歩く道に花は咲く
学園に正式な通達が届いたのは、それから一週間後のことだった。
あ
フェルク家とヴァルディア家の婚約は、双方合意のもとで解消された――
表向きは、そう記されている。
だが、事情を知る者は皆分かっていた。
これは“穏便な形を取った断罪”だと。
アルヴィン・フェルクは、教室で完全に孤立していた。
これまで彼を取り巻いていた友人たちは、いつの間にか距離を取り、話しかける者もいない。
かつて誇らしげに語っていた家柄も、今では重荷でしかなかった。
「……違うんだ」
すれ違いざま、彼はレイナに縋るような声を投げかけた。
「全部、俺が悪いわけじゃない。家が、周りが……」
レイナは足を止めた。
一瞬、胸の奥にかすかな痛みが走る。
けれどそれは、情ではなく、過去への名残だった。
「アルヴィン様」
静かに振り返り、はっきりと告げる。
「誰のせいかを考える前に、向き合うべきことがございますでしょう」
それ以上、言葉はなかった。
彼女はもう、説明を求めていない。
理解も、期待も、すでに手放していた。
一方、マリエ・ルフォールの転落は、より鮮烈だった。
「どういうことですの!? 話が違うではありませんか!」
学園の談話室で声を荒げる姿を、多くの生徒が目撃している。
「私はフェルク家に迎えられるはずだった!
この子だって――」
だが、周囲の視線は冷ややかだった。
彼女が“選ばれた存在”ではなく、
“問題の象徴”として見られていることに、マリエ自身が気づいていない。
貴族社会は残酷だ。
同情よりも、評価を優先する。
未婚で身籠ったこと。
それを誇示し、他者を踏みつけるように振る舞ったこと。
そのすべてが、彼女自身の首を絞めていた。
「……ルフォール家は、当面社交を控えるそうですわ」
囁かれる噂に、レイナは表情を変えなかった。
ただ、静かに受け止める。
そして迎えた、最後の場面。
婚約解消後の正式な挨拶の場で、レイナはフェルク家当主と向き合っていた。
「……息子の不始末、誠に申し訳ない」
深く頭を下げられ、彼女は一瞬戸惑う。
だが、すぐに背筋を伸ばした。
「いえ」
凛とした声で、はっきりと。
「学ばせていただきました。
自分の立場と、守るべきものを」
その言葉に、当主は静かに目を伏せた。
帰り道、学園の庭園を歩きながら、レイナは空を見上げた。
朝と同じ場所。
けれど、感じる空気はまるで違う。
もう視線を避ける必要はない。
花壇の脇を選ばずとも、堂々と歩ける。
「……大丈夫」
小さく呟いた言葉は、自分自身へのものだった。
控えめであることは、弱さではない。
黙っていたからといって、何も考えていなかったわけではない。
ただ、声を上げるべき時を、待っていただけ。
レイナ・ヴァルディアは、ゆっくりと前を向いた。
失ったものよりも、
これから選び取る未来のほうが、ずっと大切だと知ったから。
朝の光は、変わらず彼女を照らしている。
けれど今度は、
その中を、胸を張って歩いていける――。




