決められているわけではないのですが……」



 レン君が浮気し放題だと思うのは私が擦れた大人だからかもしれない。それとも男に対しての幻想が打ち砕かれたからなのか。――いっそのこと、リカちゃんではなくレン君だけを買い与えてみようか。あの子の考える『父親像』というのが分って良いかもしれない。うん、瑠香がどんなおままごとをするのか楽しみだ。





 瑠香の誕生日、瑠香の特に親しい友達四人を招いてパーティを開いた。今年は運良く誕生日が土曜日で、今日は一日中目いっぱい甘やかそうと思う。



「わぁ、るかちゃんレンくんかってもらったの、いーなー」



 友達の一人みくちゃんが瑠香へのプレゼントを見て、体を前後に揺らしながら大きな声を上げた。このみくちゃんという子は末っ子故に両親と上の兄たちに溺愛されていて、ちょっと甘えが過ぎるところがある。きっと数日後にはみくちゃんもレン君を手にしていることだろう。



「レンくんかっこいいね」


「リカちゃんのかれしなんだよねー」



 至って普通の反応をしたのは結花ちゃんに結歌ちゃん。親が双子の姉妹で、自分たちの中の良さをアピールしたいのか違う漢字で同じ読みにしたというこの面倒さ。ゆかちゃんと呼びかけると二人が振り向くから不便でならない。本人たちには彼女たちなりの区別方法があるのかもしれないが私は知らない。



「ね、ね! おままごとしよっ!」



 そしていそいそと我先にリカちゃん人形を取り出したのは真由ちゃん。この年齢では仕方ないのかもしれないけど先走り過ぎるところがある。皆が人形を持ってきたわけでもないだろうに、どうするん――



「いいよー?」


「ゆか、マリアちゃんもってきたー」


「ゆかはアリスちゃん」



 女の子とは、いつでも人形を持ち歩くものらしい。今日初めて知った。


 大人しく遊び始めるようだからちょっと離れても大丈夫だろう。ジュースが足りそうにないのを見て、新しいのを持ってくるわねと言い残し居間を出た。瑠香は早速レン君を持って目をキラキラさせながらおままごとの役割分担を話し合っている――買って良かった。私は上の兄弟のせいで女らしく育てられず、人形遊びなど全くした覚えがない。したのはレゴブロックやヒーローごっこ、殴り合いのケンカばかりだった。娘は一人っ子で男兄弟がいない。きっと女の子らしく育つことだろう。



「えー!? やだやだ、るかおかあさんする!!」


「るかちゃんのレンくんでしょ、レンくんはリカちゃんのかれしなの!」


「じゃあレンくんがパパで、リカちゃんがママね。ゆかとゆかちゃんはこどもなのよ」


「ゆかちゃん、リカちゃんふたりいるけどどうするの?」



 ジュースを取りに行っている間に、居間の雰囲気は悪くなっていた。どうやらリカちゃんが二人いるらしい。そしてそれがみくちゃんと真由ちゃんだった、と。また、瑠香はお母さん役をしたいみたいだけど、持っているのは残念ながらレン君であってリカちゃんではない。男にお母さん役は無理だ。皆から却下され顔を真っ赤にしている。



「うーっ!!」



 それからみくちゃんが子供役に決まり、真由ちゃんと瑠香の夫婦がぎこちなく子供たちを可愛がった。真由ちゃんはノリノリだったが瑠香はむくれたままだ――プレゼントはリカちゃんにすべきだったかもしれない。今さらの話だけど。








 夕方になり四人が帰ってから、瑠香は足音荒く居間に向かった。テーブルの上に投げるようにして置かれたレン君人形はどこか影を背負っているように見える。瑠香はレン君を掴み、激情のまま床に叩きつけた。





 転がるレン君の首、上がる瑠香の悲鳴。ああ、私はどこで間違えたのだろうか――

 基本的に僕の書くものはシュールですが、今回ほど収拾がつかなかったのは初めてです。なんでだろう。

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