野良猫、はちお ―激闘編―
「らーら、らーら、らーん。てるちゃん、涼しくなってきて気持ちいいね」
「うん、はちおさん。秋桜が咲いてきたよ。ほら」
公園の片隅にある小さな花壇には、色とりどりの秋桜が満開に向けて勢いづいている。
「今年の夏は暑かったし、この涼しさに救われた気分になるよ」
「あ、英美ちゃーん」
「はちおも、てるちゃんも元気?」
「にゃあ」
「そうよかった。はい。今日のブランチよ。お食べ」
「かりかり、かりかり」
「むしゃむしゃむしゃ」
「2人ともまた体がふっくらしてきたね。暑かったもんね。野良やってる2人にはきつかったでしょう。ごめんね。ホントはわたしが飼ってあげればいいんだけど。お父さんとお母さんが・・」
「にゃあ」
2匹は住み家の空き家にご飯のあと戻って来た。
「なんかいるよ」
「そうね」
「誰だ?」
「待っとったぞ。お前たち」
それは、はちおといつも縄張り争いをしている、くさおだった。
「しぶといな。あきらめや。お前たちは永久にオレには勝てんし」
「なんやと!かかれー!」
はちおの手下の灰と茶トラ、白がはちお目掛けて飛んでくる。爪は長い。
はちおは柔道の黒帯だ。
自然体で構えている。
ほいほい、と飛んで行く手下たち。
ホントに呆気なかった。
「つぎはお前だ、くさお!」
「ええい、ひけ!ひけ!ひけ!覚えとけよ!」
くさお達はよろよろと帰っていった。
「はちお、なんか最近怖そうな黒がこの辺に住み着いたみたいよ。昼間に喧嘩する声が聞こえているらしいの。2人とも気をつけてね」
英美が晩ごはんのときに、心配そうに言った。
「むしゃむしゃ・・・・・?」
住み家に誰かいるようだ。
間違いない。
匂いでわかるのが猫だ。
「誰だ誰がいる?」
「ここは今日から俺様の住み家だ。出て行け」
「なんやとぉ。ここはオレたちの住み家だ。お前こそ出て行け」
それは体重10キロくらいはある、犬か猪に見えるほど馬鹿でかい黒猫だった。汚れがひどい、匂いがひどい。目つきが酷すぎる。
でたらめな構えだ。
自然体をとったはちお。
「おりゃあーーー!」
どこ、どこ、どっすん。
はちおはあっさり右へ吹っ飛ばされた。
「おい、おまえ。はちおって言うんか。この雌はいただいてゆく。悔しかったら取り戻しに来いや」
「はちお、どうしたの?そんなにボロボロになって。てるちゃんはどうしたの?」
「にゃ・・・」
はちおはて英美ちゃんの前で倒れてしまった。
1週間後。
町内を走りこむのは、はちおである。
屈辱的な負けだった。相手の馬力はいままで経験したことのないものだった。
早くてるちゃんを助けに行かないと。
気だけが焦る。
「はちお、大丈夫?おとうさんが町内会長さんに言ってくれるって」
「にゃあーーーーーーーーー!!!」
「そう。でも無理しちゃだめよ。お願いだから、ね」
「にゃ!」
誰かが公園にやって来る。
悪の気配がぷんぷんする・・・・奴だ。
「はちお。あんまり遅いから、このブラッキーさまが暇つぶしにこっちから来てやったぞ」
後ろには5匹が控えている。
こいつら、邪魔だ。
「おい、てるちゃんは無事だろうな?」
「大切にしてるぜ(笑)」
「え、なに?黒猫?犬、猪じあないの?こいつがあの猫なの?」
英美が怖がっている。
「みゃあ。みゃあー」
英美は、はちおがどこかで隠れていてと鳴いたように思った。
そのときブラッキーが英美の左腕に嚙みついた。
薄っすらと血がにじんで、英美は泣いているように見えた。
「あ・・・・・お前!英美ちゃんによくも!お前の汚いばい菌が英美ちゃんにうつったらどうすんだ!ばかやろー!」
「おい。ブラッキー!覚悟はいいな」
はちおは、もう一度自然体で構えている。
2人は動かない。
お互いの呼吸が聞こえているようだ。
じり、じりと距離が小さくなってゆく。
足跡が円を描く。
「うぉりゃ!」
我慢比べだ。
「おりゃ!」
先に動いたのは、ブラッキーだった。
はちおは、奴の懐に入った!
と、その瞬間、奴がニヤリと笑った。
どん!
はちおは、奴の巨体に押しつぶされてしまった!
ぶんぶん!がしゃ!
つかまれて放り投げられた
ぼき!
いやな音がはちおの右足から鳴った・・・・・。
「またオレの勝ちだな」
「根性があったら、また来い。いつでも相手をしてやる。あの雌猫はまだ預かっておく。はやく助け出さないと、どっかに売り飛ばす。もう会えなくなるぞ」
「は、は、は、」
ブラッキーは鼻歌を歌いながら、消えて行った。
「はちお!はちお・・・」
気が付いたとき、そこは見知らぬところだった。
「大丈夫?ここはわたしの部屋よ」
「にゃ」
「ごはん置いとくね」
英美ちゃんの左腕に包帯が巻かれていた・・・。
てるちゃんの顔を思い出す。
ぱたん。
英美ちゃんは部屋を出て行った。
「許せん!」
なんとしても。
でも、右足が骨折しているようだ。
びっこをひいて歩くしかできない。
けれども、猫の回復力は人間と比べると圧倒的に早い。筆者の飼っていた猫は、どこからか落ちて歩けない状態で見つかり「もう歩けないでしょう」と病院で言われたが一月後には元気に走り回っていたということある。
2週間後、町内を走りこむ、はちおの姿があった。
「くそ!どうすれば・・・」
物陰から心配そうに見やる英美がいる。
「はやく助け出さないと、どっかに売り飛ばす」
あの言葉が何度も頭で繰り返される。
もう時間がない。
行こう!行くしかない!
「性懲りもなく来たか。何度来ても同じことよ」
「ほれ、お前の雌猫だ。丁度いい。いまお前が負けたら。すぐに売りとばそう」
「はちおさん・・・」
「この嬢ちゃん猫はどうなることやら(笑)」
ぞろりとブラッキーの手下が後ろから現れた。
ちっ!こいつらがじゃまだ。1匹じゃあ無理だ・・・・・。
「待ったぁ!はちお。助太刀する!こんな奴にオレたちの縄張りを好きにさせてなるものかってんだよ」
くさおとその子分たちが花壇の中かから現れた。
「おら、皆の者行けや!」
「おぅ」
べっ・・ブラッキーがてるちゃんに唾を吐く。
「はちおさん・・・・・」
やつれた、てるちゃんがいた。
「また自然体か。懲りないやつ」
左回りに円を描く2人。じりじりと間合いを測る。
相変わらずブラッキーはめちゃくちゃな構えをしている。
めちゃくちゃ過ぎる。それにあの巨体だ。構えもでたらめだ、返って動きが読めない。
のそ、のそ。ブラッキーが近づいて来る。
・・・・・。
待つ。
待つはちお。
ブラッキーが動くのを待つ。
動いた方が負けだ。
カタ・・・
ブラッキーが動いた。
はちおがブラッキーの体の右側面に回った。
「おーりゃ!」
ブラッキーの尻尾をつかんだ!そしてあるったけの力で尻尾を噛みついた。
「ぎゃおーーーーーー!」
ブラッキーがひるんだその時、はちおの目が光った。
背負い投げ!
ブラッキーが裏返っている間にはちおが、両足を首に回して奴を落としにかかる。
やつは抵抗するが落ちた。
「てるちゃん!英美ちゃん!大丈夫か?」
「大丈夫よ。それより英美ちゃん」
「にゃ?」
「大丈夫よ。はちお」
「さ、ここが今日からあなたたちのお家よ。お父さんとお母さんに助けてもらったって話したら―そんな猫ちゃんなら飼いましょ―って言ってくれたのよ」
「にゃ」
「今日から私たちは家族よ。よろしくね!」
「にゃん、にゃん、にゃん」




