王宮からの招待状ーどう考えても無理ゲーですー
私がこの世界に転生してきて、早くも一ヶ月半が経とうとしていた。
最初は悪役令嬢として断罪される未来に怯え、
次に押し付けられたのは、アホと化した王子と、その甥の育児係。
でも、気づけばこの生活にも慣れてきていた。
わがままで子どもっぽいけど、懐いてくれるセピア王子。
天使のようにかわいくてしっかり者のリオ。
寡黙だけど絶対的な信頼を寄せてくれる執事ポアロ。
この4人での、どこか家庭じみた生活は――意外にも心地よかった。
そんな“日常”が、その日、突如として崩れた。
「──レビリア様。王宮より、招待状をお届けに参りました」
そう告げたのは、見知らぬ王宮の従者だった。
「……招待状?」
「はい。近日中に開かれる、王族主催のパーティーに関するものです」
「……あの、ちょっと待って?」
思わず私は、真顔で口を開いた。
「今のこの状況のセピア様がパーティーに参加できるとお思いなのですが、陛下は?」
言った直後、我ながらなかなかに失礼な発言だったなと思う。
だが、従者は顔色ひとつ変えず、淡々と答えた。
「陛下も……悩まれた末の決断でございます。
これは、王族が一同に集う正式な催し。第三王子であるセピア様も“出席が必要”と」
「……は?」
(いや、いやいやいや待って待って!?)
私は隣にいるセピアに視線をやる。
「レビリアすき〜♡」
「すきすき〜♡♡」
にっこにこ。花畑。世界平和。
──このテンションで王族のパーティー参加とか、どう考えても無理案件!!
(社交の場って、普通はドレスコード・礼儀・挨拶、全部求められるやつよね!?
セピア王子、最近までスプーン逆さに持ってたのよ!?!?)
私は額に手を当てながら、ぞっとした未来予想図を描いた。
王族主催の式典。
王族・貴族・各国の使節たちが一同に集まる中、
セピア王子が「おせんべ〜!」とか言って駆け出したりしたら――
断罪ENDどころじゃない。下手すれば戦争の火種よ!?
「レビリア様、準備はすぐにでも始めていただきたいとのことです。
セピア様の衣装など、追って届けられる手配になっておりますので」
(おい、服だけじゃ済まないってば!!)
「……わかりました。とりあえず、対応を考えます」
私は、従者が去った後も、しばらくその場から動けなかった。
……いやほんと、これはそろそろ誰か助けてください。
「レビリアた〜ん、おめかしするの〜? ぼくもする〜! ぼくも〜!」
セピアが私のドレスの裾をひっぱりながら、無邪気に笑っている。
「……お願いだから、パーティーの最中は“すき”とか“たん”とか封印して」
「えぇ〜……やだぁ〜〜……」
リオは隣で静かに「……おねえちゃん、がんばって」と目で訴えていた。




