2人きりの夜
蒸気の立ち込める浴室。
レビリアの包帯は外され、肩の大きな傷跡はほとんど塞がっているものの、まだ少し赤みが残っている。セピアは慎重に、優しく彼女の体に触れながら洗う。
「ふふ。セピア様はいつも優しいですわね」
「急にどうした?」
「だって、今も私の傷痕を気遣って優しく洗ってくれているのでしょう?ありがとうございます。記憶を失っている時も誰よりも優しくて、私は守りたいと思ったのですよ」
セピアは軽く笑みを浮かべ、レビリアの肩を指先でなぞるように触れる。
「レビリアは、記憶を失っていた時の阿呆な僕と、今の僕、どっちが好き?」
「え…?また急ですね…。でもどちらもセピア様であることは変わらないですわ。どちらも大好きです」
「じゃあ、もし僕がまた阿呆に戻ったとしても、そばにいてくれる?」
「ふふ、もちろんですよ…。どんなセピア様も、私にとっては一番ですから」
「ありがとう」
二人で湯船に身を沈めると、身体を密着させ、互いの体温を感じ合う。湯気の向こうで、レビリアがそっとセピアに抱きつく
「セピア様、好きですわ…」
「僕は…好きじゃない…」
「え…?」
「愛してる。好きじゃ言い表せないほど、レビリアを愛してる」
「セピア様…私も愛しています」
自然と口づけが交わされ、最初は軽く啄むようなキスが、次第に深く、唇と唇だけでなく、互いの想いまでも重ねるかのような深い口づけに変わっていく。
名残惜しそうに唇を離すと、セピアはレビリアを抱き上げる。バスタオルで優しく体を拭き、丁寧に包帯を巻き直す。
「セピア様、ありがとうございます」
「君のためなら、なんでもするさ」
湯上りのバスローブを身につけ、セピアはレビリアの髪を乾かす。指先で髪をなぞる度に、レビリアはうっとりした表情になる。
「セピア様の手は優しくて、眠たくなってしまいますわ…」
「君のためなら何だってしたい。髪を乾かすのだって、包帯を巻くのだって、全部僕がしたい」
「ありがとうございます」
***
二人の間に流れる時間は、日常の喧騒や王宮での緊張感を忘れさせるほどに甘く、濃密で、そして互いを深く想い合う夜となった。
夜の闇が窓を染める中、二人はベッドで向かい合ったまま、互いの温もりを確かめ合っていた。レビリアの体はまだ肩の傷跡が残っているが、セピアはその全てを優しく抱きしめ、触れる指先で愛情を伝える。
「セピア様…」レビリアの吐息がかかる距離で、彼女の胸は早鐘のように打つ。
「うん…大丈夫だよ、怖くない…僕がいる」セピアの声は低く、耳元に囁くように響く。
セピアはゆっくりとレビリアの髪に手を滑らせ、首筋へと唇を這わせる。息遣いを感じながら、レビリアは思わず身体を寄せ、両腕で彼を抱きしめる。
「君の温もりが欲しい…触れていたい…」セピアの翡翠の瞳は熱を帯び、彼女を見つめる。
指先が肩の傷跡に触れるたびに、セピアは囁くように言った。
「この傷跡も、君が僕やリオを守ってくれた証だ…愛しいよ」
レビリアは甘く息を漏らしながら、彼の胸に顔を埋める。
「セピア様…私も、セピア様をずっと守りたい…」
二人の体は密着し、熱とぬくもりが交わる。セピアの手が背中を滑り、腰を抱き寄せるたび、レビリアは震えるほどに身体を預ける。唇は何度も絡み合い、首筋や肩に唇を這わせながら、互いの鼓動を確かめるように、愛を深く刻む。
「僕は…君だけを愛してる…」
「私も…セピア様…愛しています…」
言葉にならない想いを唇と指先で重ね、夜は二人だけの世界に溶けていく。体のぬくもり、息遣い、指先の感触――全てが二人を結びつける唯一の証となった。
夜が更け、やがて静寂が戻る。レビリアは深い眠りに落ち、穏やかにすやすやと寝息を立てる。セピアは彼女の手をそっと握り、薬指に視線を移す。
慎重に、そして静かに、セピアは結婚指輪を彼女の薬指に滑り込ませる。指先が触れるたび、胸が高鳴る。
(起きたら君はどんな反応をするのかな…?これからどんなことがあろうと君と一緒なら乗り越えていける。まだ記憶が戻ってばかりで未熟だけど、君と生涯を共にしたい)
そう心に誓いながら、セピアは薬指の結婚指輪に優しく唇を落とし、そのまま自分の指と重ね合わせる。
互いの温もりを感じながら、二人は静かに、そして深く眠りについた。




