野外検証2
野外での検証を続けるにあたり、私たちは学園からさらに離れた場所を選んだ。
馬車で半日ほど。
なだらかな丘を越え、小さな村を抜けた先に広がる、湿り気を帯びた草原だ。
土地は柔らかく、水が近い。
薬草として名が付くほどではないが、生命力の強い植物が自然に根を張っている。
「……前とは、空気が違いますね」
馬車を降りたエドワードが、足元を確かめるように言った。
「ええ。息を吸うだけで、重さが分かります」
湿り気を含んだ風が、ゆっくりと頬を撫でる。
学園の庭園とは、まるで別の場所のようだった。
遠出になった分、無理はしない。
まずは、前回と同じ感覚を確かめるところから始める。
「……同じように、やってみましょうか」
「はい。焦らずに」
エドワードはそう言って、静かに背筋を伸ばした。
以前よりも、落ち着いている。
その変化に、私は気づいていた。
深く息を吸い、意識を整える。
前と同じ流れ。
同じ呼吸。
ただ、周囲に意識を向ける範囲だけを、ほんの少し広げた。
「……いきます」
声に出した合図は、それだけだった。
次の瞬間。
足元の草が、ぴたりと揺れを止めた。
風は吹いている。
それなのに、草だけが、何かに留められたように静止している。
「……今の」
エドワードが、小さく息を呑んだ。
草の先端に、淡い変化が現れる。
色が変わったわけではない。
けれど、光を含んだように、わずかに艶を帯びた。
「……」
エドワードは、その様子から目を離さなかった。
何かを確かめるように、ゆっくりと視線を巡らせてから、ぽつりと口を開く。
「もしかすると……ですが」
慎重な声音だった。
「魔導そのものが、何かを“生み出している”わけではないのかもしれません」
私は、そっと彼を見る。
「……どういうことですか?」
「集中した状態が、周囲の物質に影響している……そんな気がします」
言葉を選びながら、エドワードは続けた。
「草が変わったのではなく、草が本来持っている力が、ほんの少しだけ前に出てきたような……」
促進。
後押し。
そんな言葉が、頭の中に浮かぶ。
「確かに……今回は、前よりも自然でした」
「はい。力を“出そう”としたというより……整えた、という感覚に近いです」
エドワードは、少しだけ表情を緩めた。
「集中が深まるほど、成功しやすくなるのだとしたら……」
その先は、言葉にしなかった。
けれど、私にも分かる。
魔導は、特別な才能だけのものではないかもしれない。
感覚を研ぎ澄まし、心を整えた先に――誰もが触れられる領域がある。
ほんの入口に、私たちは立っている。
「……不思議ですね」
そう呟くと、エドワードは小さく頷いた。
「ええ。でも、怖くはありません」
その横顔は、穏やかだった。
まだ何も成し遂げていない。
それでも、確かに前へ進んでいる。
魔導研究は、少しずつ輪郭を帯び始めていた。
そして――。
この先に待つものが、奇跡であれ、責任であれ。
私たちは、もう目を逸らさない。
そんな静かな確信を胸に、草原を後にした。




