巻き込まれた職員
辺境都市にあるハンターギルドの早朝。宿直室の窓から差し込む朝日で目を覚ました男、ハンターギルド職員は、寝ぼけまなこで起き上がる。
ハンターギルドではもしもの時のために、職員が交代で宿直している。昨夜の宿直当番であった職員は身支度を整え、パンにチーズやハムなどを適当に挟んだ朝ごはんを終える。
ハンターギルドを開く前に、簡単な掃除と郵便物の確認をしなくてはならない。職員は掃除用のバケツを持って、水場とポストがあるハンターギルド裏口の扉を開けた。
そして固まった。
「……何、しているんですか?……ソウスケ氏」
ハンターギルド裏口で座り込んでいる宗助に、職員は声を掛ける。宗助は閉じていた目を開けて一言。
「気にするな」
気にするわ、の言葉を職員は飲み込んだ。
聞きたいことはあるが、相手はA級ハンター。へたな事をして怒らせる訳にはいかない。
全力で気にしないようにする職員は、裏口の水場から水を汲んでポストを確認。
「ん?フォーチュナ劇場?」
郵便物を確認していた職員は、珍しい差出人の手紙を見つける。
フォーチュナ劇場はハンターギルドのお得意様だ。辺境都市のイベントとなどで劇場以外の場所で公演をする際に、ハンターギルドに警護や護衛の依頼をしてくれたりする。依頼料をケチったりしないところもいい。
その依頼の際には、フォーチュナ劇場はわざわざハンターギルドに訪れにくる。今まで手紙を送ってくることは無かった。
「俺宛てか?」
「うわぁ!」
いつの間にか、疑問に思う職員の手元を宗助が覗き込んでいた。
そういえば、ポストの郵便物を確認している時、こっちをガン見していたような気がする。
「フォーチュナ劇場からの俺宛ての手紙だな」
圧が凄い。職員が冷や汗を流す。
「いや、あの……すぐに確認しますので!」
A級ハンター、宗助の威圧に負けた職員は、その場でフォーチュナ劇場からの手紙を開封。
職員が開封したフォーチュナ劇場からの手紙の中には、またしても白い封筒と紙が一枚。紙には「A級ハンターの宗助に渡してください」と書かれていた。白い封筒の表には「A級ハンターの宗助様へ」、裏には「フォーチュナ劇場団員、綾音より」と書かれていた。
「……確かにソウスケ氏宛ての手紙みたいですね」
職員は宗助のプロポーズ騒動の噂は聞いていたが、詳細は知らない。これはどういうことなのだろうかと好奇心が疼くが。
「そうか、ありがとう」
手を差し出し、早く寄越せと威圧する宗助に聞く覚悟は、職員にはなかった。
定時通りにハンターギルドが開き、依頼の手続きをするハンター達の対応が引いた時間帯。
依頼達成の報告をしに来たニールは、受付の机に頭を突っ伏す職員の姿を見てしまった。何があったのだろうか。馴染みの職員にニールは尋ねた。
「あの馬鹿、ギルドでもやったのか」
「どういうことですか?」
職員から朝の出来事を聞いたニールはあきれ顔。職員は首を傾げる。
文通から始めることになった綾音と宗助。最初、綾音は宗助の泊まる宿屋に手紙を送った。初めて綾音から手紙が来た時の宗助は、感動して何度も読み返していた。そこまでは微笑ましかった。
返事を書いた宗助は郵便ギルドを使わず、自分の足でフォーチュナ劇場に手紙を届けに行った。そして早朝から宿屋のポスト前で、綾音からの手紙を待つようになった。
早朝の宿屋前、A級ハンターがポスト前で待機。想像した職員の顔がなんともいえない。
その光景を目撃した他の宿泊客から、びっくりした、ちょっと恐いなどの苦情。そのため、宿屋の女将が宗助に注意、一応関係者であるローランド達も宗助の説得に当たった。
宗助が駄々こねた結果、宿屋からハンターギルドに郵便先を変更することになった。
ハンターは拠点を持たずに自由に居場所を変えたりする。なので、ハンターギルドがそのハンター宛ての手紙や荷物などを預かったりすることもある。それを利用することにした。
余談だが、このことをフォーチュナ劇場に伝えにいった際に、モンドは大笑いで呼吸困難。綾音はわかりました、とちょっと困り顔の微笑で了承。コーデリアは引いていた。
「……そういうことだったんですね」
早朝の出来事の理由に安心してよいのか、郵便先が変わってしまったことに嘆くべきか。職員はなんともいえなくなった。目撃してしまった職員に、ニールは同情。
「ちなみに、ソウスケ氏とエメラルド姫は今どんな感じなんですか?」
プロポーズ騒動の実態に興味津々の職員が前のめりで聞く。
余談だが、A級ハンターの宗助がフォーチュナ劇場、エメラルの宝石姫にプロポーズしたことは、ハンターギルドだけではなく、辺境都市全体に広まっていた。
宗助と綾音は文通から始めることになったが、それだけで宗助が大人しく出来る訳ではない。現にひと騒動を起こしてくれた。それはまぁひとまず置いておこう。
宗助は文通だけではなく、フォーチュナ劇場、綾音に会いたいと熱烈に希望した。そんな宗助の希望に、綾音は拒まなかった。
しかし、フォーチュナ劇場の宝石姫である綾音は、色々と忙しい身だ。そんな綾音に毎日会いに行く訳にはいかないし、毎晩フォーチュナ劇場の客として行く訳にはいかない。
綾音の迷惑になることはしたくないと宗助は自重した。そこまでの常識はあったかとローランド達は安心した。
団長代理、コーデリアを交えた話し合いの結果、宗助がフォーチュナ劇場に訪れるのは三日に一回と決まった。ちなみにフォーチュナ劇場の客として訪れるのもカウントされる。
今のところ、個人的に宗助と綾音が会うことはなく、フォーチュナ劇場の客として宗助は訪れていた。フォーチュナ劇場の営業は夕方からだが、その前の時間帯から、フォーチュナ劇場の入り口前で待機する宗助の姿は、有名になりつつある。
余談だが、宗助がフォーチュナ劇場の裏手、寮に手紙を届けることはカウント外になっている。運がよければ、綾音に会えて世間話程度の会話が出来た。
「……ソウスケ氏って、その健気っていうか、粘着っていうか……」
「本人達が納得してるならいいんじゃないか。じゃないとユニコーンに蹴られるよ」
宗助の行動に引く職員、ニールはもう諦めた。




